「脱炭素なんて意味がない。契約は打ち切らせてほしい。」の一言から始まったプロダクト〜電気AI診断「デンキチェック」の開発
1. 上場企業ですら“脱炭素”では響かない現実
上場企業の役員「脱炭素? 経済的な合理性はないね。」
ある上場製造業の経営会議で、新任の役員が発せられた言葉でした。
脱炭素支援のために席にいた私たち含めて出席者は全員、静まり返りました。
ESGやカーボンニュートラルがビジネスの必須ワードとなったこの時代に、その言葉はあまりに率直で、逆に現実の厳しさを突きつけてくるように感じられたのです。
経営判断の最前線では、やはり“数字”がすべて。脱炭素は「できれば取り組みたいが、今じゃない」。それが本音でした。
その後も、私たちは都内の町工場、九州の物流センター、神奈川のスーパーなど、各地の現場を訪ね歩きました。そこで耳にしたのもまた、共通した切実な声──
「電気代が高すぎて、今期は赤字です」
「安くなるよと言われて電力の切り替えをしたら、電気代が上がったんです」
脱炭素やCO₂排出量の見える化は、企業の未来を支える重要なテーマだとわたしたちは信じています。
しかし、企業にとっては、それ以上に、目の前の電気料金の重みが現場を覆っているのです。
上場企業ですら経済合理性を優先している現実。ましてや人手も資金も限られる中小企業にとって、「脱炭素」の3文字が響かないのは、ごく自然なことなのかもしれません。
だからこそ、私たちは考えました。
この“現実の重さ”を理解しながら、それでも企業が一歩踏み出せる仕組みをどう作るか──。
「当たり前を変える道具」を届けることが、私たちの役割ではないかと。
2. 脱炭素支援の契約打ち切りが示した課題の本質
私たちは、ある企業にCO₂排出量の見える化を支援するプログラムを提供していました。各拠点のエネルギー使用量を収集し、排出量を算出し、レポートをまとめる──脱炭素の第一歩を後押しする取り組みです。
ところがある日、ある東京の中小企業から突然こう告げられました。
「脱炭素にいくら取り組んだとしても企業経営には意味がない。正直、手間とコストに見合わないから」
その企業は決して環境意識が低かったわけではありません。むしろ初期は関心は高く、SDGs等への関心も示していました。
それでも「脱炭素や環境経を押し出すだけでは、経営判断として続ける価値を見出せない」。
この経験から私たちは確信しました。
理念ではなく、“使える道具”が求められている。
つまり、経営課題としての電気代の最適化と、未来志向の脱炭素を、無理なく自然に結びつける設計が不可欠だと。
3. 請求書1枚から始めた“電気代削減コンサル”
「電気の請求書、見せてもらえますか?」
私たちが電気代で経費を圧迫する現場で最初にお願いしたのは、それだけでした。
請求書に記載された基本料金、使用量、契約種別、燃調単価などをもとに、「契約の最適化」「ピーク電力の是正」「使用量に応じた制御の提案」など、実務に直結する支援を始めました。
やがて再エネや省エネの導入、補助金制度の活用を組み合わせた“電気戦略”の設計まで進化。
企業にとって、電気代削減と脱炭素が経営判断として一体で捉えられるようになってきました。
「請求書1枚から、ここまで見えるとは思わなかった」
「電力会社に言われるままじゃなく、自分たちで選べるのがいい」
そんな現場の声に背中を押され、私たちは次の問いに向き合うことになります。
4. ツールを“開発しようと思った”理由──伴走の限界を超えるために
2019年の創業から、私が全国の中小企業を回って一社ずつ伴走していくこの支援スタイルには、限界がありました。
やる気はあるのに「何をすればいいかわからない」──そんな企業が全国に数多く存在する中、私たちが届けられる数にはどうしても制約がある。
だからこそ、考えました。
「私たち自身のノウハウを、仕組みに落とし込もう」
それが、"プロダクトを開発しよう"と思った瞬間です。
請求書の読み取りから契約最適化、補助金判定、設備導入プラン、CO₂削減量の見積もりまで。これらを一元化し、企業が“迷わず判断できる状態”を自動で作るツールを構想したのです。
理念ではなく、現場の“できない”に向き合い続けた末の発想。
それが新しいプロダクト『デンキチェック』の原型でした。
5. 電力会社にも太陽光業者にも、もう騙されたくない
さらに、多くの企業から聞こえてきたのは、“信用の壁”でした。
「電力会社を切り替えたら、かえって高くなった」
「太陽光の営業がしつこいだけで、何が得なのかわからない」
「“環境によさそう”だけじゃ決められない」
営業トークだけで導入を決めてしまい、後悔する企業が後を絶ちません。
その根底には、「判断材料がない」「相談できる相手がいない」という構造的な問題がありました。
私たちは、営業されるのではなく、自分で納得して選べる環境をつくりたかった。
だからこそ、ツールの設計思想に「比較・納得・実行」のサイクルを組み込みました。
6. 「太陽光発電の導入は非常にいいとは思う。でも、うちにはお金がない」
導入効果が明確でも、最後に立ちはだかるのが“初期費用の壁”です。
多くの企業が口を揃えて言います。
「太陽光発電が良いのはわかる。でも、今うちには払う余裕がない」
ここで私たちは痛感します。
「本当に支援すべきは、“やる気はあるが、資金が足りない企業”ではないか」
「この“導入できない現実”を乗り越えるには、金融や制度を含めた仕組みが必要だ」
デンキチェックの構想には、そうした導入の壁を壊す“しくみ”まで含める必要があると考えました。
7. “まだ世にない”プロダクト構想の誕生
こうして私たちは、請求書と郵便番号だけで診断できる“電気の健康診断”ツールを構想しました。
- 電力契約の見直し余地
- 補助金の対象可否
- 再エネ・省エネの最適提案
- 太陽光パネルの発電量の見える化
- CO₂削減量と経済効果の見積もり
- 実行スケジュールと導入負荷の見える化
- 業者選定のための見積もり収集
──これらをワンストップで経営者に届けるダッシュボード。
「よくわからないから先送り」から「いま、判断できる」へ。
現場の“わからない”と“信じられない”を超える、本当に“使える仕組み”を目指しました。
この構想から生まれたのが、『デンキチェック』です。
東京都との実証へ──社会実装の第一歩
https://note.com/tansocheck/n/n1f24201227b6
この『デンキチェック』は、現在東京都と連携しての実証実験が2025年4月から始まっています。
都内中小企業100社に向け、請求書データをもとに自動で最適な補助金・導入方法を提示する仕組みを提供。
行政の信頼性と、私たちの現場知見を掛け合わせ、これまでにない“実装型の支援”を形にしようとしています。
ぜひ、この取り組みを少しでもいいと思ってくれたら、嬉しいです。
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