【前嶋拳人】バグと結婚して気づいた、愛のデバッグ術
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ある日、夢の中で私はコードの塊と結婚しました。相手は人間ではなく、何万行にも及ぶ複雑なプログラムのバグです。朝起きたとき、枕元にソースコードが散らばっているわけではありませんでしたが、私の頭の中には奇妙な多幸感と、得も言われぬ納得感が広がっていました。
これまでのエンジニア人生で、バグは倒すべき敵であり、排除すべき不純物でした。しかし、夢の中の私は、その不規則な挙動を愛おしく眺め、なぜ彼がそこで拗ねているのかを優しく問いかけていたのです。思えば、システム開発も人間関係も、本質的には何も変わりません。相手を無理に変えようとするのではなく、なぜそうなったのかという背景に耳を傾けることから、すべては始まります。
例えば、金融機関の巨大なシステムが深夜に突然止まってしまうとき、それはシステムが悲鳴を上げている瞬間です。私たちは必死に原因を突き止め、修正という名の外科手術を施します。でも、もっと手前で、彼らの体調の変化に気づくことはできなかったのでしょうか。数字と記号の羅列に見える画面の向こう側には、必ずそれを作った人の意図や、それを使う人の生活が呼吸しています。
私はフリーランスとして独立してから、より強くこの呼吸を感じるようになりました。技術はあくまで道具であり、目的ではありません。大切なのは、その道具を使って誰を笑顔にするか、あるいは誰の不安を取り除くかという点に尽きます。モダンな技術を追いかけるのも楽しいですが、それは最新のファッションを身に纏うのと似ています。中身が伴わなければ、どんなに着飾っても相手の心には響きません。
最近の私は、コードを書く時間と同じくらい、真っ白な紙に図を描いたり、クライアントと雑談したりする時間を大切にしています。一見すると非効率に見えるこの時間は、実は最高精度のデバッグ作業なのです。言葉の端々に隠れた違和感を見つけ出し、それを丁寧に解きほぐしていく。そうすることで、出来上がるシステムは、単なる機能の集合体ではなく、誰かの人生を支える温かいパートナーへと変わります。
もしあなたが、今目の前にあるトラブルに頭を抱えているなら、少しだけ視点を変えてみてください。それは敵ではなく、あなたに何かを伝えたがっている不器用な友人かもしれません。完璧な正解を求めるよりも、まずは隣に座って同じ景色を眺めてみる。そんな姿勢が、技術の壁を超えた新しい価値を生み出すのだと信じています。
私の旅はまだ続きます。明日はどんなバグと出会い、どんな対話を重ねるのか。画面を閉じた後、ふと窓の外を眺めると、街の灯りも一つの巨大な回路のように見えてきます。そこには無数の人生が流れ、今日もどこかで誰かが誰かのために、優しくキーボードを叩いているはずです。