1
/
5

今必要なのは、共感的なデザイン思考。ストラテジックデザイナーから見るBCGDVのカルチャー



BCG Digital Ventures(以下、BCGDV)は、大企業との共創を通じて、新規事業を創出しているクリエイター集団です。エンジニアリングやデザインなどのプロフェッショナルが在籍し、プロダクトとビジネスの両輪で革新性の高い大きな事業をグローバルに生み出し続けています。

多くのクリエイターが在籍しているBCGDVには、エンジニア、エクスペリエンスデザイナー、ストラテジックデザイナー、プロダクトマネージャー、グロースアーキテクト、そしてベンチャーアーキテクトという職種があります。それぞれの職種を紹介する本連載の第一回では、IoTのスペシャリストであるエンジニアの岡田貴裕にスポットライトを当てました。

第二回となる今回は、ストラテジックデザイナーのSean McKelvey(以下、ショーン)が登場。「共感的なデザイン思考」を通じて、事業アイデアと消費者のインサイトとを結び付けていくことがストラテジックデザイナーの役割で、デザイン思考やHCD(人間中心設計)を体系的に学んだり、サービスデザインを行った経験のある人間で構成されています。こちらの記事では「カスタマーインサイトのプロフェッショナルから見たBCGDV」を紹介していきます。

「日本と世界の架け橋になる」ことが人生のミッション

ショーンの入社は、2017年2月。現在は東京オフィスに在籍しながら、ロサンゼルスのプロジェクトに参加しています。

行動心理学やデザイン思考を専門にしているショーンは、BCGDVに入社する前はソフトバンクの人型ロボット「Pepper(ペッパー)」の開発に携わっていました。当時まだ孫社長直下の秘密のプロジェクトだったPepperをひっそりとタクシーに乗せて都内を走り回り、さまざまな家庭内でPepperとのコミュニケーションをウォッチ。ユーザーはPepperにどんな反応や言動を期待しているのかを探ることが、当時ショーンに与えられた役割でした。

ショーン「世界中の人々がどうしてこうも寂しさを抱えているのか、深く理解したかったんです。テクノロジーが発達して、人はつながりやすくなっているはずなのに。私たちはロボットを作りたいのではない、ロボットによって課題を解決していきたいのだというのが当時のチームの共通認識で、私もそれに共鳴していました。そしてそのためには、ユーザーの心の奥を知る必要がありました」


ショーンが来日したのは21歳の頃でした。もともと日本が好きだったという彼は「日本と世界との架け橋になりたい」という目標を持ち、アメリカから来日。はじめは通訳者を目指していたそうです。

ショーン「日本に来てすぐに思ったのは、この国では日本語を完璧に話せないと、日本人と同じようには生活できないんだということ。そのため来日して1年間は、日本を研究している博士課程の外国人が通うような厳しい日本語学校でみっちり勉強しました。1日12時間を、週6くらいで。辛くて泣いたこともあるくらい大変でした(笑)」

日本語学校を卒業した後はキヤノンに通訳として入社。同社のすべての印刷機を35言語へローカライズする仕事を任されます。そのときショーンは、「架け橋の役割は、言語だけではない」ことに気付きます。「印刷する」という行為をグローバル市場に出すならば、それぞれの国の慣習や文化を知らなければいけない。自分はもしかしたら、人の生活の方に関心があるのかもしれない――。「コンテンツも架け橋になる」という気付きは、現在のショーンにつながる大きな転換点でした。

共感的なデザイン思考で、ユーザーのニーズを深掘りしていく

「数年前までビジネスセンスはほとんどゼロで、BCGさえ知らなかったんです」と笑うショーンは、現在ではロサンゼルスで建設に関するプロジェクトにコンセプトオーナー(※)として参加しています。(※BCGDVでは、決定したコンセプトの考案者が実際のプロジェクトにも関わります)

ショーン「アメリカって、毎年1,000人以上が工事現場で亡くなっているんですよ。それをテクノロジーの力で減らしていけないかというのが現在のプロジェクトです。工事現場で働く人はどんな人なのか、建設会社のステークホルダーはどんな人・団体なのか、なぜ事故が起きてしまうかなどを調査して、どうすれば事故防止の意識を生活の中に溶け込ませられるかを考えました。自分のアイデアに初めて投資されることが決まったとき、すごく気持ちがよかった。けれどもそれ以上に、自分が取り組んでいることで、リアルに人助けができて、世界をより良くするものを開発していることに一番充実感を覚えます」

生命や人生を見つめ、物事の本質を射貫くことをプロジェクトでも重視しているショーンは、ストラテジックデザイナーとして「HOW」より「WHY」にフォーカスすることを心掛けています。そのため、実生活の中でも、人の行動を見ることが癖になっているのだそう。例えば、電車の中。誰かがニヤニヤしていたり、歩き方が特徴的だったりすると、必ず目にとまり原因を考えてしまう。この「違和感への敏感さ」は仕事をする上で役立ってもいます。

いま課題として据えられている事象は、本当に課題なのか。本質的な課題は、実はもっと先にあるのではないか。そのように「WHY」を掘り出し、それを深掘りしていくことによって、プロジェクトをより意味のあるサービスへと変えていきます。


ショーン「私が思う『良いストラテジックデザイナー』は、自分で共感的なデザイン思考ができるだけでなく、チームのメンバーにもデザイン思考の重要性を伝えて、みんなで目的の追求を促していける人。遠近のレンズをすばやく切り替えて、柔軟に焦点を変えていくこともストラテジックデザイナーの大切なロールだと思っています」

「共感的な」デザイン思考が大切だ、と強調するショーンには、こんな持論があります。それは、「世のスタートアップが失敗する一番の原因は、エンドユーザーの本当のニーズ理解していないからだ」ということ。

ショーン「ニーズは顕在化したものだけではありません。iPhoneが生まれたとき、ジョブズは人に『何がほしい?』とは聞きませんでした。そう聞くと、すでにあるものしか出てこないからです。代わりに『何をしたいか』を問い、日々持ち歩くデバイスで何ができたら便利か、どんなコミュニケーションがしたいかから考えていく。「だったらダイヤルボタンはいらないよね」「画面はもっと大きい方がいいよね」といった、問いと仮説検証を繰り返して完成したのがiPhone。ユーザーを起点として考え抜くことが、共感的なデザイン思考につながると考えています」

また、ストラテジックデザイナーのもう一つの重要な役割が、デザイン思考をチームにも浸透させていくことです。「種」が「アイデア」になるまでのプロセスをリードするときの方法は、チームの色によって変わってくるのだそう。例えば、じっくり考える人が多いなら「それぞれ10分間考えてください」と指示をし、アイデア出しが得意な人がいるなら「好きなように発言してみて」と促しホワイトボードに書き出す。ペルソナがつかめない場合には、みんなで演技をしてみることさえあります。

チームが持つ特性を活かして、彼らが質の高い「種」を多く出せるような方法を提案していく中で、ショーンは都度、「リードする立場としての自身の行動を振り返っている」と言います。「本当にこの方法が最適だったのだろうか」を考えることで、次回の精度を上げていく。日々これの繰り返しだと話します。


「Don't fear fear」――挑戦につきまとう恐怖を恐れないこと

ショーン「実は私は少し飽きっぽいところがあって、同じ組織に長くいられないんです。BCGDVの好きなところは、一つの組織に所属しながらも転職気分を味わえるところ。定期的にプロジェクトが変わると、関わるメンバーも取り組むべき課題も変わって、完全に新しい仕事になる。私のような性格の人にはぴったりの働き方だと思います」

また、入社直後はビジネスセンスが乏しかったと振り返るショーンですが、そんな自分が入社から2年間でここまで成長できたことが「BCGDVの強みの証明」だといいます。

多くの日本企業はゼネラリストを育てようとしますが、BCGDVでは「T型人材」と呼ばれるスペシャリストを評価する組織風土。アルファベットの「T」の横軸を知見の広さ、縦軸を専門性の深さと捉え、特定の分野を深く極めつつ、その他の領域にも幅広い知見を持った人材のことを表す言葉です。

ショーン「BCGDVには、T型人材がたくさんいます。ビジネスサイドのことで悩んだときは、ベンチャーアーキテクトと呼ばれるビジネスとファイナンスのプロフェッショナルに一緒に考えてもらい、デザイン面で悩んだときにはエクスペリエンスデザイナーと呼ばれるUXのプロフェッショナルの力を借ります。自分が発案したコンセプトのプロジェクトだから全部自分でやるのではなく、自分がコンセプトをリードしながらも、スペシャリストたちに都度助けてもらう。それを繰り返していたら、いつの間にか少しずつビジネスポテンシャルが分かるようになってきました」


「Don't fear fear」――恐怖におびえるな。

これは、BCGDVで働く上で重要なフレーズです。何か新しいことを始めようとするとき、多少の恐怖はつきものです。挑戦した結果、たとえ望むような結果が得られなかったとしても、挑戦したことで初めて見える景色が必ずあるはず。

ショーン「『Don't fear fear』の文化は、アジャイル開発の結果ともいえるかもしれません。新しいことに取り組んで、ダメだったらすぐに軌道修正する。この柔軟さを持ち合わせていることで、この組織には“失敗”という概念すら無いように思います」

失敗は単なるプロセスの一部で、失敗のあとには必ず別の挑戦が控えている。そう思うと、失敗は失敗ではなくなります。その段階で目的を満たせなかったとしても、そこから学ぶことが必ずあり、チームやメンバーの成長につながる種になるのです。

ショーン「戦隊もので、5レンジャーってあるじゃないですか。あれ、BCGDVの組織みたいだなって思っていて。一人ひとりが最強じゃなくても、それぞれが強みを持ち寄ることで一つの強大なロボットになることができる。一人では恐怖が怖くても、みんなで一つになれば恐怖に打ち勝てるのかもしれません」

BCG Xでは一緒に働く仲間を募集しています
9 いいね!
9 いいね!
同じタグの記事
今週のランキング