クライアントと共に、デイサービスでのヒアリングとUX評価を通して、楽しく取り組める脳トレ体験を設計しました
思い出を旅するバーチャル観光」は、デイサービス利用者が観光地を巡る体験を通して、過去の記憶を思い出し、他の利用者と会話できるようにするレクリエーションコンテンツです。
デイサービス内で使える、観光型のコンテンツを作りたいというご依頼を受け、ストーリー形式で観光地を巡れるコンテンツとシステム構成をご提案させていただきました。
この制作では、デイサービスの現場で実際に使える現実味を重視しました。クライアント様のご協力のもと、現場関係者へのヒアリング、施設理解、試作へのフィードバック、ユーザー検証を繰り返しながら、体験の方向性とシステム要件を整理を行いながら進めていきました。
現場の声から、設計要件を整理する
施設の利用者の方に旅行についてのイメージや施設での過ごし方、普段の生活の様子などをヒアリングさせていただきました。
初期段階では、バーチャル観光というアイデアがデイサービスの集団レクリエーションとして成立するかを検討するため、簡易的なプロトタイプを用いて関係者と協議しました。
その中で、地域性のある観光地が望ましいこと、同じ内容の繰り返しでは飽きられやすいこと、職員の準備や進行の負担を増やさないことが重要だと分かりました。
また、施設見学を通して、利用者は80〜90代が中心でありながら比較的元気で会話が成立すること、幼稚に見える内容は敬遠されやすいこと、単なる鑑賞ではなく知的に関与できる体験が求められることも把握しました。
これらを踏まえ、以下のような設計方針を整理しました。
- 地域性や多様性のある観光体験にすること
- 集団利用の中で自然に会話が生まれること
- 幼稚にならず、知的な関与を感じられること
- 職員の運用負担を増やさないこと
- 活動の意義を説明できる体験構造にすること
「見るだけ」ではなく、会話が生まれる体験へ
クライアントからは紙芝居形式で画像のみで観光地を見せることをご提案いただきました。その案に沿わせながら、ユーザースタディを進めていく中で、ただ映像を提示するだけでは会話が十分に生まれにくいことが見えてきました。そこで、観光スポットの見たい場所を自由に見て回れる形式を提案させていただき、体験全体を「見る・考える・話す・懐かしむ」という流れで設計しました。
ストリートビューで観光地を巡りながら、途中でトリビアやクイズ、問いかけを提示します。利用者が「昔行ったことがある」「この場所に似たところを知っている」と話し始められるように、映像・情報・問いの出し方を調整しました。
観光地を紹介するコンテンツではなく、観光をきっかけに記憶や会話を引き出す体験として設計したことが、この制作の重要なポイントです。
コンテンツフロー
ストリートビューとクイズを組み合わせ、観光をきっかけに記憶や会話が生まれる体験を設計しました
試作、フィードバック、改善を繰り返す
制作では、完成形を最初から決めるのではなく、試作とフィードバックを繰り返しながら体験を具体化していきました。
初期段階では、紙芝居形式の簡易プロトタイプで、バーチャル観光がデイサービスのレクリエーションとして成立するかを確認しました。その後、ストリートビュー、トリビア、クイズを組み込み、ただ映像を見るだけでなく、利用者同士の会話や回想が生まれる構成へと改善しました。
また、体験内容だけでなく、操作インターフェースの設計にも取り組みました。デイサービスの現場では、利用者が迷わず扱えることに加えて、職員が説明しやすく、集団レクリエーションの進行を止めないことが重要です。そのため、画面上の操作だけで完結させるのではなく、専用コントローラーを用いた操作方法を検討しました。
コントローラーでは、ボタンの数や配置、持ちやすさ、押したときの分かりやすさを確認しながら改善しました。高齢の利用者でも直感的に操作できるように、操作をできるだけ単純化し、ユーザーにとって難しいそうという抵抗感をなくすことを意識しました。単なる入力装置ではなく、体験全体をスムーズに進めるためのインターフェースとして設計しました。
ユーザー検証では、画面の見やすさ、説明の長さ、クイズの難易度、会話が生まれるタイミングに加えて、操作のしやすさや進行のしやすさも確認しました。検証を通して、馴染みのある地域や場所の方が回想につながりやすいことが分かり、地域に合わせてコンテンツを作成・拡張できる構成も取り入れました。
コンテンツ、操作インターフェース、現場での運用方法を並行して改善しながら、デイサービスで実際に使える体験へ近づけていきました。
コントローラーについては、ボタンの配置や持ちやすさ、操作の分かりやすさを確認しながら改善を重ねました。利用者が迷わず操作できること、職員が説明しやすいこと、集団レクリエーションの流れを止めないことを意識しました。
クライアントワークとして意識したこと
〜 丁寧なヒアリングと足を運ぶことを通した課題解決 〜
この制作で大切にしたのは、自分が面白いと思うものを作るだけでなく、現場で無理なく使える形にすることです。
デイサービスのレクリエーションは、利用者が楽しめるだけでなく、職員が準備しやすく、進行しやすく、継続して実施できる必要があります。そのため、体験の面白さと運用負担の低さを両立させることを意識しました。
また、関係者の要望をそのまま機能にするのではなく、「なぜその要望が出ているのか」という視点を大切にしました。関係者へのヒアリングに加え、実際に現場へ足を運んで利用者や職員の様子を観察し、クライアント自身も明確には言語化できていない課題や違和感を探りました。
そのうえで、クライアントの意見をベースにしながら、これまで見えてこなかった課題も含めて整理し、認知症予防の脳トレという「楽しく取り組みにくい活動」を、楽しみながら参加できる体験へ作り変えることを提案しました。そして、その提案をコンテンツ設計やシステム構成として具体化しました
この制作で伝えたいこと
私は、ユーザーや現場へのヒアリングから課題を整理し、それを体験設計やシステム実装に落とし込むことができます。
このプロジェクトでは、現場理解、要件整理、プロトタイピング、UX評価、改善、実装までを一貫して行いました。
企画と実装のどちらか一方ではなく、両方を行き来しながら、現場で使われる体験をつくることが可能です。
今後は、企画者・デザイナー・エンジニアの間に立ち、アイデアを実現可能な形に翻訳するテクニカルディレクター / UXデザイナーとして成長していきたいです。