こんにちは!前嶋拳人です。
深い緑に包まれた静かな森のなかをひとり歩いているとき、足元から聞こえてくる枯れ葉のささやかな音に耳を傾けたことがありますか。木漏れ日が地面にまだらな模様を描くその場所では、鳥のさえずりや遠くを流れるせせらぎが、まるでオーケストラの序曲のようにそっと重なり合っています。急ぐ必要などないのだと、森の大きな木々がゆっくりと息をしながら教えてくれているような気がするのです。
会社員として大きな組織のなかに身を置いていた頃の私の仕事は、どちらかというと深い森を歩くことというよりも、すでに何千人もの人々が歩いて踏み固められた舗装された大通りを、決まった歩幅で正確に列を乱さず進んでいくような行進に似ていました。みんなと同じ靴を履き、決められた時間に同じ場所へたどり着くこと。それは確かな秩序を保ち、迷うことのない安心感をもたらしてくれる大切な役割でした。
けれど、いつしかその広い大通りの端から、まだ誰も足を踏み入れていない木々のあいだに隠された小さな小道を見つけてしまいました。そちらのほうがどうしてか温かな土の匂いがして、鳥の目線でもっと自由に景色を眺められるのではないかという予感が胸を満たしたのです。思い切って大きな列を離れ、フリーランスという名の森の小道へと足を踏み入れたのはそんな時でした。
最初に一歩を踏み出したときは、どこへ続いているのか分からない心細さと、自分の体重を支える土の感触を確かめる緊張感でいっぱいでした。でも、実際に歩き進めていくと、マニュアル化された大通りでは決して見ることのでなかった草花の色や、季節ごとに表情を変える木々のささやきが鮮やかに飛び込んできました。現場ごとに異なる課題や人々の想いに触れながら、自分自身の足で道を作っていく面白さに夢中になっていったのです。
技術という道具もまた、この森を歩くためのたしかな杖のようなものだと感じています。どんな場所に差し掛かっても、いまそこに吹いている風や足元の状態に合わせて、しなやかに持ち方や使い方を工夫することができる。誰かのためにそっと道を切り開いたり、あるいは隣を歩く人と一緒に新しい景色を見つけたりする瞬間が何よりも好きです。
今日もどこかの森のなかで、あたらしい足音がひとつ響いていることでしょう。私も自分の中に流れるリズムを大切にしながら、目の前の一木一草に誠実に向き合い、ていねいに一歩を重ねていきたいと願っています。