監査に耐える在庫管理は、決算期だけでは作れない
監査法人から棚卸資産について質問を受けてから、必要な資料を集め始める会社もあります。
しかし、在庫の実在性、所有関係、計上時期、評価の妥当性を、決算後に一から整理して説明することは簡単ではありません。
決算日現在の残高を説明するためには、その残高がどのような取引や業務処理を経て作られたのかを確認する必要があります。
月中の入出庫記録、販売・購買データ、棚卸差異、移動中在庫、返品、廃棄、評価減などが適切に管理されていなければ、期末時点だけを見ても正しい残高であることを説明できない場合があります。
そのため、監査に耐えられる在庫管理を作るには、決算期だけの特別対応ではなく、月次から継続できる運用が必要です。
例えば、次のような仕組みが考えられます。
- 在庫明細と会計帳簿を毎月照合する
- 保管場所別・商品別の残高を確認する
- マイナス在庫を定期的に抽出する
- 長期間動きのない在庫を確認する
- 棚卸差異と修正理由を記録する
- 入出庫日と仕入・売上計上日を確認する
- 返品、廃棄、値下げ対象品を区分して管理する
- 評価減の要否を定期的に検討する
- 作成者とは別の担当者がレビューする
- 修正後に問題が解消したかをフォローする
こうした運用を毎月行っていれば、期末に突然大量の差異が見つかるリスクを抑えることができます。
また、監査法人対応で重要なのは、最終的な数字が一致していることだけではありません。
監査法人は、
- 在庫明細がどのシステムから抽出されたのか
- 抽出対象や条件は適切か
- データが会計帳簿と一致しているか
- Excel等でどのような加工を行ったのか
- 差異について誰が調査したのか
- 誰が修正内容をレビューしたのか
- 調査・承認の証跡が残っているか
といった点も確認します。
会社側では「数字が合っているから問題ない」と考えていても、監査法人側では、その数字が正しく作成されたことを裏付ける証拠が必要です。
この違いが、会社側と監査法人側の間で認識のギャップを生むことがあります。
私自身、事業会社で経理実務を経験した後、監査法人で上場会社監査・IPO監査に関与してきました。
会社側では、限られた人員と時間の中で、日々の入出庫や決算業務を止めずに進める必要があります。
一方で、監査法人側では、残高の正確性だけでなく、その残高を裏付けるデータ、証憑、確認手続、内部統制が求められます。
監査対応を円滑に進めるためには、この双方の視点を踏まえ、会社の運用を第三者に説明可能な形へ整理することが重要です。
外部専門家が関与する場合も、監査法人向けの資料を代わりに作り続けることが最終目的ではありません。
外部専門家だけが内容を理解し、会社側では説明できない状態が続けば、支援終了後に同じ問題が再発します。
そのため、最終的には、
会社自身がデータを抽出する
会社自身が差異を調査する
会社自身がレビューする
会社自身が監査法人へ説明する
という状態へ移行することが必要です。
在庫管理の改善は、監査対応のためだけの取り組みではありません。
在庫残高が正確になれば、売上原価や利益の精度が高まり、滞留在庫、過剰在庫、欠品、資金負担なども把握しやすくなります。
つまり、棚卸資産管理の改善は、決算数値の信頼性だけでなく、利益管理、資金管理、経営判断の精度を高める基盤づくりでもあります。
IPO準備、決算・監査法人対応、棚卸資産管理、内部統制整備などでお困りのことがございましたら、壁打ちベースでもお気軽にご相談ください。