IT導入補助金で作ったホームページが「負の遺産」になる理由
近年、IT導入補助金や小規模企業持続化補助金を活用して、ホームページやECサイト、予約システム、動画、パンフレットなどを制作する企業が増えています。
補助金を活用して事業を前に進めること自体は、とても良いことだと思います。
一方で、数年後にその制作物を見てみると、
「更新されていない。」
「ログイン情報が分からない。」
「担当者が退職して誰も触れない。」
「元データが見つからない。」
「制作会社とも連絡が取れない。」
そんな状態になっているケースも少なくありません。
私は、このような場面に出会うたびに思います。
問題は制作物ではなく、運用の構造にある。
制作物は悪くありません
ホームページが悪いわけではありません。
動画が悪いわけでもありません。
予約システムや顧客管理ツールが悪いわけでもありません。
多くの場合、制作会社は依頼されたものをしっかり作っています。
それでも使われなくなるのは、
「誰が運用するのか」
が決まっていないからです。
作ることがゴールになっていませんか
補助金には申請期限があります。
そのため、
「ホームページを公開する」
「動画を完成させる」
「システムを導入する」
ことが一つのゴールになりやすい側面があります。
本来、IT導入補助金や小規模企業持続化補助金は、販路開拓やDX推進など、事業を前に進めるために活用する制度です。
しかし現場では、
「補助金を活用するならホームページを作ろう。」
「補助対象となる制作物をこの機会に整備しよう。」
と、制作すること自体が目的になってしまうケースも見受けられます。
本来は事業課題を解決するための手段だったはずが、制作物を作ることがゴールになってしまう。
その結果、運用されないホームページや更新されないシステムが残り、数年後には「負の遺産」になってしまうことがあります。
会社にとって本当のスタートは、制作物が納品された後です。
更新する人は誰なのか。
問い合わせは誰が対応するのか。
ログイン情報はどこで管理するのか。
担当者が異動したらどうするのか。
そこまで決まって初めて、制作物は会社の資産になります。
制作物より運用設計
私は制作物よりも先に、「運用する担当者は決まっていますか」と確認します。
ホームページも、動画も、システムも、作ることより運用を続けられる体制の方が重要だからです。
さらに、その担当者が異動・退職しても引き継げる状態になっているかも確認します。
外部へ委託することと、社内の責任を手放すことは違います。
運用を支える構造があって初めて、制作物は会社の資産として活き続ける。
そう考えています。
さらに、
・更新ルールはあるか
・パスワード管理はできているか
・担当者が変わった時の引継ぎ方法はあるか
・制作会社との連絡窓口は一本化されているか
こうした点を確認します。
なぜなら、どれだけ立派な制作物でも、運用できなければ長く活用できないからです。
会社は人事異動もあります。
退職もあります。
組織は変化し続けます。
だからこそ、人が変わることを前提に仕組みを設計しておく必要があります。
制作会社の仕事、会社の仕事
制作会社は「作るプロ」です。
一方で、運用するのは会社です。
制作会社が更新担当者を決めることはできません。
もちろん、運用や保守を制作会社や外部業者へ委託すること自体は、決して悪いことではありません。
むしろ専門家へ任せた方が、品質やセキュリティの面でも安心できるケースは多くあります。
ただし、「何を更新するのか」「どのタイミングで依頼するのか」を判断するのは会社です。
ディレクションや作業指示まで外部へ丸投げすることはできません。
更新内容を決める人。
承認する人。
制作会社へ依頼する人。
こうした役割が社内で決まっていなければ、制作物は次第に更新されなくなってしまいます。
だから私は、制作会社の責任でも、補助金制度の問題でもないと思っています。
制作物を会社の資産として育てるかどうかは、運用設計にかかっています。
私が構造を見る理由
私は補助金を否定したいわけではありません。
むしろ、事業を前に進めるための素晴らしい制度だと思っています。
だからこそ、
「何を作るか。」
だけではなく、
「誰が運用するのか。」
「担当者が変わっても続けられるのか。」
という視点まで考えることが大切だと思っています。
ホームページも、動画も、マニュアルも、システムも。
完成した瞬間がゴールではありません。
運用が始まってからが、本当のスタートです。
制作物は完成すれば資産になるのではありません。
運用され続けて初めて、会社の資産になるのだと私は考えています。
作ることではなく、育てること。
それが、私の考える「構造設計」です。