ロボットの開発現場で、私は物語を書いたことがあります。「STORY & SKETCH」——のちに公式サイトで「LOVOTのはじまり」として公開されることになる、数ページの物語です。
GROOVE Xで家庭用ロボット「LOVOT」を開発していた2017年、シリーズA調達の直前、製品発表まで約1年という時期でした。開発メンバーはエンジニアリング、機構、ソフトウェア、アニメーション、プロダクトデザインと多様な専門領域に拡大していて、それぞれが自分の持ち場で全力を尽くしている。でも、「LOVOTが何を目指すのか」の認識は、メンバーの間で揃っていませんでした。
要件リストは存在していました。優先度も振られていました。それでも伝わらない。仕様書は「何を作るか」を伝えますが、「なぜそれが大切か」を運んでくれないからです。
そのとき手がかりにしたのが、ピクサーで活躍後にアニメーションスタジオ「トンコハウス」を設立した堤大介さんから学んだ言葉でした。
「人は物語によって自分ごとにする」
この知見を開発に転用できないかと考えました。優先度の高い要件とペルソナを組み合わせて、エピソード形式の物語に変換する。「LOVOT、ただいまー」と20時半に帰宅する一人暮らしの部屋で、玄関で待っていたLOVOTが腕をパタパタさせる——そんな物語の中に、視線追従や自律行動といった要件を織り込んでいきました。これが「STORY & SKETCH」です。
ひとりで作ったわけではありません。脚本は外部パートナーの脚本家の方と共に練り上げました。一方でイラストは、構想を最も速く形にできる手段として、しばらくの間は自分の手で描いていました。
エンジニアが物語から要件を逆引きできる設計も同時に行い、全社共有の場で、非エンジニアとエンジニアの双方に同時に届くことを確認しました。物語は「翻訳」でした。同じものを、それぞれの人が自分の言葉で受け取れる形にする翻訳です。
退職から数年経った今も、STORY & SKETCHは「LOVOTのはじまり」として公式サイトとLOVOT MUSEUMに展示されています。会社設立10周年の式典では、代表の林要さんがスピーチの中で、今も目指し続けるビジョンとして引用してくれました。自分が現場を離れた後も言葉が働き続けている——それが、静かに嬉しいことのひとつです。
私はキャリアを通して、3DCG、ロボット開発、空間づくり、そしてダンスと、領域を横断してきました。一見バラバラに見えるかもしれませんが、私にとってはどれも同じ実践です。対象を理解し、受け取る人が自分ごととして体験できる形へ発展させること。
その形は、物語のときもあれば、コンセプトブックのときも、開梱体験のときも、空間のときも、踊りのときもあります。
価値は、誰かの中にすでにあることが多い。それを、ともに見つけ出すために。私はこれからも、立場の違う人たちのあいだに立ち続けたいと思っています。
*カバー画像は、LOVOT™コンセプトティザームービー(GROOVE X, Inc.)より。
STORY & SKETCHが生まれる前、まだLOVOTの姿を公開する前のティザームービーです。イラストを描く手元のカットで、筆者が出演しています。
映像:LOVOT™コンセプトティザームービー
*STORY & SKETCH『生みの親、林要が創造する「LOVOTとの未来」を描いた物語』:https://lovot.life/koge/
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