離婚で揉めやすいお金の話:慰謝料と養育費の基本をわかりやすく整理【久松 亮一】
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普段の生活で弁護士に相談する機会は多くあはないかもしれませんが、誰にでも起こり得る身近な法律トラブルとして「離婚」が挙げられます。離婚では感情面の問題だけでなく、お金の取り決めが避けられません。代表的なのが、配偶者の不貞行為などを原因とする慰謝料、そして子どもがいる場合に必ず検討すべき養育費です。どちらも「請求できる条件」「金額の目安」「手続きの進め方」が異なるため、仕組みを整理して理解しておくことが大切です。
▼慰謝料とは何か
慰謝料とは、相手の行為によって受けた精神的苦痛を金銭で埋め合わせる損害賠償です。特に不倫(法律上の不貞行為)が関わるケースでは、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料が問題になります。配偶者の不倫が原因で離婚に至った場合や、結婚生活が深刻に傷つけられ精神的なダメージを受けた場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。
▼離婚慰謝料の考え方
離婚に伴う慰謝料は、離婚の原因となった出来事に対する苦痛と、離婚せざるを得なくなったこと自体の苦痛に分けて説明されることがあります。ただ、実際の交渉や裁判では、分類を厳密に分けて請求するというより、さまざまな事情を踏まえて離婚慰謝料として金額が調整されるのが一般的です。不倫、DV、モラハラなどの事情は、慰謝料額を左右する重要な要素として扱われます。
▼不倫相手にも請求できるのはどんなときか
不倫があったからといって、いつでも慰謝料が認められるわけではありません。慰謝料の対象となるのは、配偶者と不倫相手の間に性的関係、またはそれに近い実態があり、さらに不倫相手側に「既婚者だと知っていた」あるいは「知って当然といえる状況だった」といった事情がある場合です。加えて、夫婦関係がすでに壊れていたと判断される状況だと、損害がないとして請求が難しくなることがあります。要するに、婚姻関係が続いていると分かった上で関係を持ち、その結果として夫婦関係が悪化したといえる場合に、請求が認められやすいという整理になります。
▼不倫以外でも慰謝料が問題になる離婚理由
慰謝料は不倫だけの問題ではありません。たとえば、正当な理由なく同居を拒んだり生活費を渡さなかったりして、夫婦としての義務を一方的に放棄する行為は「悪意の遺棄」とされ、離婚と結びつく場合には慰謝料が検討されます。また、身体的暴力であるDVだけでなく、言葉や態度で相手を追い詰めるモラハラも、常態化して婚姻関係を壊したといえるときは請求対象となり得ます。
さらに、法律上「婚姻を継続し難い重大な事由」がある場合も離婚原因となります。性格の不一致という言葉で片付けられがちですが、たとえば一方的な性交渉の拒否、親族からの虐待、依存症やギャンブルによる生活破綻など、どちらかが重大な原因を作ったといえる事情があれば、慰謝料が争点になることがあります。
▼慰謝料を請求できない典型例
慰謝料が難しくなるのは、そもそも不法行為を裏付ける証拠が乏しい場合や、離婚原因が単なる価値観の違いにとどまる場合です。また、不倫相手が既婚者だと知らず、注意しても分からない状況だったと評価されると、責任を問うのが難しくなることもあります。すでに夫婦関係が破綻していたケースや、十分な金額の支払いが済んでいるケース、時効が成立しているケースも同様です。責任の所在がはっきりしないときほど、慰謝料請求は通りにくい傾向があります。
▼不倫慰謝料の相場と金額が動く要素
不倫慰謝料は幅が大きい分野ですが、目安としては数十万円から300万円程度に収まることが多いとされています。法律で計算式が決まっているわけではないため、不倫の態様や婚姻期間、別居や離婚に至ったかどうか、子どもの有無、発覚後の対応など、さまざまな事情を総合して金額が決まります。
婚姻期間が長い、関係が長期化していた、夫婦関係が大きく壊れた、相手が否認を続けた、妊娠や子の存在が絡むなどの事情は、精神的苦痛が大きいと評価されやすく、増額方向の材料になります。一方で、結婚期間が短い、発覚後も婚姻を継続している、関係が一時的だった、会う頻度が少なかったといった事情は、減額の方向に働きやすいといえます。
▼慰謝料請求の進め方
実務では、まず請求の意思と金額を明記した書面を送ることから始めることが多く、確実性を重視するなら内容証明郵便が使われます。内容証明は「いつ、誰に、どんな内容を送ったか」を記録として残せるため、相手が受け取っていないと主張するリスクを減らせます。その後、相手から連絡が来れば条件を交渉し、合意できた内容は示談書にまとめます。支払いが長期に及ぶ場合は、途中で止まる可能性もあるため、公正証書にして強制執行に備えることが選択肢になります。
話し合いでまとまらなければ、裁判所での調停や訴訟に進みます。配偶者に請求する場合は、離婚する・しない・離婚後といった状況によって使う手続きが変わり、不倫相手に対しては民事の手続きを取るのが一般的です。
▼慰謝料で注意したい時効と求償
慰謝料には時効があり、不倫相手と不貞の事実を知ったときから3年、または不貞行為のときから20年といった枠組みで消滅時効が問題になります。知ってから長く放置すると請求できなくなる可能性があるため、早めに専門家へ相談して動くことが重要です。
また、不倫慰謝料は配偶者と不倫相手が連帯して責任を負う関係になり得るため、どちらか一方に全額を請求することも可能です。ただし、一方が支払った場合に、支払った側がもう一方へ負担分を求める「求償権」が問題になることがあります。離婚しない場合、結果的に家計から負担が出ていく形になり、思ったほど救済にならないケースもあるため、示談の段階で求償をどうするかまで含めて整理しておく必要があります。さらに、双方が既婚者のいわゆるダブル不倫では、相手の配偶者から自分も請求される可能性がある点も押さえておきたいところです。
▼養育費とは
子どもがいる離婚で、慰謝料と並んで必ず論点になるのが養育費です。養育費は、離婚後に子どもが生活し自立するまでに必要となる費用のことで、子どもを監護している親は、監護していない親に対して請求できます。離婚して別々に暮らしていても親子関係は変わらず、子どもの生活を支える義務があるからです。養育費は本来「子どものためのお金」であり、受け取る側の親の権利というより、子どもの権利として考えられています。
よく似た言葉に婚姻費用がありますが、婚姻費用は離婚前の生活費で、配偶者の生活費も含み得る点が大きな違いです。離婚後に発生するのが養育費であり、タイミングも目的も異なります。
▼養育費の決め方と相場の考え方
養育費の金額は法律で一律に決まっていません。通常は父母で話し合い、月額の金額、いつまで払うか、支払い方法や振込先、進学や病気など特別な出費が出た場合の負担まで決めておくと安心です。口約束でも成立はしますが、未払いが起きた際に争いになりやすいため、書面化が現実的です。支払いが不安な場合は、公正証書にして強制執行に備える方法もあります。
相場を考える際によく参照されるのが、裁判所の「養育費算定表」です。これは父母の年収と子どもの人数・年齢から目安を示したもので、実務でも交渉の基準として使われることが多い資料です。さらに、公的統計として、ひとり親世帯が実際に受け取っている養育費の平均額が公表されており、現実の受け取り水準を把握する参考になります。ただし、収入や生活状況は家庭ごとに違うため、算定表や平均値はあくまで出発点で、最終的には個別事情で調整されます。
▼養育費の増額・減額が起こるケース
養育費は一度決めたら絶対に固定というわけではありません。監護している親が病気や失職で収入が下がり、子どもの生活が立ち行かなくなった場合や、支払う側の収入が大きく上がった場合は、増額が検討されます。子どもの病気で医療費がかさんだり、高校・大学進学で教育費が増えたりする場合も、必要性が認められれば増額の理由になり得ます。
一方、支払う側が収入減少した場合や再婚など生活状況が変化した場合には、減額を求められることもあります。養育費は「子どもの利益」を中心に考えつつも、支払う側の現実的な支払い能力も踏まえて調整されるため、状況変化があれば早めに話し合いの場を持つことが重要です。
▼まとめ
離婚は感情の問題であると同時に、生活を立て直すための手続きでもあります。証拠の確保や書面化、交渉の進め方を誤ると、希望する条件から遠ざかってしまうこともあります。早期に弁護士へ相談し、状況に合った選択肢を整理したうえで進めることが、結果的に負担を減らし、解決を早める近道になります。
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