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老音楽家の復活劇/長坂祐輔

映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(1999年)は、キューバの老音楽家が再び表舞台に登場し、音楽の殿堂カーネギー・ホールで公演を開くまでを描いたドキュメンタリー(実録映画)です。奇跡的な復活劇と音楽が高年齢層から若者まで感動を呼びました。

「キューバのナット・キング・コール」といわれるボーカルのフェレールが73歳、同じくボーカルのポルトゥオンドは69歳、ピアノのゴンザレスは80歳。メンバーのほとんどはキューバ音楽界の大物ですが、映画のプロデューサーを務めた米ギタリスト、ライ・クーダーに“再発見”されるまでは不遇の時を過ごしていました。

首都ハバナをはじめキューバの素顔が随所に出てきますが、その情景を見ながら歌や演奏を聴くのが実に楽しいです。

ヴィム・ヴェンダース監督はステディカムで撮影して彼らの自然な表情を引き出し、客観的にとらえることで音楽そのものの素晴らしさを伝えることに成功しています。

ヴェンダース監督を刺激したのは20年来の友人でブリティッシュロックの異端ギタリスト、ライ・クーダーです。クーダーがプロデュースした映画と同タイトルのアルバムを聞きキューバに向かいました。

ソロアルバムをレコーディングしていた黄金の声の持ち主イブラハム・フェレールは長い不遇の時代から再び歌うことの喜びを全身で表しています。ルベーン・ゴンザレスは「関節炎で10年間ピアノをひけなかった」とジョークで振り返っています。そんな過去の人々がブランクを全く感じさせずに珠玉のステージを米カーネギーホールで爆発させました。

映画全編からは、ミュージシャンたちとその音楽が持つ普遍性と、アイデンティティーはあくまでキューバだということが感じ取れます。