こんにちは!石田大顕です。
誰もいない早朝の砂浜を歩いていると、自分の足元に残る足跡が波の満ち引きによってあっさりと消されていく光景に出くわすことがあります。 自分が今ここで歩んだという確かな証拠がほんの数秒のうちに綺麗に洗い流され、目の前には再び何もない滑らかな砂のキャンバスが広がっていくのです。 効率やスピード、あるいは目に見える成果をどれほど積み上げることができたかを競い合うようなビジネスや制作の現場において、私たちはしばしば「何かを残さなければならない」という強い強迫観念に駆られがちになります。 作ったものや生み出した結果がすぐに消費され、データや記憶の海の底へと沈んでいくような感覚に苛まれることもあるかもしれません。 しかし、あの波打ち際に残された足跡がすぐに消え去るからこそ、その瞬間を歩いている自分の足裏の感覚や、潮風の冷たさを私たちはこれほどまでに生々しく感じ取ることができるのではないでしょうか。 形あるものを創り出す仕事に身を置いていると、私たちはつい永遠に残るような完璧なものや、誰からも否定されない正解を追い求めてしまいます。 けれど、あえて形に残らないものや、やがて消えゆくプロセスの中にこそ、本当の意味で人の心に深く染み入る表現の本質が隠されていることがあります。 計画通りに進まないことや、努力したことが一瞬で形を変えてしまうような予期せぬ出来事に出会ったとき、それをただの損失として嘆くのではなく、新しい物語が始まるための清らかな余白として捉えてみる。 そうすることで、目の前の景色はまったく異なる輝きを帯び始め、私たちの凝り固まった思考を心地よくほぐしてくれるのです。 日々の慌ただしい業務や人間関係の中で、私たちはどうしても効率的な最短距離ばかりを選び取ろうとしてしまいますが、時にはあえて遠回りをしたり、波に足跡を消されるような無駄に思える時間を愛おしく思える心を持ち続けたいものです。 難しく考える必要はありません。 ただ自分の五感を研き澄ませて、目の前で起きるささやかな変化や、その瞬間限りの一期一会を全身で味わい尽くすこと。 それだけで、私たちの日常は十分にドラマチックで深みのある世界へと姿を変えていくのです。 これからもたくさんの景色に出会いながら、自分なりの感性を大切に、言葉や形を紡ぐ旅をゆっくりと続けていきたいと思います。