「これまでの日本の住宅の在り方」と「これからの日本の住宅の在り方」
今回「これまでの日本の住宅の在り方」と「これからの日本の住宅の在り方」を論述するにあたって、日本人の住宅の在り方を知るために「10宅論」を選定した。この書籍は日本人とその人が住む住宅を結び付けて大きく10種類に分類してそれぞれについて述べている。まさに日本人、日本住宅の在り方を知るにはピッタリの本である。次に「これからの日本住宅の在り方」を論述する上でキーワードになると考えたリノベーションについて書かれた「最高に気持ちいい住まいのリノベーション図鑑」、共にキーワードとなる快適な空間、エコハウスの「新潟信濃町の家」を選定した。最後に「小石川の住宅」について、COVID-19の影響により住宅で過ごす時間が多くなった現在において、快適性、ワ―キングプレイス、増築など竣工から65年たった今、これからの住宅の在り方を提案する多くのヒントがあると考えたので選定した。
概要 ・小石川の住宅
1955年に建築家 林 昌二、雅子夫妻の自邸として建てられた住宅。その後生活
変化に合わせて増改築が繰り返された。現在、林夫妻は亡くなられており林 昌二さんの後輩である安田幸一さん一家が引き継いでいる。斜線を通すことによる庭を楽しむ空間設計や、色による空間設計など様々な工夫が凝らされた建築。
・新潟信濃町の家
日本有数の多雪地帯、新潟県新潟市に建つ木造エコハウス。世界初搭載となる複層ガラス「スーパーパッシブガラス」により高い断熱性を可能とした。また、高い断熱性により、大きな開口部を開けることを可能とし高いデザイン性も実現。暖房は費用対効果が高い床下エアコン暖房。エコハウス・アワード2016大賞受賞。施工会社オーガニックスタジオ新潟株式会社。竣工2011年12月。
・10宅論
日本人をワンルームマンション派、清里ペンション派、カフェバー派、ハビタ派、アーキテクト派、住宅展示場派、建売住宅派、クラブ派、料亭派、歴史的家屋派の10種類に分類して、住人の特徴を住宅とともに述べている。
・最高に気持ちいい住まいのリノベーション図鑑
リノベーションについて部材、収納、間取り、敷地、環境、構造に分けて実際の施工例の写真、平面図、断面図、ダイアグラムなどとともに解説されている。
COVID-19の影響により外出自粛やStay Homeなどのキーワードの流行からわかるように自宅で時間を過ごすことが増えた現在、在宅ワークより突如自宅が職場化し、この現象に対応できず、ZOOM会議中に子どもが映り込むことが話題になったように、本来離れた存在である職場に家庭が入り込むという奇妙な現象も起こっている。そのため住宅内に、職場としての空間を確保する必要性が出てきているように、環境が目まぐるしく変化していくことが今後いつ、どのように起こるかはわからない。そのような環境の変化が起きた際に、空間の可変性を可能とする住宅がこれからの日本には必要だと考える。
まず住宅において「10宅論」を読むと住宅は大きく分けて日常空間と非日常空間があることが分かる。「10宅論」ではもてなす空間や生活臭のしない非日常空間を「ハレ」、生活臭や家族感がする日常空間を「ケ」として「ハレとケ」で表現していて、日本人は「ケ」を出したい人もいれば、「ケ」を出したくない人もいることが分かる。そこで「ケ」を前面に押し出す人もいれば、「ケ」を隠す人、または1階を「ハレ」、2階を「ケ」の空間にするなどしっかりと「ハレとケ」の空間を分けていることがわかった。しかし先ほども述べたようにCOVID-19の影響により在宅ワークなどの影響で突如として生活感あふれる住宅が職場となるような事態が起こりえる可能性がある。書斎などの仕事として利用できる部屋をもともと持っている人はいいが、持っていない人はベッドが置いてある、家族いる賑やかな空間、漫画やテレビやゲーム機など自分が生活している空間に突如ほうりだされるわけである。これは「ハレとケ」の関係で表すと、職場という非日常の「ハレ」の空間が日常あふれる「ケ」の空間に突如食い込んでくるといえる。家族は仕事をしている人がいるのでしゃべり声や物音を立てづらく、仕事をしている人からすれば、誘惑や家族が周りにいる環境で集中しづらくお互いにとても適した関係とは言えないだろう。このような時、住宅に必要なのは、「ハレとケ」のメリハリがついた空間分けなのである。壁を新しく作って空間を仕切るのも1つの手法だが、壁で分断されてしまうと広い空間が欲しくなった際、必要となった際にまた壊さないといけない。そのようなことにならないような解決策として可変性のあるもので空間を区切るという方法がある。最高に気持ちいい住まいのリノベーション図鑑では回転板を利用して生活シーンを切り替えるという事例が紹介されている。回転板を回転させることにより、区切って職場としての「ハレ」の空間を造り出すこと、開いて開放的な「ケ」の空間を造り出すことができ、必要に応じ「ハレ」と「ケ」を切り替えることができる。簡易的な方法として棚などを置いて空間に区別をつけることも紹介されている。棚が壁となり空間を遮る役割をし「ハレとケ」の関係を成り立たせ、空間を大きく使いたくなったら壁側に設置することで空間を大きく取れる。カーテンなどで遮ってみるのもいいだろう。区切る場合にはカーテンを広げて、大きく利用したいときには畳めばいい。目線を遮ることにより空間を区切り新しい空間が造り出されるだろう。「小石川の住宅」は増築した2階部分に仕事部屋がある。増築部分には仕事場があり仕事ができる「ハレ」を造り出したともいえるが、他にも「ハレとケ」の関係を完成させるため様々な工夫が凝らされている。ヘッダー画像は増築した2階部分である。屋根裏部屋のゆったりとした「ケ」の空間、右側が仕事部屋の「ハレ」の空間がある。まず目に入ってくるのが真っ赤な屋根裏空間と真っ白な仕事部屋の関係。そして天井、床高の違い。これら極端な色味の変化と大きな高低差により、空間の「ハレとケ」のメリハリを実現している。だがこれだけではない。そして仕事部屋と屋根裏部屋の間を見ると、障子が設置されていることがわかる。日本人には見慣れた障子であるがこれこそ日本が生み出し、古くから親しまれた環境変化に適応した可変性のある空間に変化を生む知識なのである。日本では、襖や障子により時には内外を区切ったり、閉じることにより空間を閉じ込めたり、大規模に開放したりなどして環境の変化や「ハレ」、「ケ」の空間づくりを行ってきた。しかし住宅の西洋化が進むにつれドアが主流となり障子や襖などの可変性ある知恵による空間の多様性が失われてきた。そして空間の「ハレとケ」の変化が求められる現在こそ必要な存在である。
今まで空間の「ハレとケ」を実現、変化させる重要性や変化について述べてきたが、実現させるためにはさらに環境という問題が残っている。今の時代、エアコンが必須であるため各部屋に一台ずつというのが一般的である。そのため例えば夏の猛暑日、職場としての「ハレ」の空間を回転板で区切ったとしてもエアコンがついていないがため、壁や窓から熱が伝わり空間が高温になりとても仕事ができる環境ではないのではまるで意味がない。そこでヒントとなるのが断熱性である。「新潟信濃町の家」は、日本海側の日射が少ない寒冷な地域に建つ住宅である。このような地域に建ちながら暖房は床下エアコンで、大きな開口部を確保しており、驚くべきは大手メーカーの標準プランで東京に住宅を建てた場合の暖房負荷が80-90kWhなのに対し「新潟信濃町の家」は18.7kWhである。これほどの環境にありながら開口部の確保や床下エアコンで省エネを実現できている理由はカーテンウォールと複層ガラス「スーパーパッシブガラス」である。これらは高い断熱性を持っているため省エネを実現できているのである。断熱性を出すには断熱性の高い断熱材やサッシにすることなどでも可能だ。そして断熱性が高いことで冷暖房が少なくすみ、より自由な可変性ある住宅を造り出すことができる。
これまで「ハレとケ」のメリハリの重要性、空間を区切る方法、実現するための快適な空間造りについて述べてきた。斬新なアイディアや新しい技術もあれば、昔からの知恵や手軽にできそうなものまで多種多様であった。最初に環境の変化に対応するために空間の可変性を可能とする住宅がこれからの日本には必要だと述べたが、元々日本の住宅で行われてきたことである。しかし、文化の流入により日本の住宅の知恵が薄れていたことは間違いない。文化の流入が悪いと言っているわけではない。新しい技術やアイディアをとりいれることは大きな進歩につながる。渋谷にできたガラス張りの「透明トイレ」の技術を住宅に取り入れることもできるだろうし、水を天井から流すことによる空間の区切り方など今では考えられない手法が一般的になる日も遠くないかもしれない。今までの長い時を経て培った知識を頭に入れながら、新しい可能性にむかって探求していく姿勢こそ、これからの日本の住宅に必要な在り方といえるだろう。
参考文献
・10宅論(文庫版)/隈研吾/1990年2月27日発行/ちくま文庫/筑摩書房
・最高に気持ちいい住まいのリノベーション図鑑/HEAD研究会リノベ図鑑制作委員会/2012年6月30日発行/エックスナレッジ株式会社
・新潟信濃町の家( https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_00473/ )
・新潟信濃町の家( https://www.nisikata.co.jp/works_house/133/ )
・新潟信濃町の家( http://award.passivehouse-japan.org/2016/entries/PEA1621.html )
・小石川の住宅( http://modernliving.jp/shimizu/ml250_hayashi_shoji_20200603 )
・小石川の住宅( http://www.yasudaatelier.com/architect/archi_13_01.html )