マーベルのイースターエッグ戦略/吉川秀幸

マーベル・スタジオの真価は、登場人物や筋立てや異世界に対する強い好奇心を喚起する点にあります。マーベルがつくり出す世界には、誰もが引き込まれる謎めいた魅力があり、観客は作品ごとに広がる世界観にみずから積極的に関わるようになります。

マーベルはさまざまな方法を使って、好奇心をかき立てます。まず、観客を共同製作者と見なし、ソーシャルメディア上のやり取りを通して間接的に働きかける方法があります。この手法の前身は、ファン層の拡大を後押しするためにマーベルが長年使ってきた伝統的な方法であり、その1つにはコミックの巻末に掲載されるファンレターのページがあります。ファンはこのページ上で自分の意見を公表することができ、製作側はファンの意見に答えることができます。ファブローなどの監督はこの伝統を引き継ぎ、ソーシャルメディア上でコミック作品の熱狂的ファン層と交流しながら、チャットルームや掲示板からひらめきを得ることが大事だと考えています。

マーベルが次回作への期待を煽るために、計画的に使う手法もあります。最新作に「イースターエッグ」と呼ばれる隠しメッセージを忍ばせることで、ネタばれを避けながら次回作をほのめかすのです。

その最たる例が、エンドロール後に映し出される有名なおまけシーンです。これが初めて投入されたのは『アイアンマン』でした。クレジットタイトル後に、サミュエル・L・ジャクソンが演じる諜報機関「S.H.I.E.L.D.」のニック・フューリー司令官が現れ、アイアンマンが最強のヒーローを集めた作品にも登場することを匂わせました。また、筋金入りのファンでなければ気づかないような要素やヒントをスクリーン上にちらつかせることもあれば、複数の作品をまたいでストーリーが展開されたり、キャラクターが生まれたりすることもあります。

たとえば、19番目の作品に頻繁に登場する武器「インフィニティ・ガントレット」は、4作目に当たる『マイティ・ソー』の背景にも登場しています。同じく重要な武器である「リビング・トリビューナルの杖」は『ドクター・ストレンジ』でさりげなく紹介され、「リビング・トリビューナル」という新キャラクターが次回作以降に現れることを予言しています。『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』では、黒板いっぱいに書かれた数式が登場すしますが、これはコミック作品の中で、ドクター・ストレンジがインクレディブル・ハルクを陥れることを示唆するシーンの1つであり、予想外の展開をにじませています。

これ以外にも、コミック作品の熱狂的ファン向けにシリーズ内外の映画をほのめかす無数のヒントが、ある時は大っぴらに、ある時はひっそりと仕込まれています。評論家やコメンテーターは、その中から目立つものを素早く拾い上げます。

たとえば、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』では『レイダース/失われたアーク』『マルタの鷹』『スター・ウォーズ』に触発されたと思われる場面があり、『ブラックパンサー』では『007』シリーズ作品を匂わせる場面が数多く登場します。

熱烈なファンには数々のブログや特別サイトが用意されており、作品との絆をさらに深めることができます。そうしたサイトは、『ブラックパンサー』だけでも数十に上ります。

そこでは、ありとあらゆる点が取り上げられます。たとえば、コミック本の原画から、『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』に登場していた、靴ひもの自動調整機能付きスニーカーを明らかに下敷きにした場面、アフリカの文化の暗示、冒頭シーンのオークランドの意味(ライアン・クーグラー監督の出身地であり、黒人解放運動を展開していたブラックパンサー党が結成された土地でもある)、さらにはウェールズの独立やメキシコ国境に壁を建設するトランプ大統領の計画に対するそれとない(あるいは明らかな)意思表示に至るまで、多種多様な点について意見が飛び交っています。

他の企業も、謎めいた雰囲気や好奇心を高めてイノベーションの世界を拡大しています。イースターエッグという趣向は、1979年にリリースされたビデオゲーム「アドベンチャー」で始まり、それ以来、他のビデオゲームやコミック、家庭向け娯楽メディア、ソフトウェア製品にも広がった。グーグルはこの仕組みを利用して従業員の遊び心を刺激し、最近では検索エンジンのサービス開始20周年を記念して、郷愁を誘うイースターエッグをいくつか導入しています。

吉川秀幸

参考サイト:http://www.laismp.com/en/campus.html