お爺さんの町工場の話
先日うちの実家で撮影があった。
久しぶりに実写の撮影だったのでとても楽しかった。
撮影シーンは先代から事業を継承して頑張って切磋琢磨している若い男のカット。
僕は先代から事業を継承しなかったけどこのガレージにいて思い出した事があった。
いつもお爺さんは作業帽と軍手をしていて手は油だらけだった。
ポマードと鉱物油がお爺さんの匂いだった。
ツンとする匂いのキツい芳香剤の匂いが充満したライトバンに工具を積んでいつも仕事に出掛けていた。
疲れて帰ったお爺さんは居間で壁を背もたれにして眠っていた。
お爺さんの肩を揉んでやると嬉しそうだった。
一緒に風呂に入って背中を流してやるともっと嬉しそうだった。
そしたら翌日か週末あたりはお得意さんの方南町の金寿司に連れて行ってくれた。
金寿司の板さんは強面で自分で注文するのが怖かったから必ずお爺さん経由で注文をしてもらっていた。
子供の頃おもちゃになる物はこの家には沢山あった。
工具や廃材で何かを作ったり、お爺さんの仕事のマネをして遊んでいた。
工具に触るとよくお爺さんに怒られたけど僕は反抗して触り続けていた覚えがある。
そしてお婆さんが作った美味しいご飯を食べる。
母親はパートに出ていたから母親の手料理よりお婆さんが作ってくれた味が記憶にある子供時代の味。
南瓜のクリーム煮。
小松菜と油揚げの卵とじ。
これは美味しくて未だに鮮明に覚えていて僕が作る料理でも自信作の一つ。
お婆さんの味を再現出来ているから母親に食べさせると好きだった母を思い出してかたまに涙を浮かべて喜んで食べてくれる。
母親にとってのお母さんは僕のお婆さんなのだから。
作業場の匂いを嗅ぐとお爺さんに染み付いた匂いを思い出す。
そこから家族の話が浮かんできた。
実家は戦後の高度経済成長を支えた笹塚の町工場。
僕はこの町工場で育ちました。