想いやり展2023|プロジェクトストーリー
なぜやったか
「その店主の『覚悟』に、相応しい価値がついているだろうか?」
街にある飲食店や小売店の店主たちは、時に借金をしてまで、人生を賭けた覚悟で暖簾を掲げています。
しかし、その背景にある凄まじいストーリーは表に出ることは少なく、多くの場合「美味しい」「安い」といった消費の言葉だけで語られてしまいます。
一方で、表現の世界で生きようとするアーティストたちもまた、自らの表現を信じ、悩みながら、それでも続けていく覚悟を抱えて活動しています。
「命懸けで店を守る人」と「魂を込めて表現する人」。
立場は違えど、本気で生きる二人の想いや覚悟を交換させたら、何が起きるのだろうか。店主の深い想いをアーティストが受け取り、それを作品として具現化する。
それを見た店主の心が動き、さらにお客さんとの間にも新しい会話が生まれる。
単なる展示やイベントではなく、本気で生きる人間同士が、心と心で付き合える「想いやりの循環」を実験したい。
店主のストーリーの価値を最大化し、同時にアートを日常の手触り感のある場所へと取り戻す。
この二つの願いを重ね合わせたのが、私にとっての「想いやり展」でした。
どう設計したか
善意を「循環」に変える仕組み
このプロジェクトで重視したのは、ボランティア精神や一時的な善意に依存せず、関わる全員に役割と意味が生まれる「循環の構造」をつくることでした。
飲食店や小売店は、単なる消費の場ではなく、店主の想いが可視化される「物語の展示空間」として再定義しました。
来店者が作品を見て感じた気持ちをメッセージとして残すと、店舗で小さなサービスや割引が受けられる仕組みを導入し、感情の動きを実際の来店や会話という行動へと接続しました。
また、下北沢エリア19店舗、京王井の頭線下北沢駅、商店街、作風も立場も異なるアーティストたち、それぞれが守るべきルールや制約を一つひとつ整理し、共通言語をつくりながら進行管理を行いました。
公共交通機関の厳しいレギュレーションを含め、全体が無理なく回る構造を設計しています。
何が起きたか
仕組みが動き出すことで、街の空気が変わるような変化が生まれました。
作品をきっかけに店主と来店者の会話が自然に生まれ、そこから再来店につながるケースが多く見られました。
また、商店街会長、街の案内所、運送会社、カメラマン、ボランティアなど、最終的には60名を超える人たちがプロジェクトを支える輪に加わりました。
印象的だったのは、イベント終了後も店主とアーティストが個人的に交流を続けたり、アーティスト同士で新たな展示を企画したりと、私が関与しなくても関係性が自走し始めたことです。
一過性で終わらない、持続するつながりが街の中に芽生えました。
そこで見えた「自分の役割」
想いを翻訳し、場を整える
私は作品を制作するアーティストではありません。
しかし、職人気質で言葉にするのが得意ではない店主の想いを丁寧に聞き取り、その根底にある願いをアーティストが表現しやすい形へ翻訳することはできます。
また、立場や利害の異なる関係者の間に入り、摩擦を減らし、プロジェクトが破綻せずに進むよう場を整えることもできます。
完成した展示そのものよりも、そこから生まれるコミュニケーションの構造を設計すること。
それが、20年の制作現場を経て自分が担ってきた役割だと実感しました。
次につながる余白
この「設計図」を、次の現場へ
想いを翻訳し、行動が循環する構造をつくるという経験は、地域イベントに限らず、NPOや自治体、ソーシャルビジネス、組織づくりの現場にも応用できると感じています。
大切な想いはあるが、形にする方法が分からない。
関係性が分断され、次の一手が選べない。
そんな課題を抱える現場に、私は「伴走者」として関わっていきたい。
もしこの設計図に関心を持っていただけたなら、ぜひ一度お話しできたら嬉しいです。