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なぜ日本にはテック系ファウンダーが必要なのか?

本日は、エンジニア主導のスタートアップに特化したシードファンドであるMiraiseの創業者兼CEOである岩田 真一氏にお話を伺うことができ、大変嬉しく思っています。

このようなファンドが何を意味するのかと疑問に思った方は、彼らの ホームページにアクセスすると、非常に明確な答えが得られます。

「もしあなたが起業家で、かつエンジニアであればMiraise は歓迎します」

約1年前に岩田さんと初めてお会いして以来、ずっとインタビューしたいと思っていました。最初の出会いから、日本の起業家精神が進むべき方向性について、共通のビジョンを持っていると感じましたし、技術系のファウンダーはユニークな視点を持っていると思いました。しかし、岩田さんが素晴らしいのは、その理由を文化的、行動的、歴史的な側面から説明できることです。

Miraiseの投資先の一つであるoViceは、「暖炉を囲んでの議論」に最も近い存在です。

インタビューは思いがけず、Miraiseがサポートしているさまざまなアプリケーションについて深く掘り下げることから始まりました。oViceは、通常の会議だけでなく、コーヒーブースでの会話や、オフィスのフロアで聞こえる議論の声、オフィス内での社員の動きなど、オフィスの雰囲気を再現することを目的としています。

その後、Mattermostというツールも知りました。MattermostはMiraiseの投資先ではなく、いわゆるオープンソース版のSlackクローンです。「Slackは高価なので、クローンを使っています。用途は投資先の起業家コミュニティの運営とサポートです。」この最初の5分間で、これは楽しいインタビューになると確信しました。

エンジニアの起業家が未来を担う

岩田さん、お忙しいところありがとうございます。まず初めに、「エンジニアのためのファンド」というアイデアが生まれた経緯をもう少し詳しく教えてください。

昔、海外に行くと日本製品をよく目にしていました。ですが、今日、自分が日常的に使っているツールの数々に目を向けると...日本製の製品はどこへ行ってしまったのだろう?という疑問を抱きました。それが、Miraiseの始まりです。日本はどうしてしまったんだ?と。

Miraiseを立ち上げる前、私はこの疑問に答えるべく歴史を深く掘り下げてみました。その結果、日本の有名企業の多くは、最初は技術者によって設立されたことがわかりました。しかし、40年、50年経った今、これらの企業を率いているのは、社内で昇進した人たちであり、多くの場合、エンジニアではありません。


"エンジニアは、自分が信じた製品を売りこむことが得意で、嘘をつけず、製品のエバンジェリストになる術を知っています。"


その後、アメリカに目を向けると、その20年後に同じことがベイエリアでも起きていることに気づきました。ただし、ハードウェアではなくソフトウェアの場合です。Google、Amazon、Zoomなど、現在世界をリードする企業はすべてエンジニアによって設立されています。日本でも同じようなことが起きていますが、その数は少ないです。メルカリ、ミクシィ、スマートニュース、はてな等、これらの企業はすべてエンジニアが創業しています。

エンジニアは、自分が信じた製品を売ることは得意です。彼らは技術、製品に対して誠実で『正確』です。つまり製品のエバンジェリストになるのに適しています。また、ビジネスにおいてWin/Winの取引の価値を理解しています。APIはその典型的な例です。第三者に自分たちのサービスへのアクセスを提供する代わりに、利用者は普及を促進してくれる、といったエコシステム的な考え方です。技術系ファウンダーがちょっとしたビジネススキルを身につけることで、とても起業家として強くなります。

最後に投資対効果です。これもデータに基づいています。エンジニア起業家が創業した企業は、非エンジニア起業家のそれよりもIPOの金額が大きいこともリサーチの結果明らかになりました(岩田さんは、この結果について2021年5月にレポートを発表する予定だそうです)。

文系vs理系の世界観

徹底した分析ですね。その他、調査でわかったことはありますか?

今の日本の起業状況を理解するには、文系と理系の世界観を理解するとわかりやすいかも知れません。日本では、高校2年生になると、理系(いわゆるSTEM)か文系か、どちらかを選ばなければなりません。海外でもアジア諸国を始め、同様の国もありますが、日本ではこの分類が非常に強いですね。理系と文系の間には結構壁があってどちらの側の人も「自分は文系だ」「理系だ」というアイデンティティが芽生えます。そして「私は文系です」「私は理系です」という理由で、逆のことはできない、あるいはしなくて良い、と思い込んでしまうのです。

これがソフトウェア時代に日本が直面した壁の一つです。ハードウェアの時代には、技術者、技術者を管理する人、そして製品を売る人が必要でした。つまり、企業には研究開発部門があり、それは理系の人たちにはうってつけです。研究成果を開発部が製品化し、文系の人たち(営業やマーケティング)はその製品をどうやって売るかを考えました。当時の日本企業は研究者にお金を払うための潤沢な資金があり、彼らも終身雇用を約束されていました。


"今日、テクノロジーは製品の種(シード)ではなく、実現のためのもの(イネーブラー)になっています。"


今日は非常に異なっています。ビジネス、マネジメント、テクノロジーを組み合わせて考える必要があります。ソフトウェアの時代では、多くの場合、課題の発見からスタートし、ソリューションが生まれます。課題は何なのか、そしてそれを技術を使ってどのように解決するかを考えるのです。つまり、技術は製品の種(シード)ではなく、実現のためのもの(イネーブラー)と考えるべきです。このような新しいパラダイムでは、技術を理解していない経営者は効率的に会社を運営することができません。ところが日本の経営者の中には技術を理解しておらず「自分は理系、技術者ではないので、わかりません」という方も実際におられます。逆もまた然り。日本の技術者は、自分が会社を始めるという考えに至らないことが多いと感じています。

投資家側

ご意見ありがとうございました。では、投資家の視点ではどうでしょうか?

一言でいうと、日本の投資家もアジャストする必要があると思っています。「良いVC」には、財務などの一般的な金融スキルに加えて、オペレーション(つまり自分の会社を経営すること)とエンジニアリングの2つのスキルが必要だと思います(特にハイテク分野への投資するVC)。ここでも問題なのは、多くの日本の投資家がこのプロフィールに合致していないということです。


"MIRAISEにはエンジニア起業家をサポートするためのテンプレートがあります。"


それでは、投資の観点から見た場合はどうでしょうか?シードステージのVCとしては、100倍の可能性を秘めたスタートアップを探すべきであり、それが可能なのは指数関数的に成長する可能性のあるテック領域となります。しかし、そのテック企業がシード段階であった場合、ビジネスモデルやマネタイズ手法が確定していないので、投資家自身にエンジニア経験がないと非常に難しいと思います。また、エンジニアはピッチが得意でない場合も多いということもあります。(それは単に練習する機会が少なかったからです)結果として、エンジニアのバックグラウンドを持たない投資家は、ポテンシャルの高いハイテク企業を見逃すことがあり得るということになります。

確かにそうですね。Miraiseではその点をどのように解決しようとしていますか?

エンジニアバックグラウンドがない投資家がテック系の創業者を支援するのは難しいと思います。Miraiseでは、私と共同創業者がともにエンジニアであるため、エンジニアが何に苦戦しているかを自分の経験から理解できます。私達には彼らをサポートするためのテンプレートがあり、それを投資先に適用することができるのです。

また、日本ではアジャイルがまだ十分に理解されていない点にも触れておきます。歴史的にハードウェアが得意だった私たち日本人は、仕様書に綿密に設計されたものを時間を掛けてその通りに作るという「ウォーターフォール型」の開発が得意でした。そしてソフトウェアにもその手法を当てはめていた時代がありました。しかし、現在のソフトウェア開発は「アジャイル型」です。製品の市場投入を早めてユーザーからのフィードバックを受けながら改善を繰り返していくという開発手法です。日本では消費者やユーザー側にも、この理解があまり進んでおらず、自分の声で何かが変わるとはあまり思われていないようです。日本の消費者の考え方は「なぜ私があなたを助けなければならないのか」というものです。私はLotus Notesに勤めていたとき、Notes Pumpのベータテスターコミュニティを立ち上げなければなりませんでしたが、そのときに、日本のコミュニティは米国に比べてほとんどフィードバックがなかったことを思い出します。

Miraiseの今後の展開

テック投資と日本のスタートアップの世界を深く掘り下げていただき、ありがとうございました。さて、Miraiseの次の展開は?

Miraiseが設立当初から力を入れていることの一つに、起業家コミュニティがあります。これは、ファウンダー、特にエンジニアファウンダーが直面する日々の課題は、Google検索では答えられないという観察から始まりました。その課題を解決するためには、相互学習「ピア・ラーニング」の環境を醸成することが最善の方法であると考え、Mattermostを利用したオンラインコミュニティを立ち上げました。Miraiseの投資先のすべての創業者は、このオンラインコミュニティに積極的に参加することが求められます。


"Miraiseでは、エンジニアがCEOとして覚醒したときの爆発力を信じています"


Miraiseのポートフォリオの一例

昨年、ピア・ラーニングをさらに発展させるために、「Booster」という投資先向けプログラムを立ち上げました。これは、投資先企業を対象とした100日間の集中的なメンタリングプログラムです。このプログラムでは、創業者たちが製品開発の仕事から離れて、グループセッションに参加し、お互いにフィードバックを行います。

私たちは「エンジニアがCEOとして目覚めたときの爆発的な力」を信じ、それを可能にする最高の環境を構築しています。オンライン起業家コミュニティ、Boosterプログラム、毎月の勉強会など、私たちはエンジニア起業家のための最適なファンドとしてのポジションを築いてまいります。

岩田さん、お忙しい中、素晴らしいインサイトをありがとうございました。

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