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JTCのカルチャーを変えた役員の教え

前職の日本政策金融公庫で初めて本店に配属されたとき、めちゃくちゃ緊張してたんですよね。半沢直樹よろしく、金融機関の本店って魑魅魍魎が集う伏魔殿みたいなところで、他部署の上司に対して軽々しく話しかけられるような雰囲気もない感じで、本店に配属されてすぐの時はそのピリピリした空気に圧倒されてました。周りの人がみんな雲上人のように感じて自分なんかがここにいていいのかなって思いながら委縮して過ごしてました。

で、そんなときに部門全体の100人くらいでの歓迎会があったんですよ。席について乾杯もそこそこに、案の定周りの先輩から「役員のところにあいさつに行って来い」って背突かれるわけです。金融機関の役員なんていうともう神レベルの存在の人なので「嫌だなあ、偉い人のところいって粗相したらクビになっちゃう」とかって思いながら、さすがに挨拶に行かないわけにもいかないので、当時の直属の役員だった宗友さんって人のところへお酌しに行ったんです。「ご挨拶させていただいても良いでしょうか」って。 そしたらその役員の宗友さん「石川君だよね。」「浜松と千葉はどうだった?楽しかった?」って色々聞いてくれるんです。新しく本店に配属される人なんて毎年山のようにいて全員の名前を覚えるのすら困難を極めるだろうに、自分のキャリアまで細かく把握しててくださってた。ああこの人は、自分のことを一人の人間として認めてくれて、居場所を作ってくれてるんだなって実感して、涙が出るほど嬉しかったのを覚えてます。

そんな宗友さんがその時の挨拶で言っていたのが「僕らの部門ではお互い『さん』で呼び合いましょう」ということだった。権力が猛威を振るう金融機関の本店で「さん」付けで呼び合おうなんて当時の職場的には異例のことだったらしく、「そんなこと言ってもさん付けで呼んだら気分を害する人もいるだろう」って忖度をしてその後も呼び方を変えない人も多かったんですよね。 だけど純真無垢な本店ルーキーだった僕は、言われるがまま愚直に「さん」づけし始めたんですよね。周りはギョッとしたりもしてたけど、忠実にその言葉を信じて相手が誰だろうと「さん」付けを続けてた。すると、少しずつ自分の心にも変化が表れていって、今まで役職名やキャリアでしか認識できず畏怖の対象だった人たちのことを「さん」づけで呼んでみると、その人がひとりの人間だっていう解像度が一気に高まっていくんですよね。相手はただの人間じゃないかって。部長だって課長だって、会社を一歩出れば普通のおじさんで、帰路で最寄り駅前のマックでシェイクでも買って飲んでるかもしれないし、家ではユニクロのステテコとかはいてゴロゴロしてるかもしれない。そう思うとなんか不必要に役職とかに囚われて勝手に壁を作ってたのが馬鹿らしいなって思えたんですよね。そうやって相手を生々しい一人の人間だって認識を重ねていくと好きな人も増えていって、あんなに委縮してて怖い怖いと思っていた職場がすごく楽しくなってたんですよね。

きっと、宗友さんは、閉鎖的で封建的な金融機関のカルチャーを変えたかったんだろうな。役職とかキャリアばかりでみんな人を評価したり忖度する世界で、まずは人間性に立脚して、人と人との関係性を大事にしてほしいと思ってたんだろうなと思う。少なくとも、僕は宗友さんのその言葉に救われたし、人としても大きく変わることができた。会社だからって不必要に仮面を被る必要なんてなくって、役職も立場も関係なく、みんなでより良い社会をつくることだけにフォーカスして仕事した方が楽しいよね。僕が会社の中での「さん」づけにこだわる原体験はこんなところにあります、という話でした。