「自分には才能がない」。そう絶望し、一度は夢を諦めた20代を経て、大手企業「電通デジタル」で安定したキャリアを手に入れた武本さん。しかし32歳になった彼女は今、社員数名のスタートアップで、再び「キャラクタービジネス」という荒波に挑んでいます。
なぜ、安定を手放してまで、リスクある道を選んだのか。そこには、日本の産業としてのIP(知的財産)への確信と、一度きりの人生に対する「ある覚悟」がありました。挫折と再生、そして新たな挑戦について、赤裸々に語ってもらいました。
才能のなさに絶望し、救急車で運ばれた20代
── 本日はよろしくお願いします。武本さんは、これまでかなり多様なキャリアを歩まれていますよね。まずはこれまでの経歴を教えていただけますか?
武本:よろしくお願いします。そうですね、一貫したキャリアというよりは、結構さまざまな変遷を辿ってきました(笑)
最初は人材会社で新規事業の立ち上げに関わり、そこで「コンテンツで人の心を動かすこと」の面白さに目覚めました。もっとその力を伸ばしたいと思い、2社目でキャラクターやSNS漫画を手掛けるベンチャー企業へ転職したんです。
── 最初からエンタメやIPの領域に関わっていたんですね。
武本:はい。高校時代からSNSにどっぷり浸かっていたこともあって、「自分はSNSが得意だ」という自負があったんです。でも、その自信は見事に打ち砕かれました。
そのベンチャーでキャラクターの立ち上げを任されたんですが、本当に全く当たらなくて。何を出しても「無風」。数字がすべての世界で、結果が出ない現実に打ちのめされました。「自分には才能がない」「向いていない」と自分を責め続け、最終的にはメンタルが限界を迎えて救急車で運ばれてしまって……。
── えっ、救急車ですか……。そこまで追い詰められていたとは。
武本:そうなんです。それできっぱり心が折れました。「私にはゼロからキャラクターを生み出す才能はないんだ」と諦めて、もっと大きなエンタメの仕組みの中で生きようと、ユニバーサルミュージックへ転職しました。
そこではアーティストのSNS運用などを担当し、チャートに入るためにTikTokでどうバズらせるか、といったプランニングを担当していました。やりがいはありましたが、全国を飛び回る激務で。愛犬との時間を大切にしたい、もっと地に足をつけて働きたいと思って転職したのが、前職の「電通デジタル」でした。
「最高の会社」で気づいてしまった、人生の天井
── 電通デジタルといえば、デジタルマーケティング領域の最大手です。実際に働いてみていかがでしたか?
武本:「めちゃくちゃ良い会社」でした。周りは自分よりも賢くて仕事ができる人ばかりなのに、信じられないほど優しい。誰かが困っていれば全力でサポートする文化ですし、子育てや家庭を最優先にする配慮も完璧でした。
── 素晴らしい環境ですね。仕事の内容も充実していた?
武本:はい。ナショナルクライアント(大手企業)の案件を担当し、予算規模の大きなプランニングや、プレゼン資料の作り方など、社会人としての「型」を徹底的に叩き込んでもらいました。給与水準も高く、福利厚生も整っている。
正直、「ここでずっと働いていたいなぁ」と思っていました。辞める理由なんて、これっぽっちもなかったんです。
── それなのに、なぜ今回の転職を決断されたのでしょうか? 誰もが羨む環境を手放すのは、相当な勇気が必要だったと思いますが。
武本:そうですね。きっかけは、入社して2年が経った頃、ふと自分の人生の「天井」について考えたことでした。
今のまま順調にいけば、年収は1000万円くらいまではいけるかもしれない。副業も頑張れば、プラス数百万はいけるはず。でも、「あれ? 私の人生のMAXってここなのかな?」と思ってしまったんです。
── 天井、ですか。
武本:今の生活は十分に幸せです。でも、これ以上の「熱狂」や、自分の想像を超えるような「爆発的な変化」は、この延長線上にはないかもしれない。自分の人生がこじんまりと収まっていくような、不思議な虚無感に襲われたんです。
そんなタイミングで、副業で手伝っていた今の会社で企画したキャラクターの動画がXでバズったんです。
── 一度は諦めたはずのキャラクタービジネスで、結果が出たんですね。
武本:そうなんです。「私には才能がない」と思っていたけれど、結果が出た。「もしかしたら、もう一度やれるかもしれない」という希望の光が見えました。
32歳。子供もいないし、守るべきものもまだ少ない。「人生で一番リスクを取って勝負できるのは、今しかないんじゃないか?」って。
正直、安定性などの条件面だけで見れば、転職するメリットは短期的にはないかもしれない。それでも、上場や売却を目指すようなヒリヒリする世界にもう一度身を投じたい。
人生を「大航海」だとするなら、安定した港を出て、見たことのない景色を見に行きたいという欲求が勝りました。
32歳、プロとして挑む「リベンジマッチ」
── なるほど。「かつて挫折した夢へのリベンジ」でもあるわけですね。現在は具体的にどのような業務を担当されているのですか?
武本:「キャラクタープロデューサー」として、大きく2つのことをやっています。
一つは、ゼロから新しいキャラクターを生み出す新規企画。もう一つは、既存のキャラクターのコンテンツ展開の統括です。
企画を出して、クリエイターさんとチームを組み、キャラクターデザインから動画の構成、SNSでの投稿戦略までを一気通貫でディレクションしています。
── 一度挫折した20代の頃と、今の武本さんで、何が一番違いますか?
武本:「遂行力」と「巻き込み力」ですかね。。。
以前は、面白いアイデアが出なければそこで終わりでした。でも今は「何がなんでも形にする」という気合いがあります(笑)。
いい企画が出ない苦しみから逃げず、どうすれば伸びる企画になるかを考えきること。そして、自分一人で抱え込まず、優秀な社外のプランナーや芸人さんなどを巻き込んで「強いチーム」を作ること。
裸一貫で挑んで砕け散ったあの頃とは違い、今は武器を持って戦えている感覚があります。
── 今、この会社で目指しているゴールを教えてください。
武本:目指すは、「田舎のイオンモールのお菓子売り場」です。
── イオンモール、ですか?
武本:はい。先日、実家のある奈良のイオンに行ったんです。そこには、ディズニーや今をときめく『ちいかわ』と並んで、SNS発のキャラクターのお菓子が当たり前に置かれていました。
東京の感度の高い人たちだけが知っているのではなく、地元の友人も、その子供たちも当たり前に知っている存在。子供が「これ欲しい!」とねだり、大人も癒やしを求めてグッズを買う。そんな光景を作りたいんです。
── 確かに、それが「本物」になった証かもしれませんね。
武本:そうなんです。日本の産業を見渡した時、世界と戦える武器はもう「観光」と「IP(知的財産)」しか残っていないと私は本気で思っています。
私たちは、そのど真ん中で、次の時代を代表するIPを作ろうとしています。自分たちが作ったキャラクターが、世代を超えて愛され、100年後も残るような文化になる。そんな未来を本気で描いています。
根が良いやつと、見たことのない景色へ
── とても夢がありますね。現在、一緒に働くメンバーを募集されているそうですが、どんな方に来てほしいですか?
武本:スキルはもちろん大事ですが、一番は「根が良いやつ」であってほしいですね(笑)
── 根が良いやつですか(笑)具体的には?
武本:このフェーズのスタートアップだから、正解はないし、うまくいかないことの連続です。だからこそ、チームに対して愛があるとか、そういう人間としての根っこの部分がすごく大事だと思っていて。
愛がない人は、何をやってもダメなんですよね。これは私の座右の銘なんですけど(笑)特にキャラクターという、人の感情に寄り添うものを作る仕事ですから。
── 愛、大事ですね。キャリアに迷っている読者に向けて、メッセージをお願いします。
武本:もし今、大企業にいて「このままでいいのかな」とモヤモヤしていたり、「もっと人生で博打を打ってみたい」と燻っている人がいたら、ぜひ一度話をしに来てほしいです。
チームで世界を狙うIPを育てるプロセスには、また別のダイナミズムがあります。上場という大きな目標に向かって、みんなで船を漕いでいく日々は、間違いなく刺激的です。
── 最後に一言お願いします。
武本:「どうせ私なんて」と諦める必要はありません。かつて救急車で運ばれるほど挫折した私でも、今はこうして真剣かつ楽しみながら働けています。
「ワクワクする」「やってみたい」という気持ちさえあれば、素質は十分です。
安定した港を離れ、私たちと一緒に、見たことのない景色を見に行きませんか?