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Vol.3 調和技研✖️AIの旗手(北海道大学情報科学研究院助教 横山想一郎先生)

横山 想一郎先生 (北海道大学 大学院情報科学研究院 助教 情報理工学部門 複合情報工学分野 調和系工学研究室)

聞き手:小潟(但野) 友美 株式会社調和技研 研究開発部 PMO-G/博士(情報科学)

AIアルゴリズムを構築するためには、 課題の本質を見極めるのが重要です。

株式会社調和技研の社員が、AI分野の先端を走る方々にインタビューする「調和技研×AIの旗手」。第3回は、「AIによるロードヒーティングの制御」や「IOT技術を活用した灯油配送最適化技術」といった北海道の暮らしに身近なことも研究する北海道大学大学院情報科学研究院助教の横山想一郎さんにお話を伺いました。

目次

1. 頭の中で描いた「解」を社会実装するために。

2. 全体を俯瞰して課題解決を導く視点を。

3. ココロや感性の理解は、まだまだ人にしかできない領域。

4. 「研究者寄り」のアグレッシブで挑戦的な社風。

1. 頭の中で描いた「解」を社会実装するために。



ー組み合わせ最適化やスケジューリングが主な研究分野と伺いました。

はい、もともと学生時代から取り組んでいた研究です。例えば、工場にいくつもの機械が配置されている場合、製品をどのラインでどう作るのが最も効率が良いのかを考えるというとイメージしやすいかもしれません。博士課程の修了が近づくころ、今後何をすべきか考えた時、自分の頭の中だけで行っていた問題に対する「解」を具体的な課題解決に役立てたいと志すようになりました。民間就職も視野に入れていましたが、タイミング良くこの企画の第1回にも登場した川村教授から調和系工学研究室にお誘いいただいたんです。AIを社会実装するための研究を主題に据えていることも、私が目指す方向性と重なりました。自分の学んだ組み合わせ最適化やスケジューリングを、ディープラーニングなどの技術に適用することによって、世の中に役立てられそうな未来を予感したんです。

ーすでに社会実装されている研究はありますか?

身近なところでいえば、「AIによるロードヒーティングの制御」。ごくごく簡単に説明すると、カメラで路面を撮影し、AIの画像認識によって雪が積もっているかどうかを判断する仕組みを開発しました。雪が積もっていればロードヒーティングのボイラーを動かし、積もっていなければオフにすることで、運転コストを抑えることができます。

ーなるほど。北海道の暮らしと密接に関わる分野ですね。ここ最近、取り組んでいる研究はどのようなものですか?

調和技研でも似た開発を進めていると思いますが、「IOT技術を活用した灯油配送最適化技術」です。北海道では、暖房供給のための灯油を各家庭に定期配送しています。現在は灯油の配送業者が個々に契約を結び、灯油タンクがカラにならないタイミングを見計らって補充するケースが大半。ただし、いざ給油に向かってみると灯油が十分に残っていてムダ足になったり、すでに底をついている状態だったり、配送の供給形態が抱える課題は数多くあります。そのため、灯油スマートセンサーを手がけるゼロスペック株式会社との共同研究で、「家庭の灯油タンクの残量がどれくらい残り、あとどれくらい持つのか」「どのように効率的に配送するべきか」という技術の実証を進めているところです。


2. 全体を俯瞰して課題解決を導く視点を。



ーゼロスペック株式会社とは調和技研も灯油の消費量予測AIの開発に携わりました。「IOT技術を活用した灯油配送最適化技術」は順調に進んでいますか?

実証自体は順調といえますが、研究という視点から見ると課題は山積しているというのが正直なところです(笑)。例えば、灯油タンクのフタにスマートセンサーを取り付け、灯油の液面までの距離から残量を遠隔で確認しているのですが、暑さや寒さによって測定にどうしても誤差が生じます。そうした「ノイズ」を取り除いて正確性をいかに高めるのかは、今も試行錯誤中です。灯油は1年を通して休みなく配送されるため、長期にわたる配送計画を一度に上手く組むことも一筋縄ではいかないでしょう。また、今後は灯油の残量に加え、例えば「あと3日で灯油を何リットル使うだろう」という消費量予測に基づいて配送することも視野に入れています。各家庭によっても、天気や環境によっても灯油の使い方は異なるため、その不確実性にどう対応するのかも重要な課題です。このように灯油配送の最適化と一口にいっても、さまざまな課題が複合されているため、配送計画や残量計測といった個々の問題だけではなく、全体を俯瞰的に見つめなければなりません。

ー私は調和技研の仕事でシフト作成の最適化に取り組んでいます。ただ、お客さまによって「新人だけのシフトはNG」「特別な研修期間を考える必要がある」など、個別に条件が異なり、カスタマイズが多いことが悩みです。まさにお客さまごとに異なる要望を満たすシステムを構築するために苦心しています。

確かにシフト作成の最適化自体はアルゴリズムで考えられるはずです。ただし、論文を探してみても、業務の実情とピッタリ合致したものは見つからないと思います。その際に大切なのは論文中のアルゴリズムが何を解決するために生まれたのかという背景を捉えた上で、自分の目の前に立ちはだかる問題とどこが異なるのかを見極めることです。その溝を埋めるためにアルゴリズムをカスタマイズするのがポイント…とはいえ、「言うは易し行うは難し」ですが(笑)。ただ、こうした視点を持つ技術者は重宝されるはずです。

ーとても参考になります。横山先生は調和技研の技術顧問でもあるので、こうした相談もよく受けてくださっていますね。

そうですね。私の場合は案件の規模に対してシステムが構築できるかどうかの判断を仰がれたり、課題解決に適したアルゴリズムの選択について相談されたり、技術的な話題がメインです。ただ、大切なのは顧客がAIを「何に使いたいのか」という本質を明確にすること。例えば、私が携わった共同研究で「ディープラーニングを使ったファッション画像の理解」があります。洋服の画像から「かわいい」「クール」などの印象をタグ付けし、ユーザーにおすすめするための基礎技術を開発するのが目的です。ファッションの画像をディープラーニングさせる上で、「印象の意見に幅がある場合のブレの大きさを捉えたいのか」「大多数の印象の平均を割り出したいか」で手法は変わるはず。つまり、AIアルゴリズムの構築には、顧客が本当に知りたいことは何か、企業が何を求めているのかを見極めることが大切です。



3. ココロや感性の理解は、まだまだ人にしかできない領域。


ー今後AIがどのように発展すると考えていますか?

私自身としては、極端なブレイクスルーが起こる未来はまだ見えていません。コンピュータの性能が上がり、ディープラーニングで解決できることの幅が広がってきた現在の延長線上にあるのではないかと思っています。先ほどの例でいえば、これまでファッションは主観的な印象だったところ、画像認識のタグ付けによってトレンド分析や推奨に役立つなど、世の中で起こっていることが正確に見えるようになってきました。このようにAI技術の適用範囲は広がっていくと見込んでいます。

ー逆に10年後でもAIができないこととは?

かつて翻訳を機械的に処理できるとは思われませんでしたが、今では高い精度で可能になりました。クルマの運転にしても人にしかできない高度な判断の集合と考えられていましたが、自動化されるのも遠い未来ではないと予測できます。ただ、倉庫のピッキング経路を自動で効率化することはできますが、モノを取ってくるというシンプルな作業は人が担っています。というのも、床に商品が落ちてつまずくリスクを回避したり、乱雑な棚から指定の製品を見つけ出したりする能力は人のほうが優れているからです。このようなシンプルな動作が苦手なことに加え、感情に関わるフィールドについてはAIはまだまだ人間に及びません。例えば、今、私が話している内容の録音を自動的に書き起こすことができたとしても、要点をピックアップしたり、どういう伝え方をすると心を動かせるのか熟考したりすることはできないはずです。心や感性の理解は、一朝一夕では難しいのではないかと考えています。


4. 「研究者寄り」のアグレッシブで挑戦的な社風。


ー横山先生が若手エンジニアや研究者に期待することは?

先ほどの話と重複する部分はありますが、さまざまな論文を読み込み、アルゴリズムを試す力が求められると思います。その上で自分が抱えている課題に当てはめるために、何をどうカスタマイズすべきか複数の論文を重ねて考えられることが大切。先端のアルゴリズムに通じている人は、そのスキルを備えて諸問題を解いていくイメージです。

ー技術顧問という立場から見た調和技研のイメージは?

私は他企業と共同研究する機会も少なくありませんが、調和技研は最も「研究室っぽい」と感じます。誤解を恐れずにいえば、できるかどうか分からないことにもチャレンジする度合いが非常に高いイメージ。一般には社内で完遂できると確信を持った上で仕事を受けると思いますが、確実にできると言い切れない中でも挑戦する気概のある社員が多いのではないでしょうか。もちろん、成果は出さなければならないため、プレッシャーも大きいことは研究者としても身に沁みて分かります。答えのないところから研究成果を導くようなものなので、私と同類だな…と共感を覚えることが多いんですよね(笑)。

ーありがとうございます(笑)。私を含め、せっかくお金をかけてでも作ってほしいと依頼されたからには、何がなんでも叶えたいと考える社員ばかりです。

調和技研を含め、大学発のベンチャー企業は面白いことにトライしている印象です。利益を高めるためにタスクを淡々とこなすわけではなく、かといってアカデミックな研究だけを追い求めるわけでもありません。その中間に位置しているところが大きな魅力です。例えば、研究成果はすでに発表されているにも関わらず、広く知られずに使われていない技術があるとします。アカデミックな見地からその技術を活用し、社会や企業の解決すべき課題とのギャップを埋めていく存在が調和技研。こうした仕事に関わりたいと熱意を持つエンジニアや研究者は、数多くいらっしゃるのではないでしょうか。



Profile

横山 想一郎氏:
2016年北海道大学大学院情報科学研究科情報理工学専攻博士後期課程期間短縮修了。同年4月日本学術振興会特別研究員(PD)。2017年2月同大学助教となり現在に至る。2015年〜2016年、日本学術振興会DC特別研究員。組合せ最適化、スケジューリング問題、機械学習の研究に従事。情報処理学会、日本オペレーションズ・リサーチ学会などの会員。

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