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私は物語らない

 ストーリー?
 真にそれを読みたいのなら、名作と呼ばれる小説を読むべきです。
 しかし、真の名作は「ベストセラー」の中に含まれているとは限りません。
 むしろ自分の感性の中でシリウスのように爛々と、熱量を持って輝く一冊に出会うべきでしょう。

 私はへそ曲がりですから、「ストーリーを書くのにどうぞ」と言われてストーリーを書く気にはなれません。
 もちろん、それが業務であり、最大の目標であると言うのならば、別です。
 ですが、ここは私がどういうヒューマニティを有しているのか、また、どういう形で発露させるのかを見る場でしょう。

 演壇に立った独裁者ならよろしい!
 ただ、現実はパドックをぐるぐると回る競走馬のようなものです。
 不思議なもので、あのパドックで大人しくクルクルしている馬よりも、歴史に残るエピソードをやってのける馬の方が、名馬と呼ばれる活躍をしたりするんですよね。
 ダイワメジャーをご存知ですか? 彼はあの周回展示でいきなり横になってしまいました。まさに大物。

 なので、私を「物語る」方法として、好きな名言をごりごり貼っていきたいと考えています。
 そちらの方が無名人の咆哮より、よほど健全ではないでしょうか。
 本田耕介というひとつまみの砂より、ゲーテというほうき星の方が、とてつもなく強烈に印象に残るというものです。

■「天才になるには、天才のふりをすればいい」 サルバドール・ダリ

 私は天才に憧れますし、そうありたいと願っています。
 もっとも、そう思い始めたのはここ数ヶ月くらいなものですが。
 それまでは「行き過ぎた謙虚」という名の無礼を抱えた、完全なる小市民でした。自分を認めない人間に、どんな栄光があるというのでしょう?
 もちろん、これは自己弁護や自己陶酔にしてはいけません。想念が自らを作るということです。

■「お前の道を進め、人には勝手なことを言わせておけ」 ダンテ・アリギエーリ

 結局のところ。
 人は自分の生き方の責任を取らなければなりません。
 倣うも生き方。背くも生き方。
 よくよく耳を傾けて、いつしか身まで傾けて生きてきました。自分で歩む道筋の、なんと爽快なことでしょう。

■「愛の中では、人生の矛盾はすべて沈んで消え失せる。ただ愛の中でのみ、単一と二元とが衝突することなく存在するのだ」 ラビンドラナート・タゴール

 私は激烈な競争の果てに輝ける未来があるものと信じていました。
 まるで活動家のような言い草ですが、すべては勝ち取ってこそと考えていたのです。
 ただ、最近、愛というものについて考えることが増えてきました。
 ウラジーミル・ソローキンの「愛」を読んだから? そうかもしれませんが……あの短編集はラブどころかエログロですからねえ。

■「わずかな言葉で多くを理解させるのが大人の特質であるなら、小人はこれとは逆に実に多くの言葉を喋りたてながら、相手に何ひとつ伝えないという天与の才能を持っている」 フランソワ・ド・ラ・ロシュフコー

 紹介文と合わせて、ここまで長くなってしまった数多の文字群に、激烈な喝を入れていただきました。
 そうです。まことに多くの言葉でもって飾り立てて参りました。
 かの世界で最短の小説、「For sale: baby shoes, never worn」に学ばなければならないのかもしれません。
 ええ、「Cuando desperto, el dinosaurio todavia estaba alli.」もいいですね。「dinosaurio」が恐竜であるとこの小説で知りました。