昨日までの正解が、今日も正しいとは限らない。
市場、技術、ユーザーの価値観が絶えず変化するVUCAの時代では、一人の知識や過去の経験だけで、正しい答えを出すことは難しくなっています。
生成AIの登場によって、それはさらに加速し、私たちの情報収集や仕事の進め方も大きく変わりました。
一方で、どれだけ時代が変化しても、変わらない基礎があると思っています。
それが、報告・連絡・相談です。
報連相は、VUCA時代でも変わらない基礎
プロダクト開発では、問題や仮説を完璧に整理できるまで一人で抱え込むよりも、不完全な段階から素早く共有し、フィードバックを受けながら精度を高めることが重要だと考えています。
問題の共有が遅れれば、周囲が気づいたときには、取れる選択肢が少なくなっています。
反対に、早い段階で共有できれば、まだ小さな軌道修正で済むかもしれません。
そのため、私は「完璧に整理してから伝えること」よりも、「現在分かっている事実と、まだ不確実な点をまず共有すること」を大切にしています。
timesなどで、日頃から細かく情報を出しておくこともその一つです。状況や思考の過程を共有しておけば、問題が起きたときにも、周囲が文脈を把握した状態で一緒に考えられます。
しかし、私は以前、この「早く共有する」という考え方を少し取り違えていました。
提案はしていた。でも、判断を深めきれていなかった
判断に迷ったとき、早く相談すること自体は良いことだと思います。
以前の私も、何も考えずに「どうすればよいでしょうか」と聞いていたわけではありません。自分なりの考えや実装案を持ったうえで、相談していました。
ただ、その提案は、
「一旦、この案で実装しますか?」
というところで止まっていました。
それに対して「一旦それでいきましょう」と返ってくれば、合意を得て、前に進めたように感じられます。
しかし振り返ると、私は「アジャイルだから、まず動く」「MVPだから、小さく作って試す」という考え方を、少し取り違えていたのだと思います。
もちろん、不確実な環境では、完璧な答えを出してから動くより、仮説を持って早く試すことが重要です。
しかし、本来その前には、
- 誰に、どのような価値を届けたいのか
- 今回、何を価値仮説として置くのか
- ほかに、どのような選択肢があるのか
- 何を判断軸として、それらを比較するのか
- 今回の実装によって、何を検証したいのか
を考える必要があります。
当時の私は、実装案を提示するところまではできていました。
しかし、「本当にそれでよいのか」「そもそも、どのような価値を提供するための機能なのか」ともう一段深く問い、価値仮説を立て、複数の選択肢と判断軸をテーブルに並べるところまでは、十分にやり切れていませんでした。
「一旦、この案で実装しますか?」という問いは、相談の形を取っていました。
けれど、価値仮説や判断軸を詰め切らないまま相手に最終判断を求めることは、自分で考え、選択し、その結果を引き受けるという意思決定の負荷を、相手に預けることでもありました。
何かを決めるには、不完全な情報の中で複数の選択肢を比較し、どれか一つを選ばなければなりません。選んだ結果が間違っている可能性もあります。
人に相談すれば、その不安を軽くできます。
しかし、自分の提案を持っていたとしても、その背景にある価値仮説や判断軸を深めないまま結論を相手に求めれば、意思決定を十分に引き受けたことにはなりません。
この経験から、相談するときには、少なくとも次のことを整理するようになりました。
- 現在、何が起きているのか
- 誰に、どのような価値を届けたいのか
- 何を価値仮説として置いているのか
- どのような選択肢があるのか
- どの判断軸で選択肢を比較したのか
- 自分はどの案を、なぜ推奨するのか
- 相手から何について意見をもらいたいのか
早く共有する。ただし、自分で考えることは手放さない。
多くの人から意見を借りながらも、最後は自分の推奨案として提示する。
この二つを両立させることが大切だと学びました。
過去の経験は、答えではなく判断材料として借りる
「三人寄れば文殊の知恵」という言葉があるように、一人で考え続けるよりも、異なる経験や専門性を持つ人たちの視点を借りた方が、意思決定の質は高まります。
また、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉があります。
人間や組織が長い歴史の中で繰り返してきた普遍的なパターンから学ぶことは、今でも重要です。
実際に私も、AIプロダクト開発において先人の知恵を借りることで、失敗を避けられた場面がありました。
一方で、個人の成功体験は、当時の市場、組織、技術といった特定の条件の上に成り立っています。
上長や先輩の経験も、そのまま現在の正解として受け取るのではなく、貴重な判断材料の一つとして尊重しながら、今の状況に照らして捉え直す必要があります。
先月や先週、極端にいえば昨日までの正解が、今日も正しいとは限りません。
だからこそ、過去から学びながらも、環境が変われば、これまでの前提をアンラーンする姿勢が必要だと考えています。
人とAIの集合知を使う
自分一人の頭だけで答えを出そうとせず、ユーザー、事業、開発など、異なる立場の人たちの知識と視点を借りる。
そして今、私が考える集合知には、人だけでなく、もちろんAIも含まれています。
生成AIは本当に優秀で、多くの仕事をそつなくこなしてくれます。
さらに、
- 自分の仮説を広げる
- 別の立場から反証する
- 見落としている選択肢を探す
- 意思決定の盲点を減らす
といった、思考のパートナーとしても活用できます。
けれど、AIの回答も、そのまま正解として受け取るべきではありません。
AIの回答には、誤りだけでなく、前提や文脈のずれも含まれる可能性があります。
楽をしない。考える負荷から逃げない。
人の経験も、AIの回答も、最良の意思決定をするための材料です。
最後は、自分で決める
多くの人に相談することと、意思決定を相手に委ねることは違います。
自分なりの価値仮説と推奨案を持ち、ユーザー価値、事業への影響、技術的な制約を整理したうえで相談する。
人やAIから得られた意見を材料として検討し、最後は自分が意思決定と結果に責任を持つ。
相談は、意思決定を手放すためではありません。
人とAIの集合知を使い、意思決定の質を高めるために行うものです。
早く共有する。多くの知恵を借りる。それでも、判断は委ねない。
これが、VUCAとAIの時代に生きるエンジニア、そしてビジネスパーソンとして、私が失敗から学んだ、大切にしたい姿勢です。