やってきたことの意味がわかったディスカバリーセッション体験記
ブランディングの仕事をしていると、「あなたたちは何者ですか」という問いを、いつも相手に向けています。企業の理念を掘り起こし、言葉にし、かたちにする。それがサインコサインの仕事です。
でも、その問いを自分たちに向けられたことが、最近あっただろうか。
浅草にある株式会社renの代表・山田裕一さんが提供している「ディスカバリーセッション」という対話型のワークショップを、サインコサインとして受けることになった。「する側」の私たちが、ファシリテーションを「受ける側」になる。その構図自体が、すでに新鮮というか、楽しかったです。
ワークショップはシンプルな問いから
山田さんの問いの型はシンプルでした。「今、何をやっているんですか」。そこから「その前は?」と、時間を遡っていく。サインコサインの現在から、2018年4月2日の設立、さらにその前の2017年夏——「GENTEN」というコンテストに出たこと。ホワイトボードにはサインコサインの8年間がオレンジ色のマーカーで描き出されていきました。
私たちが遡った先にあったのは、多くの人が共感できるわくわくの原体験でした。マンガや映画の、あの胸が熱くなる展開。文化祭や運動会でなんだかんだ一致団結して本気になる瞬間。全員が同じ方向を向いて、何かを超える感覚。それを仕事で再現したかった。サインコサインはそのために「言葉やアイデアを共創する会社」としてはじまった、と思い出したというか、そうだったのかという発見がありました。
そこに、山田さんは大きく「本当にできたのか!?」と描きます。
けっこう色々あって、いっぱいやってきた。たぶん間違ってはいない。でも、「本当にあっているのか」と面と向かって聞かれると、言葉に詰まる。信じてきたものを疑えと言われているのではなく、信じてきたものを「ちゃんと見ろ」と言われている感覚。感情のその奥にあるもの、他の部分に気がつけ、と。
このあたりから、対話の空気が変わった感じがありました。
そのとき私は仕事に対する姿勢の変化について話しました。現場では上手く言えなかったのですが、他人より優れているのが強さだと思っていた気がします。格闘技がきっかけで私は自分の弱さに向き合うことになり、強さの定義を間違えていたことに気がつきました。強さとは優れているどうかは全く関係なく、互いにリスクを取り合うことによる信頼関係の元、関わり続けることなのかもしれないとワークショップを経験した今は思っています。
ところで、このセッションで印象に残ったことがふたつあります。
ひとつは、山田さんがふと漏らした「最近、あえて言語化しない姿勢を学びました」という言葉。理由を聞くと、「言語化することに満足して、思考停止しちゃっていた」のだという。言葉を扱う仕事をしている僕にとって、これは不意打ちでした。言語化は武器だと思っていた。でも、名前をつけた瞬間に安心して、それ以上考えなくなる。そういう罠がたしかにある。向き合い続けること。答えを出すのを急がず、わからなさの中に留まること。それが新しい視点を獲得する方法なのだと、言葉の専門家ではない角度から気づかされました。
もうひとつは、概念を図にするスピードです。私たちが「共創」について話していたとき、山田さんはホワイトボードの右上に、ふたつの視野が重なり合うイラストをさっと描いた。共創とは、互いの視野が新たな視野となること。そして重なっている部分はさらに広がるという意味で「拡張」する。私たちが言葉でもたつきながら説明していたことを、あっという間に一枚の絵にされてしまった。普段からこういうことをたくさん繰り返している人の手つきでした。
ブランディングの仕事では、クライアントに問いを投げ、言葉を引き出し、そこから理念やビジョンをかたちにしていく。でも、問う側にいる限り、自分たちの輪郭は見えない。山田さんのセッションは、私たちにとって理想が映る魔法の鏡のような時間でした。
やってみて思ったこと
この2時間は発見だらけでした。ただ、それは未知のものが明らかになるという種類の発見ではなく、すでにあるものの意味がわかってくるような感覚。覆いがのぞかれて、見えていなかったものが見えてくる。「ディスカバー」という言葉そのままの体験でした。
どれくらいの頻度でやりたいか
それは正直、どれくらい自分が変われるかにもよると思いました。ただ、1年に1度は自分たちにトピックをつくるべきだという意味も込めて、定期的にやれたらなんと幸せなことでしょうか。
どれくらいの人数が良いか
話し手は今回3名で、それぞれがそれなりに話していっぱいいっぱいでした。これ以上人数が増えると、自分の中で論点が散らかっていきそうだったので、この規模感がちょうどよかったように思います。
ホワイトボードに描かれたグラフィックレコーディングを眺めながら思うのは、自分たちの仕事の原点を「知っている」ことと、それを「問いの中で語り直す」ことは、まったく別の体験だということ。知っているはずのことが、問われることで初めて「今の自分たちの言葉」になるなと実感しました。
2026年4月2日で、サインコサインは8周年を迎えます。問いをデザインする人がいてくれたおかげで、私たちは自分たちの輪郭を、少しだけはっきりと見ることができた気がします。