就職活動をしていると、将来のキャリアについて考えたり、自分が数年後どのようになっているのかイメージする機会が多くあります。
実際に、コンセントの先輩たちはどんな「現在地」に立っているのでしょうか。さまざまなバックグラウンドをもち新卒で入社する社員が、どのような仕事や経験を経て現在に至るのか、そして今後についてどのような目標を描いているのか。内定者の中井健太から、入社4年目でサービスデザイナー/インクルーシブデザイナーの中安晶さんに話を聞きました。
/登場人物:株式会社コンセント|サービスデザイナー、インクルーシブデザイナー 中安 晶
慶應義塾大学環境情報学部環境情報学科を卒業後、2020年にコンセントに入社。在学中からジェンダーを中心に学内外の社会課題に取り組んできた経験をもとに、デザイン倫理やユーザー中心の視点を用いて、サービスデザイナーとして企業の業務改善やコンセプト開発、サービス運用に携わる。
/登場人物:内定者(2024年4月入社予定)中井健太
早稲田大学国際教養学部を2023年9月に卒業。2024年4月にコンセント入社予定。在学中は社会学を専攻し、誰も取り残されない社会づくりについてマイノリティの視点から研究。大学3年時に経験したロサンゼルス留学でUX/UIデザインに出会い、デザインを仕事にしたいと考えコンセントへの入社を決める。
サービスデザイナーとして常に「インクルーシブ」の視点を意識したいという強い思い
中井 はじめに、中安さんの現在のコンセントでの仕事について教えてください。
中安 Strategic Design groupという部署に所属していて、サービスデザイナー/インクルーシブデザイナーとして仕事をしています。サービスデザインというとかなり広義ですが、今自分が携わっているのは、公共、民間を問わず、新しいサービスを立ち上げるときのリサーチや課題の定義など、プロジェクトのゴールや進め方を探索する初期のフェーズを主に担当しています。
例えば、クライアントが自社で提供するウェブサービスの改善をするときに、現行のサービスを利用しているユーザーが何を欲しているのか、課題がどこにあるのかといった点をインタビューなどの手法でリサーチし、具体的な改善の方針を決めます。サービスによっては実際に使われている商流などを理解する必要があるので、実際に現場に足を運ぶこともあります。基本的なプロセスはユーザーリサーチを重ねながら課題を整理し、それに沿ったゴールを策定することですが、さまざまなクライアントそれぞれにあった進め方ができる柔軟な対応力とユーザーに寄り添える想像力が求められる役職です。
中井 中安さんがサービスデザイン、インクルーシブデザインの仕事を志すきっかけとなった背景はありますか?
中安 入社前と入社後で大きく分けて2つあります。大学から学内でのいろいろな活動に参加していたこともあり、入社前はシンプルに、社会的に見過ごされている人々を置き去りにしないデザインを社会に届けたいという気持ちがありました。でも実際にデザイナーとして仕事をする中で、デザインのアウトプットをするにしても、単純に最終的な表現が良くなることだけでなく、それを生み出す過程一つひとつにおいて注意しなければいけない点があるなと気づきました。良い成果物はユーザーのことを考え、ユーザーの視点をプロセスの各段階で確認、反映ができています。逆も然りで、一般的に悪い、とかさらには炎上してしまう成果物は、ユーザーの視点やインクルーシビティに関して各過程での確認がしっかりされていないケースが多いことに仕事をしながら気づきました。そういった経験から、社会から見過ごされやすい人々の声をしっかり反映できる人になりたいと強く考えるようになり、特にプロジェクトの初期段階からアウトプットまでの各段階に関わることができて、チームに対してもユーザーの視点に立って考えられているかをリマインドできるサービスデザイナー、インクルーシブデザイナーとして進んでいきたいと思うようになりました。
中井 サービスデザイナーとインクルーシブデザイナーという2つの肩書をもっていますが、それらの関係性はどのようなものなのでしょうか?
中安 ややこしいのですが、やること自体は1つで、インクルーシブなサービスをつくるデザイナーということが自分の認識です。インクルーシブなデザインが単体で存在しているわけではなく、サービスデザイナーとして仕事をする上でインクルーシブな視点がデフォルトで必要であると考えています。あえて2つ肩書きをもっているのは、インクルーシブの必要性を常に明示的に発信できるサービスデザイナーでありたいという思いからです。近年“インクルーシブ”というワードをさまざまな会話の中で耳にするようになりましたが、現状具体的な変化は十分ではなく、改善のためにできることはまだまだたくさんあると自分は考えています。「なんとなく課題感はあるけど、実際にどうやって取り組むべきかわからない」というところで具体までは進んでいないような場合も多いので、あえて自分がインクルーシブデザイナーという肩書をもち、同じ課題感をもっているさまざまな立場の人に存在を知ってもらうことで、一緒に変化を起こしていけるよう発信をしています。
中井 ありがとうございます。自分自身、大学でマイノリティ研究をしていたので、中安さんの強い思いに共感できましたし、入社後そういったプロジェクトに積極的に参加したいです。
中安 コンセントはさまざまなデザイナーが横断的にプロジェクトに参加して仕事をしているので、挑戦したいことがあれば手を挙げることでいろいろなことにチャレンジできると思いますよ。
中井 ありがとうございます。働き方という点に関して、これからコンセントに入社する立場からすると、皆さんが1日の中でどのような仕事をしているのかが気になるポイントなのですが、主な動き方はありますか?
中安 自分はリモートでの勤務を基本としています。例えば、1日の3分の2がミーティングであれば、それ以外の時間を自分が作業する時間に充てています。ミーティングに関しては人によってもそのバランスは異なりますが、自分の場合は主に社内のものと社外の方との打ち合わせに分かれていて、社内で行うものがメインで、それに加えて週1回、2回の割合でクライアントとのミーティングがあるという感じです。限られた時間の中で、どれくらいの時間をかけて仕事を進めるか、次のミーティングをいつ設定するのが良いかを考えながら、仕事を組み立てます。時々、リサーチなどでクライアントのオフィスに伺うこともあります。コロナ禍の以前は、対面のワークショップも多かったのですが、現在ではオンラインで実施することも増えました。
ユーザー中心で考える大切さを再認識したあるプロジェクト
中井 中安さんはこれまでサービスデザイナーとしてさまざまなプロジェクトに関わってきたと思うのですが、中でも記憶に残っているものがあれば教えてください。
中安 自分の中で特に記憶に残っているのは、入社後に担当した、卵巣がん患者のための主体的な意思決定を支援するためのツールをつくるプロジェクトです。
卵巣がんの治療は基本的に、治療プロセスの特性から、告知から実際の治療開始までに時間がない場合が多いです。一方で卵巣は個人のライフプラン設計に大きく影響する可能性のある臓器だったりもして、患者は今まで知るよしもなかった自分の人生を左右する問題について非常に限られた時間の中で決断をしなければいけないんです。プロジェクトにおける私の役割は、そういった問題に患者が向き合うときの指針や支えになる情報を見える形で残すことでした。
プロセスの中で、実際に卵巣がんを経験した方々や医師の話を聞きながら、患者が知りたい情報や、大きな決断を下すうえで負担を軽減する情報などをつくっていきました。
コスモ・ピーアール 卵巣がん患者の意思決定を支援する情報媒体
https://www.concentinc.jp/works/cosmopr_paper_202111/
中井 記憶に残っている理由はどんな点でしょうか?
中安 自分が全く経験したこともないしこれからも経験することのない「卵巣がん」がテーマのプロジェクトにおいて、ユーザー中心に考えるということがどういうことか考えさせられたプロジェクトだからということがあります。これまで自分は、ユーザー中心で考えることでユーザー間のコミュニケーションや情報コミュニケーションのシステムをつくることを目標にしていました。プロジェクト内で実際に卵巣がんを経験した方々と話し、そこから得たインサイトを元に形をつくって1つの冊子にまとめていくプロセスは、自分が社会に出て初めて経験した大きなサービスデザインの仕事だったので、とても記憶に残っています。
責任の範囲が広がると共に変化したプロジェクトへの向き合い方
中井 入社1年目〜4年目にかけて、自分自身でできることなど広がっていったのではないかなと思うのですが、仕事の内容や範囲、仕事の手法などはどのように変化してきましたか?
中安 プロジェクトにおいて自らが提案、リードできる範囲が広がってきました。入社当初はアサインされたプロジェクトのなかで、上長や周囲のメンバーが設計したプロセスに沿ってリサーチをしたり、タスクを進めたりしていました。2年目から少しずつ業務の中で自分が設計する規模が大きくなっていき、2年目の最後からは自分がメインでクライアントと関わるようになりました。
中井 責任の範囲が増えていく中で、不安に思う瞬間などはありませんでしたか?
中安 最初はやはり自分がメインでクライアントと関わることに不安はありました。ただ、コンセントには、若手社員がプロジェクト責任者としてチャレンジすることをサポートする文化、環境があります。自分でプロジェクトを設計したり、クライアントとの関係づくりをリードし始めたときも、横に立ってサポートしてくれるシニアメンバーがいました。そういった体制が整っていたので、不安は比較的少なかったですし、早くからプロジェクトの設計に携わることができました。
中井 非常に中身の濃い4年間を過ごしていると感じましたが、入社当時と現在の自分を比較したときに、デザイナーとして、社会人として、成長を感じる部分はありますか?
中安 デザイナーとしてという観点からは、リサーチの際に取る手法の選択肢は増えたなと感じます。大きく2つあって、1つは、ユーザーインタビューをする上でのマインドセットや話の聞き方です。昔は「とにかく話を聞きにいく」みたいなところが自分の中にあったのですが、話の聞き方だけでなく、いかに相手の置かれた状況や背景を理解し、相手の視点に立てるかなどさまざまなやり方を試せるようになったと感じます。もう1つは、先ほどの視点を取りこぼさないという点にもつながるのですが、デザイナーのもちうるバイアスに留意して、より多角的な視点を取り込むための工夫の仕方です。リサーチ自体の改善方法や、見逃しているこんな人の声も聞いた方がいいなど、積極的にアイデアを出せるようになったなと感じます。入社したばかりのときは、上長が設計してくれたプロセスに従って、そのインタビューに同行するということが多かったのですが、今では「課題把握のためにはこういう人の話も聞くべきではないか」というような設計自体を自分でできるようになりました。社会人としては、より誠実にクライアントと向き合えるようになったと感じます。例えばプロジェクトを設計する際にもこれはできる、できないというのを曖昧にせず、できないことはできないとはっきり相手に伝えることで、プロジェクト進行におけるリスクを避けるとともによりクライアントと誠実なコミュニケーションを図れるようになったと思います。リスク回避の必要性が見えるようになっただけではなく、それをしっかりコミュケーションできるようになったというのは社会人として自分が大きく成長できたところなのかなと考えています。
コンセントでの4年を経た今、目指すデザイナー像
中井 これまでの経験も踏まえて、これから挑戦したいことは何ですか?
中安 インクルーシブを芯にもった組織デザイン、サービスデザインを行っていき、少しでも社会が良くなるように貢献したいと考えています。これまでいろいろなクライアントと関わってきて、インクルーシブな視点に必要性を見出している方が多くいることに気づきました。サービスデザイナー、インクルーシブデザイナーの肩書きをもっている身としても、やはりそういった視点をもっている人々と仕事をすることがよりインクルーシブな社会づくりを加速させることにつながると思っているので、今後はよりそういった方々と仕事をすることで変化を起こしていきたいです。
中井 将来はどのようなデザイナーになりたいと考えていますか?
中安 インクルーシブな立場からサービスを考え、つくることのできるデザイナーとして、そしてインクルーシブデザインを一緒に行う人を増やす媒介者としても成長を続けたいです。加えて、サービスづくりをする中で自分が想定できていない他者がいる可能性を常に意識していたいと考えています。自分は常に誰かを排除しているという危険性を想定してデザインをすることで、完璧にユーザーのことを考慮し尽くすことはできないにしても、より排除の少ない方に少しでも近づいていくことはできるのではないかなと思っています。もし自分が完璧に検討を尽くしたと思ってしまったら、そこで考えることをやめてしまうし、インクルーシブの原動力である他者への想像力が働かないと思うんです。だからこそ、私はこの「常に想定できていない他者がいる可能性」を頭に留め、デザインに努めたいと考えていますし、今後さまざまなクライアントと関わる中でその視点を共有していきたいと考えています。
中井 ありがとうございます。最後になりますが、デザイナーを志す学生や、私のようなこれから入社を迎えるメンバーに対して、中安さんからメッセージやアドバイスがあれば教えてください。
中安 これからのキャリアを意識して、実際のデザイン業務に使えるかどうかでインプットやデザイン技術の研鑽を行うことも大切ですが、まずは今ご自身が学んでいることや、取り組んでいるテーマについてより深めてみてください。コンセントに限らずですが、選考を受ける時点で、また入社後プロジェクトに参加する時点で実際の業務内容に精通していることは不可能ですし、そうある必要もあまりないのではないかと個人的には考えています。業務については実際の仕事を通して学んでいけますし、コンセントにはそういった体制が整っています。今自分が取り組んでいるテーマについてより深めていくと、個人の強みになってどこかで業務とも接続してくることがサービスデザイン分野のおもしろさかなと自分は考えています。仕事の準備と気負わず、自分のテーマ・興味を大事にして磨き、掘り下げていってみてください!