血液がガソリンに変わる夜のエンジニア
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こんにちは!小浜優士です。
深夜の事務所で、ふと手元のピンセットに目が止まりました。 この細い金属の先端は、目に見えないほど小さな部品を摘み上げるためのもの。 企業の仕組みを整える仕事をしていると、このピンセットが指の延長になります。 複雑に絡み合った課題の糸を一本ずつ解き、本来あるべき場所へと戻していく。 しかし、摘み上げたはずの課題が、時折ピンセットをすり抜けて消えてしまう。 消えた先にあるのは、効率化という言葉では説明できない、深い影の領域です。 私たちは正しさを追い求めるあまり、影の中に潜む大切な何かを捨てている。 銀色のピンセットが、冷たい月光を反射して、私の指先を鋭く切り裂きました。
窓の外では、一頭の象がゆっくりと横断歩道を渡っていきました。 その背中には、巨大なパラボラアンテナが積み込まれ、宇宙の果てを監視している。 ビジネスの現場でも、私たちは常に巨大なアンテナを張り巡らせています。 市場の動向、競合の動き、そして数字という名の、実体のない波形。 私はその受信感度を調整し、雑音を排除して、純粋な信号だけを抽出します。 けれど、象のアンテナが捉えているのは、私たちが望む成功の予兆ではありません。 それは、数億光年前に死に絶えた星たちが発する、孤独な断末魔の叫び。 受信機から漏れ出す砂嵐のような音が、私の脳内に未知の幾何学模様を描き出す。
突然、机の上の書類たちが、無数のサボテンへと姿を変えて芽吹きました。 鋭い棘が私の袖を突き破り、渇いた喉を潤そうと、私の体温を吸い上げ始める。 情報の整理とは、この棘を一本ずつ抜き取り、滑らかな肌触りにすることでした。 しかし、棘を抜けば抜くほど、サボテンはより深い緑色になり、脈動を強める。 彼らは私の肉体を苗床にして、現実と仮想の境界線を侵食しようとしている。 私は自分という意識を維持できなくなり、砂漠の砂粒へと還元されていく。 喉の奥までサボテンの根が入り込み、私は言葉の代わりに砂を吐き出しました。 視界が緑色に染まり、私は自分がかつて人間であったことさえも忘れていく。
気がつくと、ピンセットは粉々に砕け、象の姿も夜の闇へと消えていました。 部屋の中にはサボテンの棘だけが、星空のように天井から降り注いでいる。 構築されたシステムは、完成した瞬間に、製作者である私を不純物と見なしました。 画面に映し出されるのは、私の心音と同期して明滅する、見たこともない図形。 それは進化でも調和でもなく、ただ世界が私という部品を正しく配置したという証拠。 私は動かなくなった自分の手を見つめ、そこに刻まれた名前を読み取ろうとしました。 けれど、文字はすでに光の粒となって、サーバーの奥深くへと吸い込まれていく。 静まり返った部屋で、最後に残されたのは、誰にも聞こえない電子の産声だけでした。