【相続不動産における紛争予防の実務】
【相続不動産における紛争予防の実務】
不動産鑑定士の視点から見た「適正評価」と相続手続の要点
相続案件において、不動産は常に紛争リスクを内包している。
とりわけ遺産総額に占める不動産比率が高い場合、評価方法の選択いかんで相続人間の利害対立が顕在化する。
本稿では、不動産鑑定士の立場から、
相続不動産における適正評価の位置づけと、紛争を未然に防ぐ実務上の要点を整理する。
1.相続不動産における評価の混乱構造
(1)複数評価額の併存
相続実務では、以下の評価額が混在する。
- 固定資産税評価額
- 相続税評価額(路線価・倍率方式)
- 取引事例に基づく実勢価格
これらは目的・前提条件が異なる評価であり、
「どの価格を基準とするか」が合意されないまま協議が進むと、必然的に紛争を招く。
(2)評価目的の不明確さ
本来、評価は
- 課税目的
- 遺産分割目的
- 代償金算定目的
など、目的に応じて前提条件が整理されるべきである。
しかし実務では、この整理がなされないまま価格だけが独り歩きするケースが多い。
2.不動産鑑定評価の実務的意義
(1)時価概念の明確化
不動産鑑定評価における時価は、
「正常な市場において、合理的当事者間で成立すると認められる価格」と定義される。
これは、
- 特定相続人の事情
- 感情的評価
- 税務上の便宜的数値
を排除した、客観性の高い基準である。
(2)遺産分割協議における機能
鑑定評価書は、単なる価格提示ではなく、
- 価格形成要因の明示
- 法的・物理的条件の整理
- 市場分析の裏付け
を伴うため、協議過程における説明責任を担保する役割を果たす。
3.相続方法別にみる鑑定評価の活用ポイント
現物分割・代償分割
代償金算定においては、
「誰が見ても合理的と評価される基準価格」が不可欠であり、
鑑定評価は公平性確保の中核的資料となる。
換価分割
売却前提であっても、
- 適正な売却価格水準
- 市場流動性
- 売却期間の想定
を把握するため、鑑定評価は意思決定資料として有効である。
共有回避の観点
共有状態は将来の紛争を先送りするに過ぎない。
鑑定評価を基礎にした代償分割・換価分割は、
中長期的リスク低減策として重要である。
4.専門家連携における不動産鑑定士の役割
相続実務は、単独専門家では完結しない。
- 税理士:課税関係整理
- 弁護士:紛争予防・調整
- 司法書士:権利関係整理
これらと連携する中で、不動産鑑定士は
価格に関する共通言語を提供する役割を担う。
価格の共通認識が形成されることで、
他の専門判断も円滑に進行する。
5.まとめ:相続不動産の本質は「価格の合意形成」
相続不動産トラブルの本質は、
不動産そのものではなく、価格に対する認識の不一致である。
その解消には
- 評価目的の明確化
- 客観的時価の提示
- 専門家間の適切な役割分担
が不可欠であり、不動産鑑定評価はその基盤となる。
相続における不動産は、
感情の対象である前に、経済的資産である。
この原点を共有することが、紛争予防の第一歩である。