人類学者のUX研究コラム:FacebookやSalesforceも参加!ビジネスエスノグラフィの国際会議で見えてきたUXリサーチの価値

EPIC2018のテーマは「エビデンス」

みなさま、こんにちは。

昨年に引き続き、10月に開催されたビジネスエスノグラフィの国際会議である『EPIC』に参加してきました。

今年の開催地はハワイということで、昨年と比べ日本を含むアジア地域からの参加者も増えるかと期待したのですが、今年もやはり北米からの参加が大半でした。なかでも、西海岸の企業の活発さが目立った印象を持ちました。

ちなみに、今年のカンファレンステーマは「エビデンス」です。リサーチ業界に限らず、近年では”客観的”な「エビデンス」の提示が求められる機会がしばしば見受けられます。

ただ、その一方で「エビデンス(とされるデータ等)」の扱い方、より具体的にいえば、そうしたデータの解釈の仕方や意味づけ方は、実は無数にあることにも多くの人が気づいているのではないでしょうか。データ収集の技術がめざましく向上した世界の中でこそ、そのデータを分析するための視点や拠りどころも、いっそう必要とされているように思います。

言いかえれば、いわゆるビッグデータの時代。つまり、定量的なデータが溢れる時代になればなるほどに、エスノグラフィのような定性的な視点や手法が重要な意味を持ってくる、ということでしょう。

応用的な”エスノグラフィ”に焦点を当てたこの会議には、大企業の「UXリサーチャー」や「エスノグラファー」、「コンサルタント」等の様々な参加者が集ってきますが、そこに「データサイエンティスト」の姿も見受けられたことは印象的でした。

社会調査における手法や収集されるデータは、しばしば定量的/定性的という二分法で語られます。


両者の関係性については常に議論されるところですが、残念ながら実際の現場では分断されていることも多く、それらが有機的に連関するような調査設計には工夫が必要です。

私自身も、かつて従事したリサーチプロジェクトでデータサイエンティストの方と協働させていただいた経験があり、定量と定性を連携させることの難しさと重要性とを痛感しています。

エスノグラフィの会議にデータサイエンスが当たり前のように参加できるようになってくれば(もちろんその逆もあり得るでしょう)、リサーチもまた新しいフェイズへと移行できるのかもしれません。


グローバル企業にとってのエスノグラフィの価値

さて、話を『EPIC2018』に戻しましょう。

現在、エスノグラフィがどのような関心を集めているのかは、この会議のスポンサーや参加者の層を見ることからも伺い知ることができます。

今年のスポンサー企業には、音楽配信サービスのSpotifyやFacebook、 Uberといった企業も新たに名を連ね、昨年までとはまた異なったラインアップでした。

こうした企業からの参加者が増えたせいか、昨年と比べても比較的全体の年齢層も若返っており、20〜30代が目立ったことも特徴的です。中でも私が興味深いと思ったのは、そうした企業が特に、UXリサーチそれ自体の価値を積極的にアピールしていたことです。

Facebook、Spotify、Salesforceなどのリサーチチームが自ら作成し、会場で配布していたUXリサーチのツール

写真にもあるように、例えば、FacebookではUXリサーチのハンドブックやツールキットなどを作成し、自分たちが実施するリサーチの細かなステップを公開しています。

このとき会場で知りあった、Facebook本社のUXリサーチャーの方と話していたところ、彼らはユーザーがどのようにFacebookを利用しているのかを、オンライン上の分析だけではなく、現地に、つまり世界中に足を運んでリサーチしており、そのために数多くのリサーチャーが関わっているという話でした。

先ほど挙げた新しくスポンサーに加わった企業もおそらく同じような状況にあり、そもそも彼らはオンラインサービスを基盤としており、その対象ユーザーはまさに全世界に分布しています。

こうしたサービスやユーザーの特性があり、また問題意識がクリアに共有されていることで、UXリサーチを実施することの必然性も、組織内で明確に理解されているのではないでしょうか。

一方で、一部を除く多くの日本企業においては、まだこれほどまでにリサーチそれ自体の重要性は認識されておらず、この問題点についてもまた別の機会に改めて考えてみたいと思っています。


リサーチを実施するだけではなく、リサーチ結果を活かすために


世界屈指のデジタルサービス企業が集結し、リサーチの重要性をアピール。一方、日本からの参加者は少なめ。。

また、今回のEPICでは、リサーチ手法に関する議論や結果についての報告だけではなく、いかにしてそのプロセスや成果をチームの内外で共有するのかという意識も目立っていました。

単に組織内でリサーチを実施して(それこそある種の「エビデンス」をアリバイ的に揃えることで)満足してしまうのではなく、そこから見い出された知見が多様なステークホルダーに対して適切に伝わり、それが具体的な形で活かされることにこそ、リサーチの真の意義はあります。

これはおそらく、冒頭で述べたエスノグラフィ×データサイエンスの話とも呼応していて、せっかく実施したリサーチの結果が宙に浮いてしまうことを防ぐためには、リサーチ自体がうまく設計されるだけではなく、リサーチ部門やそのコミュニケーションのあり方が、その他の領域との関係性の中で適切にデザインされていくことも重要だと思うのです。

調査結果を活かすためにも、最適な報告書が必要となる

EPICの会場にあったギャラリースペースには、VR作品としてのエスノグラフィや、写真パネル等も展示されており、調査対象となった人々をどのように描き出し、彼らの生身の暮らしやそのリアリティをどのように伝えるのかを模索するような、とても野心的な試みもなされていました。

そこで見せていただいたVR作品には、まるで自分がインフォーマント(その作品を調査した人)の家を訪れ、彼の生活圏を案内され、友人にまで紹介してもらうような圧倒的な臨場感がありました。

実際にエスノグラフィックなリサーチに携わった経験のある人ならば、現場で感じた生々しさや豊かさをどのように報告するのか、常に悩むところだと思います。

リサーチ結果の報告には、膨大なリサーチデータの編集作業が必要となりますし、特にビジネスの領域であればリサーチ結果にも即効性やわかりやすさが求められることが多く、現場の手触りをどのように残しつつ伝えられるのかは私にとっても常に葛藤するところです。

リサーチの結果をもっとヴィヴィッドに人々に伝え、それを社会の中で豊かに展開するための可能性の模索は、現在まさに私たちが共同研究でも取り組んでいるテーマと共通しています。

エスノグラフィの価値を、より多くの方々に、より具体的な形で実感していただけるよう、そしてできることならそれが皆さんの価値観を少しでもアップデートするような新たな刺激や気づきになれるよう、今後も研究を続けていきたいと思っています。


WRITER

比嘉 夏子 / NATSUKO HIGA
ANTHROPOLOGIST/ ETHNOGRAPHER

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系 助教。京都大学博士(人間・環境学)。人類学者/エスノグラファー。オセアニア島嶼をフィールドとして人間の行動や価値観を研究してきた傍らで、広くデザインやリサーチなどの業界にも関わりつつ、人間理解を深める手法を探究中。

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