生成AIを、実務の中でどう使い分けているか
泉卓真です。
前回は、AI時代にエンジニアとして何を磨くべきか、というテーマで、実装力そのものよりも、整理力や問いの立て方が重要になってきている、という話を書きました。
今回はその続きとして、もう少し実務に寄せた話を書いてみます。
よく、AIをどう使っていますか、と聞かれることがあります。
この問いに対して、以前はうまく答えられませんでした。なぜなら、AIは何か一つの用途にだけ使う道具ではなく、仕事のいろいろな場面に少しずつ入り込んでいるからです。
コードを書くとき。
要件を整理するとき。
文章を書くとき。
アイデアを広げるとき。
逆に、最後の判断をするときには、あえて使わないこともある。
今日は、今の自分が生成AIを実務の中でどう使い分けているのかを、できるだけそのまま書いてみようと思います。
AIは、答えを出す道具というより、思考を前に進める道具
最初に前提として、自分はAIを「何でも正解をくれる存在」だとは思っていません。
むしろ、思考を前に進めるための補助輪に近い感覚で使っています。
たとえば、頭の中にぼんやりした違和感があるとき。
仕様の整理がまだ甘いとき。
文章の構成がまとまらないとき。
そういう、0から1未満の曖昧な状態を前に進めるときに、AIはかなり役に立ちます。
一方で、最終判断や責任の所在が重要な場面では、むしろ距離を取ります。
AIが出した案をそのまま採用するのではなく、一度自分の言葉に戻して考える。
この切り替えはかなり意識しています。
以前の投稿でも書いた通り、AIは優秀な執筆者ではあっても、編集者そのものにはなりきれないと感じています。何を書くべきか、何を採用しないべきかを決めるのは、結局は人間側の役目です。
使い方1 要件整理の壁打ち
一番よく使っているのは、実はコーディングそのものより前の段階です。
仕事では、最初から課題がきれいに整理されていることは少ないです。
依頼側の頭の中にもまだ曖昧な部分があるし、こちらも話を聞きながら論点を分けていく必要がある。
そういうとき、自分はAIにいきなり「答え」を求めるのではなく、まず壁打ち相手になってもらいます。
たとえば、
- この要件の論点を分解すると何か
- 仕様として曖昧な箇所はどこか
- 想定漏れがありそうな観点は何か
- 優先順位をつけるとしたらどう切るか
こういう問いを投げると、自分の中でぼんやりしていたものがかなり整理されます。
重要なのは、AIに整理してもらうこと自体よりも、こちらが何を曖昧に感じているのかを言語化するプロセスです。
前回の記事でも、これからのエンジニアには設計力より前の整理力が必要だと書きましたが、実務でAIを使うと、その意味がよりはっきり見えてきます。
使い方2 文章や構成のたたき台づくり
Wantedlyの記事を書くときもそうですが、文章の仕事でもAIはかなり使っています。
ただし、丸投げはしていません。
自分がよくやるのは、まず自分の中にある論点を箇条書きで出して、構成候補を複数作らせることです。
そのうえで、自分の温度感に合うものだけを残して、あとは手で直していく。
このやり方だと、ゼロから組み立てるより速いし、かといって自分の言葉が失われにくい。
AIを使うと文章は確かに速くなりますが、速くなるほど、何を残して何を捨てるかの感覚が大事になる気がしています。
前に書いた 泉卓真とAI の記事でも、生成AIの普及で平均化された情報が増えるほど、個人の具体的な経験や少し偏った意見の価値が上がると感じている、と書きました。だからこそ、自分の文章では「整いすぎ」を少し警戒しています。
使い方3 コードレビュー観点の洗い出し
コーディングの場面でももちろん使いますが、自分の中では「書かせる」より「見落としを減らす」ための使い方のほうが多いです。
たとえば、
- この実装で考慮漏れがありそうな観点は何か
- エラーハンドリングの抜けはないか
- 命名や責務分割で違和感はないか
- パフォーマンス面で気にするポイントは何か
こういう観点の洗い出しにAIを使うと、自分だけでは見落としていた視点が出てくることがあります。
ただ、ここでも大事なのは、AIの指摘をそのまま採用しないことです。
現場には文脈があります。既存コードベースの流儀もあれば、チームの習熟度や運用上の事情もある。
AIの指摘が一般論として正しくても、今この場に適しているとは限らない。
この「一般論」と「現場の文脈」を切り分けるのは、やはり人間の仕事です。
使い方4 調査の入口として使い、最後は一次情報に戻る
調べ物でもAIは便利です。
何か新しい概念をざっくり掴むときや、関連論点を広げたいときにはかなり速い。
ただし、ここはかなり注意しています。
AIの説明は分かりやすい反面、分かりやすすぎることがある。
細部が丸められていたり、重要な前提が抜け落ちていたりすることもあるからです。
なので、自分の中では、
- AIで全体像をざっくり掴む
- 論点やキーワードを洗い出す
- 公式ドキュメントや一次情報に戻る
- 最後に自分の理解として再構成する
という流れが多いです。
AIは入口としては優秀ですが、着地点まで任せると危ない。
これは技術でも、ビジネスでも、文章でも同じだと思っています。
あえてAIを使わない場面もある
ここまで使い方を書いてきましたが、逆に、あえて使わない場面もあります。
たとえば、考えがまだ浅いうちから何でもAIに聞いてしまうと、自分の頭で考える前に答えの形に引っ張られてしまうことがある。
その状態で進むと、思考が速くなるというより、思考そのものを外注してしまう感覚があります。
前の投稿でも、便利さに慣れすぎると、自分の頭で転がす時間が減っていくと書きました。朝のコーヒーの時間にスマホを伏せるのも、その感覚への小さな抵抗です。
最近は特に、
- 問いそのものを育てたいとき
- 自分の意見をまだ持てていないとき
- 言葉の温度感を丁寧に決めたいとき
こういう場面では、最初の数十分はあえてAIを使わないこともあります。
AIは速い。
でも、速さがそのまま良さになるとは限らない。
この感覚は、これからもっと大事になる気がしています。
AIを使い分ける基準は、責任がどこにあるか
結局のところ、自分の中での使い分けの軸はかなりシンプルです。
責任が重いところほど、自分で持つ。
発想を広げるところや整理を助けてもらうところでは、積極的に使う。
この線引きがあるだけで、AIとの距離感はだいぶ安定します。
生成AIは強力です。
だからこそ、全部任せるのでも、全部拒絶するのでもなく、どこで使い、どこで自分に戻るかを決めることが大事なのだと思います。
前回の記事で、AI時代に問われるのは使う側の地力だと書きましたが、今はその意味をより具体的に感じています。結局、道具の性能差以上に、その人がどこで立ち止まり、どこで判断し、どこで責任を持つかが成果物に出る。そこが一番大きいのかもしれません。
最後に
AIは、これからもどんどん進化していくと思います。
できることは増えるし、仕事の中への浸透もさらに進むはずです。
その中で、自分も引き続き積極的に使っていくつもりです。
ただ同時に、何を考えるべきか、何を自分の言葉で決めるべきかは、これまで以上に大事にしたい。
便利な道具が増える時代だからこそ、
自分が何を大切にして仕事をしているのか。
どこに責任を持ちたいのか。
そういう輪郭が、以前よりもはっきり問われている気がします。
生成AIをどう使うかは、たぶんその人の仕事観そのものなんだと思います。
これからも、その使い方はアップデートしながら、自分なりのバランスを探っていきたいです。