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サステナビリティとテックの融合で企業価値向上を目指す新たな挑戦――S&P Global元ESG Solutions日本ヘッドの中久保菜穂が語る、なぜ今シェルパに参画するのか【CEO × CEIO対談】/前編

近年、気候変動に伴う災害が多発するなど、サステナビリティに関するリスクが顕在化しており、企業経営におけるサステナビリティの取り組みへの重要性が増している。今年6月にはISSBの開示基準が正式に発表されるなど、欧米をはじめ日本でもESG情報開示の規準やガイドラインが整備され、ESG投資も拡大している。
一方、企業のESG取り組みに対する社会の期待が高まるにつれ、多くの企業が信頼性の高いESG情報開示や外部評価の基準への対応に課題を感じている。

シェルパ・アンド・カンパニーでは、企業の課題を解決すべく、2022年11月よりテクノロジー(AI)を活用し、ESG情報開示を支援するクラウドサービス「SmartESG」の提供を開始した。

また2023年7月には、サステナビリティ・ESG領域における経験が豊富な中久保菜穂氏を、チーフESGイノベーションオフィサー(CEIO)として迎え、SmartESGのサービスをさらに発展させていく。どのような挑戦をしていくのか、代表取締役CEOの杉本淳とCEIOの中久保氏の対談の様子(前編)を紹介する。


中久保菜穂 略歴(プロフィール)京都大学を卒業後、ロンドン大学(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス:法学修士)を修了の後、ロンドンにあるVigeo Eiris(ESG評価機関)に入社。帰国後、デロイトに入所しESGアドバイザリー業務に従事。企業のサステナビリティに関するコンサルティングを行う。その後S&P Globalへ入社し、日本のESGビジネス開発をリード。2023年7月にシェルパ・アンド・カンパニーのCEIO(チーフESGイノベーションオフィサー)に着任。

将来の夢は正義の味方!法律と人権問題に高い関心を持つ学生時代

杉本:中久保さんをシェルパ・アンド・カンパニーのメンバーとして迎えることになり、とても光栄です。中久保さんは、直近S&P Global Sustainable1でのご経験や、Vigeo Eiris(大手ESG評価機関)のアナリスト、デロイトのESGコンサルタントなど、ESG関連の豊富なご経験がありますが、いつ頃からサステナビリティやESGに興味を持たれたのでしょうか。

中久保:幼いころは、正義の味方のアニメが大好きで、大きくなったら法律家になろうと小学生くらいから思っていました。困っている人を助ける=弁護士というイメージで、大学では法学部に入りまして、特に人権問題について研究していましたね。のちに、「サステナビリティ」の分野でも、人権問題へ取り組めるとわかるのですが、そのころ「人権を守るには法律だ」と思っていました。

杉本:小さいころからはっきりとした夢があったのですね。「サステナビリティ」への最初の入り口は、「法律」だった。そこから、ロンドンへの留学を経て、企業のサステナビリティの領域に携わるわけですが、どのように関心をシフトさせたのでしょうか。

中久保:2013年にロンドンの大学に留学しようとしたのは、インターネットと人権というテーマで修士号を取得したい思いがあったからです。当時、日本ではまだその分野での研究は欧米ほど進んでいませんでした。それに対して、ロンドンではプライバシー権とインターネットの関係など、テクノロジーと法という分野についても学術的観点から考察する素地がありました。

杉本:テクノロジーと人権のテーマにそもそも興味を持たれたきっかけはあるのでしょうか。

中久保:欧米社会では、人権は「生きたコンセプト」と呼ばれることもあります。社会のコンテクストの変化により、守られるべき人権についても考察が必要です。その最たるがテクノロジーと人権というトピックだと思います。
テクノロジーと人権に興味をもったのは、SNSにより、たくさんの人が発言できるようになった一方で、誹謗中傷もできるようになった状況を目の当たりにしたからです。
SNS上での発言は、表現の自由を担保する一方、「人権侵害」につながることもあります。こうした現象は、テクノロジーによって新たに現れたことであり、テクノロジーは人権に与える影響が大きいと思います。

杉本:確かに、日本でも最近になってやっと開示請求権により、権利が守られる場合がありますね。一方で、開示請求権を盾にして攻撃的になる場合もあり、運用の課題を感じているところです。ロンドンの大学での修士論文は、テクノロジーと人権について研究されたのでしょうか。

中久保氏:そうですね。論文では、Web 2.0時代における新たな権利関係の出現を仮説として、インターネット上での表現の自由とプライバシー権の関係についてまとめました。要約すると、プライバシー権を守るための法律は表現の自由にとって障害となるのではなく、むしろ人々のプライバシーを保護することは表現行為の後押しになるといった理論です。

テクノロジー分野は、発展が著しいので、社会科学系のプロフェッショナルも加わっての議論が、今後もますます必要だと思います。

法律と人権の専門家からESG評価機関へ転身。アナリストとしての挑戦と新たな知識の獲得。

杉本:2014年に大学を修了後は、そのままロンドンで仕事をしようと思われたのでしょうか。

中久保:人権関連の仕事をしたい思いがありましたので、そのままロンドンに残り、ヒューマンライツウォッチという国際NGOでインターンシップをしたり、法律事務所で働いたりしました。
しかし、人権に関わるポジションは競争が激しく、なかなか思い通りにいかない中、「ESG投資」に出会いました。当時、EUでは、サステナブルファイナンス・アクションプラン制定に向けての動きがあり、ESGの議論がさらに活発になりつつあるころでした。そうした知識を得る中で、ESG投資を知ったのです。

この時「企業の社会や人権への取り組み」が評価され、投資判断に利用されていることを初めて知り衝撃でした。NGOでアドボカシー活動をしていましたが、そういった活動以外にも、企業を変え、社会を変える仕組みがあったとは思いもよりませんでした。
そこで、ESGの評価機関であるVigeo Eirisに入社し、アナリストとして企業のESG評価を始めました。

杉本:人権を軸にしながらも法律からESG投資へと関心をシフトさせていった。このような中で新しい分野を学ぶのは大変ではありませんでしたか。

中久保:Vigeo Eirisには、独自のメソドロジーがあります。メソドロジーとは、細かな評価基準がESGの各項目に設定されているものです。この基準に基づき、各企業を評価する業務を通じて、企業のESGの取り組みや考え方について、全般的に学ぶことができました。もともと、ESG分野は、環境法や労働法、会社法など法律とも近く、キャッチアップは直ぐにできたと思います。
たしかに、ESG分野は広範でアップデートも早いのですが、社内にはそれぞれの分野のスペシャリストがいましたので、連携することで、新たな知識を補うことができましたね。

知識のアップデートも大変でしたが、アナリストをしていた当時から、企業の開示データが十分ではなく、評価をするのが難しいと感じていました。また、Vigeo Eirisでは企業に回答してもらった質問票をベースに評価を行いますが、この質問表に回答してもらえないこともあり、困っていました。

アナリスト・コンサルタント・金融機関の評価を経て見えてきたESG評価の課題。企業と評価機関の連携課題とテクノロジーの役割。

杉本:評価機関でアナリストを経て、日本でESGコンサルタントに転身されますが、コンサルタントではどのようなことをされていたのでしょうか。

中久保:長いロンドン生活を過ごして、日本の食事が恋しくなり戻ってきました(笑)。それは冗談ですが、日本でもっと企業に近い立場でESGの取り組みを進める仕事がしたいと思い、デロイトに入所し、ESGサポートや評価向上支援に携わりました。
クライアントとの話の中で、評価機関のアンケート対応に時間を割かれていることがわかりました。評価対応の支援もしていましたが、もっと企業がESGの取り組み推進自体に時間を割けるような何か他の支援ができないか、課題を感じていました。

また、コンサルタントとして、人権デューデリジェンス支援サービスの開発・実施にも携わりました。当時、日本では前例が少なかったので、大変なこともありましたが、アナリスト時代には分からなかった企業の現場における課題を知ることができました

杉本:ESGコンサルティングのご経験ののち、S&Pグローバルにて、 ESG投資のビジネス開発をされ、さらにはESGソリューションズ・日本ヘッドとしてご活躍になります。再度評価機関に戻られるましたが、キャリアチェンジのポイントは何だったのでしょうか。

中久保:企業のサポートをしながらも、ESG投資について関わっていきたいという思いは持ち続けていました。特に、日本でのESG投資拡大に貢献したいという思いと、金融機関にとってどのようなESG評価・商品が必要なのかを知りたいという動機があったと思います。入社後、実際は投資家の種類によって様々なニーズがあり、画一的な評価や商品では中々対応が難しいことが分かりました。こうした投資家の事情もあって、企業向けのESG評価基準も複雑化していると思います。

杉本:中久保さんは、これまでESG評価アナリスト、ESGコンサルタントなど、様々な立場からESG評価を見てこられたと思います。それぞれの立場になって感じられたことはありますか。

中久保:評価される側(企業)とする側(評価機関)とが、まさにかみ合っていないと感じました。企業側は、ESG評価機関に問われていることが理解しづらい状態にあり、一方で、評価機関もほしいデータや情報が網羅されていないので歯がゆい思いをする状態に。
双方の視点に基づき、ESGデータや情報を一元的に管理する仕組みやテクノロジーが必要だと感じました。

こうした思いもあって、日本に帰国後は、AIとESG評価に関する研究会に参加するなど、企業と評価機関の「ギャップ」をテクノロジーで解決するための様々な取り組みを続けてきました。

後編へつづく・・・

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