プロジェクト概要
マモルバは、掃除や買い物など、地域住民の「ちょっと困った」を、地域のサポーターが有償ボランティアとして支えるサービスです。
一見するとシンプルなマッチングサービスですが、実際の運営には多くの手作業がありました。
サポーターの登録情報をスプレッドシートで管理し、登録内容を確認して、条件に合いそうな案件をLINEで案内する。案件が決まれば、今度は個別に詳細情報を送る。
つまり、サービスが成長するほど、運営側の負担も増えていく構造になっていました。
そこで今回、マッチングから案件完了までのプロセスをアプリに移し、サービス運営そのものをスムーズにするプロジェクトが始まりました。
私はプロダクトデザイナーとして、開発者2名と協力し、業務フローの整理から要件定義、ユーザーフロー、ワイヤーフレーム、UIUXデザイン、開発者へのハンドオフまでを担当しました。
そして、このプロジェクトには一つ大きな条件がありました。
「2ヶ月後の実証実験開始までに完成させる必要がある」
最終的に、プロジェクトは約2ヶ月でリリースまで進みました。
この記事では、短期間のプロダクト開発の中で、私がどのようにユーザーを理解し、AIを活用し、そして「何を作るか」だけでなく「何を作らないか」まで判断したのかをご紹介します。
まず、「何を作るか」ではなく「何を解決するか」
まず確認したのは、現在のマモルバがどのように運営されているのかでした。
サポーター登録から案件紹介、応募、アサイン、活動完了まで、一つひとつの業務を分解し、「今、誰が、何を、どのタイミングでやっているのか?」を整理しました。
その結果、アプリ化すべきなのは単純な「案件検索」だけではないことが見えてきました。登録情報の管理、案件への応募、アサイン後の情報確認、運営とのコミュニケーションなど、サービス全体に手作業が存在していたからです。
そこで、このアプリの目的を
「サポーターと運営の双方が、案件に取り組むために必要な情報を、必要なタイミングで確認できる状態をつくること」
と定義しました。
単に既存の業務をアプリに置き換えるのではなく、サービスそのものをどうすればスムーズにできるかという視点から設計を始めました。
コンセプトは「考えなくていい、お手軽地域貢献」
マモルバのメインユーザーとして想定されていたのは、地域貢献をしながらちょっとした収入を得たい40〜60代のサポーター。スマホの操作などのリテラシーレベルもバラバラです。さらに、案件には「応募済み」「アサイン前」「アサイン済み」「完了済み」など、複数のステータスがあります。ユーザーは複数の案件を同時に抱える可能性があり、そのたびに「これは今どういう状態だっけ?」「次に何をすればいいんだろう?」と考えなければならない。
マモルバでは、なるべくこういったフリクションを減らし、ユーザー自身が状況を整理しなくても、アプリ側が「今必要な情報」を自然に見せてくれることを目指したいと考え、
「考えなくていい、お手軽地域貢献」
をコンセプトとして設定しました。
70名の既存サポーターからユーザーを理解する
コンセプトを感覚だけで決めないために、既存サポーター70名のデータを分析しました。年齢や性別だけでなく、活動可能時間帯や性格に関するデータも確認し、
- どんな人がサービスを利用しているのか
- 何を目的に活動しているのか
- どんな条件で案件を探すのか
- どこで負担を感じそうか
を整理しました。
そこから2つのペルソナを作成し、それぞれの行動やニーズをユーザーフローに落とし込みました。
ここで重要だったのは、ペルソナを「作って終わり」にしなかったことです。
実際の画面を考えるときに、「この人だったら、ここで何を考える?」という問いに戻るための判断基準として使いました。
AIを利用したデザインサイクル
プロダクトをきちんと設計しようとすると、通常は要件定義、フロー設計、ワイヤーフレーム、UIデザイン……と、多くの工程があります。
しかし今回は、2ヶ月という限られた期間でリリースする必要がありました。だからといって、ユーザー理解や設計の工程を削るわけにはいきません。
そこで私は、AIを考えるためのスピードを上げる道具として使いました。
まず、ユーザー分析とサービスの目的をもとに、ChatGPTを使って必要な機能や要件を整理。そこからユーザーフローへ落とし込み、Figma Makeを使ってワイヤーフレームレベルのプロトタイプを素早く作りました。
さらに、
プロトタイプ を実際に操作 → 問題発見 → 要件・フロー修正→プロトタイプに反映
というサイクルを短い時間で何度も回しました。実際の画面を触りながら設計を検証することで設計漏れを防いだだけでなく、クライアントとの合意形成もスピーディに進められました。
そして、AIでは決められない「デザインの判断」
AIを使えば、画面を作るスピードは上げられます。
一方で、何を作るか、何を削るかは、実際のユーザーやサービス運用を理解した上で判断する必要があります。ここでは、先に行ったユーザー分析のデータやペルソナに立ち戻り、ユーザー視点でのデザイン判断を一つづつ丁寧に行っていきました。
例えば案件検索では、細かな日時などの条件設定ができるフィルターも考えました。しかし、実際の想定される案件数やユーザーの利用状況から、ヘビーなフィルターよりもサクッと案件を絞り込めるユーザー体験の方が重要だと判断し、「平日/休日」「午前/午後」「地域」の必要最低限に絞りました。
また、当初はアサインされた案件ごとに運営とのチャットを紐づけていました。しかし実際の運用を確認すると、案件に紐づかない時点での細かな相談も多く発生していました。そこで、運営チャットは独立した機能として再設計しました。
「考えなくていい」というコンセプトはUIにも反映しました。案件には複数の進行状態が存在するため、それぞれのステータスに対応した配色を設定。アプリ内で一貫して使用することで、文字を細かく読まなくても「この案件は今どの状態なのか」を視覚的に把握できるようにしました。
AIを利用して判断材料をスピーディーに集め、ユーザーと運用への深い理解を通して「本当に必要な体験」を判断する。このバランスを意識してプロダクト全体をデザインしました。
デザインしたのは、画面だけではなかった
プロジェクトへの着手から約2ヶ月で、無事にアプリをリリース。
結果として、当初の目的だったサポーター登録管理や案件アサインなど、クライアント側の手作業を削減し、サービス運営を効率化することにつながりました。
さらに、2026年1月〜3月に横須賀市で実施された地域共助型生活支援サービスの実証事業では、サービス利用者とサポーターのマッチング率100%を達成。
実証事業の成功と、その後のサービス継続・対象エリア拡大につながりました。
今回のプロジェクトを通して強く感じたのは、AIによってデザインそのものが不要になるわけではない、ということです。むしろ、AIによって制作スピードが上がるからこそ、
「本当にこの機能は必要なのか?」
「このユーザーはここで何を考えるのか?」
「実際のサービス運用ではどう使われるのか?」
といった、デザイナー自身が判断する部分の重要性がより大きくなると感じました。
マモルバでは、AIを使ってプロトタイプを素早く作り、ユーザー理解やサービス運用と照らし合わせながら何度も修正しました。
私がこのプロジェクトで目指したのは、単に「使いやすいアプリ」を作ることではありません。
運営にとっても、サポーターにとっても、サービスを使うために余計なことを考えなくていい状態をつくること。
そして、それを限られた時間の中で実現することでした。
プロダクトデザインは、きれいな画面を作ることだけではない。ユーザー、ビジネス、運用、そして技術の制約を理解し、その中で「何を作るべきか」を決めること。
マモルバの開発は、そんなプロダクトデザインの面白さを改めて実感したプロジェクトでした。