人生には、誰にでも「引き際」がある。
それは仕事かもしれない。
役職かもしれない。
あるいは、一つの夢かもしれない。
私が「引き際」というものを初めて強く意識したのは、父の定年退職の日だった。
最後の出勤となる朝。
玄関先で父は、母に向かってこう言った。
「今日まで頑張ってこられたのは、母さんのおかげだ。本当にありがとう。」
それまで、そんな言葉を口にしたことがなかった父だった。
突然の言葉に、私は驚いた。
母はその場で泣き崩れ、何度も何度も父への感謝の気持ちを口にしていた。
その朝、私は会社に遅刻した。
しかし、人生でたった一度しか訪れない、その神聖な瞬間に立ち会えたことを、今でも心から良かったと思っている。
そして、父を誇りに思っている。
人生の引き際や転機は、
予定どおりに訪れることもあれば、
ある日突然やってくることもある。
そこには、
未練もある。
執着もある。
これまで積み重ねてきた時間への思いもある。
だからこそ、引き際に正解などない。
人それぞれ、その人だけの答えがある。
ただ、一つだけ言えることがある。
引き際とは、過去を終わらせることではない。
次の人生へ進むための決断である。
私は、一度自分で決めた引き際は、大切にしたいと思っている。
その時が来たなら、
感謝を伝え、
けじめをつけ、
胸を張って次の一歩を踏み出したい。
だからこそ、その引き際だけは、美しくありたいと思っている。
人生は、
始め方よりも、
終わり方の方が難しい。
だから私は、
その時が来たなら、
感謝を伝え、
胸を張って、
次の一歩を踏み出したい。
引き際とは、
過去を終わらせることではない。
次の人生を始めるための、
決断なのである。