プロトスターでは、実はあまり深く知られていないスタートアップ界隈のこと、そしてそれを支援する会社の存在をもっと広く知っていただけたらと常々考えています。
今日は、大企業との共創にスポットを当て、東東京で始まっている新たな取り組みをご紹介します。お招きしたのは、三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部の塩畑 友悠さんと山下 千恵さん。弊社CCO栗島 祐介とともにお話を伺いました。(聞き手:プロトスター 村上)
ーー塩畑さん、山下さん、本日はよろしくお願いします。まずはじめに、御社のベンチャー共創事業部について教えてください。また、ベンチャー(及びスタートアップ)と御社が共創したいとお考えの理由についてもご紹介いただけますでしょうか。
塩畑友悠さん(以下、塩畑):私の所属するベンチャー共創事業部は、2015年に立ち上がり、今年4月で7年目を迎える部門です。既存事業強化、新規事業の創出を主な目的として立ち上がりました。具体的には、三井不動産の本業である不動産業の強化を行うためにベンチャー・スタートアップの力をお借りしたいという考えや、既存事業の強化だけではなく、様々な新規事業の開発を行っていきたいという思いがそこにありました。
手段としては、スタートアップへの投資、スタートアップ向けのオフィス事業を通した場づくり、コミュニティ作りを行ってきました。
ーー三井不動産のベンチャー共創事業部「31VENTURES(サンイチベンチャーズ)」とプロトスターは、日本橋にあるコワーキングスペース「31VENTURES Clipニホンバシ」で、ベンチャー支援に取り組んできました。どんな思いでやってこられましたか?
塩畑:会社としてのパフォーマンスで終わらず、本当に事業が生み出せるのか?を考えて本気で進めていくスタンスでいます。私がこの部署に配属となったのは2018年10月でした。すでにスタートしていた事業でしたが、チームメンバーの強い思いが良い効果をもたらしていましたね。もちろん私も思いは同じです。
既存事業をただ同じように進めていくだけでは面白くない、何か新しいことにチャレンジしていかねば...という危機感を持った好奇心旺盛なメンバーですので、ベンチャーとの取り組みにも積極的です。この「個人の思いが強い」というのが弊社チームの強みですね。本業である不動産もサービスの見直しやDXの活用など、可能性は無限に考えられます。新しい事業を考える余地はたくさんある!と、マインド的にも高い視座で取り組めていると思います。
栗島祐介(以下、栗島):プロトスターとして三井不動産さんと初めてご一緒したのは「スタートアップツールチラ見せ♡ナイト」というイベントでした。その後2017年から、日本橋にあるコワーキングスペース「31VENTURES Clipニホンバシ」で、ベンチャー支援に取り組み始め、2019年9月には企業に所属している社会人を対象とした大人起業家コミュニティ「Swing-By(スイングバイ)」の立ち上げでご一緒しました。
大企業とスタートアップで実績を作っていくことに、三井不動産さんほど「前のめり」な会社は多くありません。オープンイノベーションとしてスタートアップを支えていかなくては...という思いはあっても、やり方を模索中で、勝ち筋が見えていなかった当初から非常に積極的にコミットしていただけて、大手の貫禄に圧倒されました。塩畑さんがおっしゃるように、思い入れのある方が取り組まれているからこそ生まれるものだと思っています。
※三井不動産さんと弊社の取り組みについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。
大人起業家によって変わる、東京イーストサイド | 31VENTURES
https://www.31ventures.jp/column/210226/
ーーClip運営、Swing-Byの運営、THE E.A.S.T. 立ち上げの協業など、一連の取り組みにおけるプロトスターに対する率直なご感想を伺えますか?
塩畑:プロトスターさんには、とにかくスピード感があります。スタートアップとの接点も非常に多く、動きがものすごく速い。Swing-Byの運営で新たなムーブメントを起こすことも得意分野なのだと感じています。ここは大手企業が苦手なところです。プロトスターさんが実質主導して進めてくれることでスピード感を持ってやっていけるところが有り難いですね。
ーーありがとうございます。栗島さんいかがですか?
栗島:三井不動産のみなさんとは「コミュニケーションしやすい」という点がとても有り難いです。大企業の方々とご一緒させていただくと、どうしても決定までに時間がかかってしまうことが多いのですが、機動力や推進力が高く、スタートアップと組んでいるようなテンポでやらせていただけています。大企業の方々との取り組みで、こんなスピードで進められることはめったにありません。やりとりも、Facebookのメッセンジャーを使ったりとスピーディです。
塩畑:メールだとやりとりに時間がかかるので、チャットのようなライトな連絡ツールは有り難いんですよね。
ーー本日ご同席ただいている三井不動産の山下さんにもぜひコメントいただきたいのですが、同じチームでお取り組みになる中で、大企業とは思えないと驚いたことや印象的なことはありますか?
山下千恵さん(以下、山下):他部署を見ていると決裁スピードなど比較的大企業らしいペースだと思うのですが、私たちのチームは、個人の裁量が大きく、それが事業を前に押し進める原動力となっていると感じています。例えば「塩畑がそう考えるならそれでいこう」と上長が懐深く任せてくれるので、その点は大企業らしからぬところかもしれません。思いを具現化していける場所だと思っています。
塩畑:メンバーそれぞれの思いが強いので、担当者の思いに組織全体が突き動かされる部分もあるのだと思います。
ーー現在は調整中ですが、起業家寮を立ち上げるプロジェクトもありました。起業家のための場所作りをすることに社内で反発はなかったのでしょうか。どのように推し進めてこられましたか?
塩畑:現下の状況で、結果的にはペンディング状態ですが、ロジックを持って提案していたので特に反発はありませんでした。起業を成功させるには環境が重要なので、起業家のための場はワークスペースだけでなく住む場所も必要ということを身に染みて感じています。当初は、自身に思いがあれば起業は実現できると思っていましたが、そう簡単なことではないですよね。周りに先輩や仲間がいた方が進めやすいことは間違いありません。周りからの良い影響があって、情報が集積する場所が必要ではなかろうか、と。そうなると必然的にワークスペースだけでなく、生活の場も重要になってきます。当然のことですが、実現するとなると実務として物件の収支などお金の話も出てはきますが、社内的にも大枠で賛同を得られています。
栗島:プロトスターとしても、「環境が大切」とずっと考えてきました。起業家が生まれるためには、ホットスポットと呼ばれる強烈な才能が生まれる場所を作る必要があります。DeNAの南場会長がおっしゃっていましたが、「ヘルシーな嫉妬、素敵な勘違い、怒り駆動」この3つが交わる環境が作れるとどんどん起業家が生まれるのです。
いま、東大発ベンチャーが数多く生まれていますが、隣の友人が成功して起業していけば、自分にできないはずがない!と勘違いとヘルシーな嫉妬が生じます。そして「なぜ自分にはできないんだ!」と怒りに駆り立てられることで新しいものが生まれるのです。
クリエイティブは、実のところ、怒り駆動ものが多いですよね。ゼロイチの段階では、先に触れた3つが重要となります。大人になるとこうした衝動は錆びてくるので、それが発生させられる環境に身を置くことがなおのこと必要ではないでしょうか。
東京では、オフィスや住環境の環境整備は進んでいますが、街全体で環境を作っていくことが今後必要なのではないかと思っています。例えば、シリコンバレーでは、「あのカフェにいくと、いつも企業家と投資家が話をしている」なんて話を耳にすることが多々あります。常に刺激を受けられる環境が整っているんですよね。これが東京でもできれば、スタートアップの街ができるのではないかと考えています。
ーーSwing-Byや、THE E.A.S.T. の立ち上げで印象的だったことはありますか?
塩畑:コロナ禍における、スタートアップのオフィスのあり方についてとことん議論しました。プロトスターさんやヒトカラメディアさんの力を借りながら、実際の起業家の声をキャッチアップして進めることができました。我々だけではどうしても仮説で考えるしかない部分を、エビデンスを持ってきちんと捉えられたことの収穫は大きかったです。アンケートによるデータに加え、zoomを通して対面でヒアリングした内容を、4月のスタートに向けて反映できました。不安はゼロではないですが、自信を持ってローンチできる状態です。
ーープロジェクトに取り組んでみて、感触はいかがですか?
塩畑:予想以上の結果を生んでいることもあり順調です。Swing-Byでは、すでに資金調達されている方もいらっしゃるので、このコロナ禍の1年の成果として想定以上です。当初は、こんなに早くに数千万単位の資金調達まで達成できるとは思っていませんでした。すでに2社ほど実績が出ている状況です。やや人数が減り気味という状況ではありますが、削ぎ落とされて本気度の高い人だけ残るので適切な状態になってきたのではないかと思っています。
ーー御社がプロトスターと協業されるにあたり、期待されるところを教えてください。
塩畑:プロトスターさんは起業する人、起業した人へのフォローがピカイチですよね。事業会社である我々はシード期に支援することが難しいので、駆け出しの方々へのフォローをしていただくことで、うまく補完し合っていければと思っています。
栗島:THE E.A.S.T. ができることで、人を呼びやすい環境ができます。今まではアウトバンドに情報を広めていくことが基本でしたが、インバウンドに場所の魅力をお知らせしていくことで自然と多くの人を集めていけることが強みとなりそうです。「あそこにキャンプファイヤーがあるから集まってみようぜ!」といったイメージです。
『E.A.S.T. Project』https://www.east-project.tokyo/
ーーこれからTHE E.A.S.T. および東京イーストサイドをどのようにしていきたいですか?
塩畑:東京の東側、中央区や千代田区などは大企業が多い地域です。大企業と起業家の間には心理的距離があるというのが現状ですが、東側の賃料が比較的安価な地域にスタートアップを増やし、大企業との協業を経て成長したスタートアップが大企業となり...と、じわじわと東京駅方面に寄っていく。そして今度は刺激された大企業の社員の中からも起業家が誕生する、といった良い循環を生んでいけたらと思っています。大企業とスタートアップの距離を近づけることで生まれるものがあるはずです。東側エリアで循環するサイクルを作り出していきたいですね。
栗島:最近のスタートアップのみなさんは「順張り」だなぁという印象を持っています。普通のレールに乗って普通に進めていくサラリーマンみたいな起業家が多いというか、そこに勿体なさのようなものを感じています。新しい価値を生み出していくはずのスタートアップが全然ロックじゃない。順張りに渋谷エリアにいるような感じではなく、逆張りで東の方で新しいもの作る。そんな逆張りに価値を感じられる人たちと新しいムーブメントを起こしていきたいですね。
三井不動産さんは、逆張りにマッチするように感じています。
例えば、アクセルスペースという衛星などを作る宇宙ベンチャーのために、オフィスのエレベーターの設計から変えたということがありました。衛星が運べるように大きなエレベーターを設置されたんです。そこに三井不動産さんの熱い思いを感じました。箱に合わせて人を呼ぶのではなく、一緒に作り上げていくところが素晴らしい。協業する上で、こんなに有り難い良い会社はなかなかありません。ロック魂を感じました!笑
塩畑:三井不動産の社風は「やさしい文化」なんですよね。やりたいことがあるならば、とにかくやっちゃおうよ!と応援するマインドがあるのだと思います。エレベーターの件もまさにそうだと思っています。アクセルスペースさんとは、ぜひご一緒したかったので、場所がないという話を聞いて「うちで作ります!」と話が進みました。笑
ーーTHE E.A.S.T. でもご一緒することがあろうかと思います。プロトスターを検討されている方に向けてメッセージをいただけますか?
塩畑:プロトスターさんの中にいれば、スタートアップとの接点が増えるのはもちろんのこと、スタートアップの原理原則がよくわかるのではないかと思います。実態を肌で感じられる。そしてスタートアップをブラッシュアップするノウハウをお持ちの会社です。様々な成功体験を持っている方も多いし、成功された方とのリレーションもとれている。だから、働きながらの学びがきっと大きいはずです。1つの成功体験に縛られることなく複数の体験を聞ける環境なのではないでしょうか。これから起業したい人はもちろんのこと、単純に起業家から刺激を受けたい人にもマッチしそうです。活躍できるし、成長できる場ですよね。
山下:プロトスターさんの強みは、アグレッシブにチャレンジしていくこと。今、多くの大企業や行政がスタートアップの力を借りて成長したいと考えています。そんなスタートアップの真ん中にいるのがプロトスターさん。いち歯車としてだけでなく、当事者として挑戦できる組織体は、とにかく成長したいという方にぴったりの環境であるように感じました!
ーー社外の方からそういった評価をいただけるのは嬉しいですね。ありがとうございます。
栗島:弊社は「求めるものには限りなく与える」社風です。掴み取る意欲がある方、自律自発的な方に向いている環境だと思います。挑戦者支援の会社なので、ぜひ挑戦者の方に来ていただきたいです。また、我々もTHE E.A.S.T. に入居させていただくので、この環境で働けることも魅力です!
ーー最後に、塩畑さんからTHE E.A.S.T. の魅力を改めてお願いします。
塩畑:プロトスターさんも4月から入居いただくTHE E.A.S.T. ですが、まず1つは、単純なスペース利用の場ではなく「発信できる拠点」であることです。オンライン・オフライン併用型のイベントスペースがあり、その場を使った発信ができます。31VENTURES主体で、発信にも力を入れていきたいと思っています。
2つ目は、やはり「リアルな場の価値」です。リモートではなく実際に集るのであれば、そこは議論やディスカッションの場となるべきですよね。単純に作業したいのであればオフィス以外にも選択肢があるこの時代に、いかにリアルな場が活用できる環境であるかは重要です。もちろん、オフィスの中にも作業用スペースを区切って作っています。その両方が1つの建物の中で完結できるのも利点です。また、1階部分にカフェとコワーキングスペースがあり、入居者は必ずそこを通過することになるので、他の起業家と顔を合わせる機会が必然的に生じます。
コワークと個室オフィスが良いかたちに融合していて「発散と交流がハイブリットにできる」場所であるところが大きな魅力だと思います。
ーーありがとうございました。
『THE E.A.S.T.』https://www.31ventures.jp/theeast/