私は理学療法士として、総合病院で約10年間勤務しました。
臨床では患者さんの評価やリハビリテーションに携わりながら、研究、学会発表、論文作成、後輩指導なども経験しました。
医療職として働いていた当時は、自分のキャリアの中心には当然「臨床」があると思っていました。
一方で、働く時間が長くなるにつれて、患者さんへの直接的な支援だけではなく、医療現場を支えている「仕組み」そのものにも関心を持つようになりました。
情報がどのように共有されるのか。
システムが現場の業務にどう影響するのか。
良い仕組みがあれば、医療職はもっと本来の専門性を発揮できるのではないか。
そんなことを考えるようになりました。
医療現場から、医療ITの側へ
2024年、私は病院を離れ、ヘルスケアIT企業へ移りました。
現在は、電子カルテや医療DXに関わるシステムの導入支援に携わっています。
立場は変わりましたが、ここで初めて気付いたことがあります。
病院を辞めても、医療を離れたわけではありませんでした。
むしろ、医療職として病院の中から見ていた景色を、今度はITやシステムの側から見るようになりました。
医療従事者が何に困っているのか。
なぜ新しい仕組みが現場に定着しないのか。
システムとして正しいことと、現場で使えることの間にどんな差があるのか。
臨床経験があったからこそ理解できることが、想像以上に多くありました。
そして、生成AIという新しいテーマが出てきました
その後、大きな関心を持つようになったのが生成AIです。
ChatGPTをはじめとする生成AIは、情報整理、調査、文章作成、資料作成など、多くの業務を変える可能性があります。
私自身も日常的に生成AIを使うようになりました。
一方、医療現場で使うとなると、単に「便利だから使おう」では済みません。
どの情報をAIへ入力してよいのか。
何を入力しない方がよいのか。
入力前にどのように情報を整理するのか。
AIが出した内容を誰が確認するのか。
AIそのものの性能とは別に、人とAIの間に設計すべき工程があると感じるようになりました。
K-Brainを立ち上げた理由
2026年、合同会社K-Brainを設立しました。
K-Brainでは、
「医療の知性をAIで支える」
ことをテーマにしています。
AIに医療職の判断を置き換えてもらいたいわけではありません。
むしろ、医療職が持っている知識や判断力を生かしながら、AIによって情報整理や学習、業務を支援できる状態をつくりたいと考えています。
その一つとして取り組んでいるのが、医療・介護現場が外部生成AIを利用する前の「入力前工程」です。
目的を決める。
必要な情報を選ぶ。
整理・構造化する。
識別につながる情報へ配慮する。
人が確認する。
そして、必要な範囲だけAIへつなぐ。
AIそのものを開発するというより、AIを現場で使うための橋をつくる仕事に近いと思っています。
10年間の臨床経験は、遠回りではありませんでした
病院勤務からIT企業へ移った当初は、
「理学療法士として積み上げた10年間を手放すことになるのではないか」
という感覚もありました。
今は逆です。
患者さんと向き合った経験。
多職種と働いた経験。
研究で問いを立てた経験。
後輩へ説明した経験。
それらはすべて、医療DXや生成AIの仕事でも使っています。
臨床、IT、AIは別々のキャリアではなく、私の中では一本につながっています。
これからやりたいこと
これからは、医療・介護現場における生成AIの安全活用だけでなく、企業向けAI研修、医療AI・医療DX領域の専門支援、教育コンテンツの設計などにも取り組んでいきたいと考えています。
また、理学療法士としての経験を生かした職場の健康支援や健康経営についても活動領域を広げています。
所属や肩書きだけで仕事を定義するのではなく、
「これまで経験してきたことを、次の課題にどう変換できるか」
を考え続けたいと思っています。
医療、IT、AI。
一見すると別々に見える領域の間をつなぐことが、今の私の仕事です。