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フランスの教育思想/相山武靖

フランスの学校教育では、自分の国の文化に人間的な普遍性が含まれているという信念が植え付けられます。

これは、16世紀のモンテーニュ時代から現在までしっかり根付いている考え方だといえます。

ルネサンス期の思想家・モンテーニュ

フランス思想化ミシェル・ド・モンテーニュ(1533~1592年)は中世と近代の間の動乱期に生きました。ルネサンス期を代表する思想家です。

西南フランスのボルドーにあるその城館の塔三階にある書斎で、有名な「エセー」を執筆しました。

宗教戦争終結のために行動

16世紀というと、サン・バルテルミーの虐殺などに象徴されるように、王権もからんで宗教戦争が激しかった時代です。

普遍的な宗教を意味するカトリックの教会が生活の隅々までおさえていました。

これに抗議するプロテスタントとの間で対立が激化しました。

モンテーニュは宗教的共存の道があるはずだと考え、和平のため政治的にも行動しました。

死後ではありますが、彼が期待をかけていたアンリ四世による「ナントの勅令」で宗教戦争は終わりました。

偉大さよりも平凡な生活

16世紀はギリシャ、ローマの古典に対する、教会の制約も薄れてきました。

これらの古典に親しんだモンテーニュは、自由に思索を試み、「エセー」の最後には、中世の哲学を否定しました。

そして、偉大さよりも普通の平凡な生活に人間の価値を置きました。

堀田善衛氏「波風立てずにスルリ」

ちなみに、モンテーニュに関する研究本を執筆した小説家の故・堀田善衛(よしえ)は生前、次のように語っていました。

「時勢に対して正面切って戦う人もいるが、モンテーニュのように静かに波風立てずにスルリと抜けていくのも人間の生き方。カルバンはカトリックと戦うため、結局ジュネーブを警察国家のようにしてしまう。人間は自由を求めて警察国家を組織するといったのはドストエフスキーだが、資本主義と戦うための社会主義も同じだった。戦うのと同じく、待つということは大事な『人性』ではないか」

エリート教育

フランスのエリートは、哲学重視で「正解のない試験問題」という試練を与える教育で鍛錬された後に、一人前の「デシドゥール」(当意即妙の意思決定者)として若くして政財界のトップの座につきます。この点、日本の無階級的な社会の「マス・エリート」とは教育面でも大きな違いがあります。


相山武靖