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現場ドリブンなBtoB SaaSに学ぶ、ユーザーヒアリングや観察の始め方、プロダクト開発への活かし方

「現場ドリブンの良さは、現場に足を運ぶことの価値を実感してはじめてつくられるものです」――クライアントに寄り添うプロダクト開発に欠かせない“現場ドリブン”の考え方について、株式会社カミナシ(以下、カミナシ社)のPM・加古さんはそう語りました。

今回は、BtoB SaaSとしてノンデスクワーカーの業務効率化を支援するカミナシ社を招き、「一次情報の収集や、それをプロダクト開発へ活かす方法」をテーマにLTイベントを開催。

「ユーザーの課題に基づいた開発をするためにはどうしたらいいのか」
「現場ドリブンの文化を浸透させるために何をすべきか」

そんな疑問に、エルボーズの小谷 草志さん、カミナシ社の加古 萌さんと山下 亜里沙さんの3人が答えます。

目次

  1. 3つの“共通”でワンチームを実現し、クライアントに伴走
  2. 一次情報をもとに課題・解決策を特定する3ステップ
  3. カミナシが現場ドリブンの文化をつくる5つの取り組み
  4. 組織全体で現場ドリブンな文化をつくる仕組み

3つの“共通”でワンチームを実現し、クライアントに伴走

椿原:
―― まずは、小谷さんから「エルボーズがプロダクト開発で大切にしていること」をお伺いできますか?

私からは、エルボーズとクライアントのワンチームを実現するため大切にしている3つの“共通”についてお話しします。

エルボーズは、「明日からあなたの開発チームに」をコンセプトに、伴走型のプロダクト開発チーム「ATTEND biz」を提供しています。コンセプト実現のためには、私たちとクライアントがワンチームとして開発することが不可欠です。

そんなワンチームの実現のために必要な“共通”は、「初期のプロダクト構想」「ユーザー像とユーザー課題」「プロジェクトの進み具合」の3つです。

1.初期のプロダクト構想

プロダクト開発の一般的な工程は、次の通り。課題・仮説を立て、小さく開発・提供してPDCAを回します。

クライアントワークでは、開発以降の工程のみ、もしくは開発のみを外注するケースが多数。これでは、ユーザーの課題や必要なものに基づいたプロダクト開発ができません

仮説設定やプロダクト構想などの上流工程から参加し、クライアントとディスカッションしながらプロダクトの方向性を練ることが大切です。

2.プロジェクトの進み具合

コミュニケーションツールSlackを通して、クライアントと常にコミュニケーションをとれる状態を実現しています。

週に1回は、定例ミーティングを実施。開発に関する情報を1ヶ所に集約しているため、プロジェクトの進み具合がすぐに共有できます。

3.ユーザー像とユーザー課題

クライアントが持っているのは、「業界知識」「顧客基盤」の2つ。業界の課題・ニーズについてはクライアント自身が当事者であることが多く、ユーザー像を捉えるために、彼らへのヒアリングが不可欠です。

続いて必要なのは、クライアント自身も知らない一次情報や、エンドユーザーの情報をリサーチすること。具体的な方法は、次の3つです。

まずはプロトタイプを用いて、ユーザーへのインタビューを実施。業務系SaaSの開発であれば、業務の様子を撮影した映像をもとにクライアントとディスカッションをします。必要に応じて、アンケートを作成し分析することも。

具体例として、文化通信社とともに開発したデジタルチラシ配信サービス「BookLink」を紹介します。

文化通信社ではもともと新しい書籍の情報をFAXで各店舗に送信していましたが、それをオンライン化したいという相談をいただきました。

チームには、先方のPOや営業担当者と、エルボーズのPM・UIデザイナー・エンジニアが参加。プロダクト開発の全体像は、以下の通りです。

プロダクトチームとして行なったのは、次の3つです。

課題をヒアリングしながら、必要な画面・機能をペーパーモックに起こしてチーム内で共通認識をつくりました。情報はNotionに集約させ、常に共有。初期ユーザーへのアンケートも実施し、そこからわかった改善点を開発に活用しました。

Lboseでは、このように3つの“共通”をつくり、良いプロダクト開発をクライアントとともにつくっています。

小谷 草志 氏/株式会社エルボーズ 代表取締役 兼 PM株式会社schooに創業期の3人目として参画。過去にマーケティングリサーチ会社やサバイバルゲームフィールドの運営会社を経験。2017年に株式会社エルボーズを創業し、代表取締役に就任。ビジネスサイド出身のPMとして、事業立ち上げに関する戦略部分から参画することが多い。

一次情報をもとに課題・解決策を特定する3ステップ

椿原:
―― 続いて、山下さんから「カミナシ社がプロダクト開発において大切にしていること」を聞かせてください。

私たちカミナシ社は「ノンデスクワーカーの才能を解き放つ」というミッションのもと、アナログで非効率な現場業務のデジタル化に取り組んでいます。

そんなカミナシ社が大切にしているのは、一次情報を得ること。実際、私は入社1年で14回の現場訪問と35回のユーザーヒアリングを経験しました。今回はその経験を活かして「一次情報をもとに課題とソリューションを特定する方法」をお話しします。

カミナシのサービス(以下、カミナシ)の開発プロセスは次の通り。今回は、その中でも「課題仮説」と「解決策仮説」の話をします。

工程は、大まかに次の3ステップに分けられます。

  • “課題っぽいもの”を見つける
  • 課題を特定する
  • 解決策を特定する

1.“課題っぽいもの”を見つける

例えば、「この機能が欲しいらしい」「現場を訪問したら特定の業務に2時間もかかっていた」など、クライアントの情報をCSやセールスから収集します。あるいは、自分で現場に足を運んでヒントを得ることも

過去の“課題っぽいもの”の例として、「カミナシで同時記録ができると売れるっぽい」というものがあります。現状のカミナシは、同じレポートを別のデバイスで同時に記録できない仕様で、他の人がレポートを更新すると、直前に編集したものが完全に上書きされてしまいます。

そこでカギとなったのは、「同時記録をどこまで実現すべきか?」でした。Googleドキュメントのように1文字単位で変更を即時反映するのは、設計から大きく見直す必要があったため現実的ではありませでした。

そこで、リアルタイム性の度合いごとに、単位を一直線に並べてみました。カミナシのシステムの現状が一番左であり、どこまで対応すべきか・どんな課題を解決すべきかを明確にしなければなりません。

2.課題を特定する

続いて、課題を特定します。このステップが今回のキモです。

課題特定のために、まずは10社分の一次情報を集め、ユーザーの具体的な業務内容を明らかにしました。「同時編集したい」という課題の発生要因や前提は、具体的な業務フローにあるからです。

例として、ガスボンベを数える棚卸しの業務フローを、10社分図解しました。

課題を発生要因ごとに分類・整理した結果が、次の図です。今回は縦軸・横軸でリアルタイム度合いで分けました。

右上の課題についてはリアルタイムにカミナシが更新される必要があり、左下の課題については同時記録をしなくても編集後に内容を結合すれば済みます。

その上でどこまで対応すべきかを考えます。開発工数だけでなく、会社としてどのような資産を積みたいのかを意識することが大切です。短期的に収益が伸びればいいのか、解約が下がればいいのか。それを踏まえて、どの程度対応すべきかの線引きをします。

今回は青い線で分けた箇所を解決したいと考えました。今回の課題としては、分単位の同時編集ではなく、完了後に編集結果をマージできれば良さそうです。

3.解決策を特定する

ここからは、解決策を幅出し・検証し、特定します。

なるべく5案以上を出し、メリット・デメリットをピックアップ。検証時は可能な限り現場に行き、難しい場合はオンラインで5社以上のユーザーへヒアリングします。クライアントから「この案を採用したい!」と思ってもらえたら、解決策の特定を完了し、要件定義へ移ります。

今回の方法で注意すべきは、ユーザーを知ること自体をヒアリングの目的としないこと。それではアウトプットを見失ってしまいますので、必ず仮説を持って検証するよう意識することが大切です。

山下 亜梨沙 氏/株式会社カミナシ プロダクトマネージャーレバレジーズ株式会社や株式会社ユーザベースにてWebディレクターやデータ分析、マーケティングコンテンツの作成などに従事。2022年7月にカミナシに入社し、現在はプロダクトマネージャーとして、ノンデスクワーカーの業務を新しくリデザインすることに奮闘中。銭湯や旅行が趣味。

カミナシが現場ドリブンの文化をつくる5つの取り組み

椿原:
―― 最後に、加古さんから「組織全体で“現場ドリブン”なプロダクトマネジメントを実践する仕組み」について聞かせてください。

現場ドリブンは、カミナシのバリューの1つです。課題・仮説は現場にありますから、一次情報を得てクライアントに泥臭く向き合い続けることを大事にしています。

業務系BtoB SaaSであるカミナシでは、自分自身がユーザーとしてプロダクトを使用する機会がありません。プロダクトに対する主観が入りにくいからこそ、一次情報を収集してクライアントのストーリーを自分で語れる状態にする必要があります

現場ドリブンの度合いはプロダクトのフェーズによって異なりますが、先月は現場訪問を6回、オンライン商談でのヒアリングを7回行いました。業務の現場だけでなく、展示会に足を運ぶことも。展示会では課題を持ったクライアントがいらっしゃるので、幅広い一次情報が得られます。

いろいろなクライアントから一次情報を得ることで、企業規模によるものなのか、業界によるものなのかの仮説を立てやすくなります。ヒアリングの中で新しく出た仮説を別のヒアリングで検証し、仮説の精度を高めることも可能です。

組織全体で現場ドリブンな文化をつくる仕組み

現場ドリブンの仕組みをつくったとしても、現場ドリブンの文化を浸透させることは簡単ではありません。現場ドリブンの良さは、現場に足を運ぶことの価値を実感してはじめてつくられるものです。

以下の図にあるサイクルを、地道に回し続けていくことが欠かせません。

次からは、カミナシで行なっている現場ドリブンな文化をつくる取り組みを紹介します。

1.新入社員のオンボーディングに現場ドリブンのプロセスを追加

現場ドリブンな文化をつくる仕組みの1つとして、新入社員のオンボーディングに一次情報を得るプロセスを加えています

たとえば、展示会への参加。カミナシに興味を持つ前のクライアントがたくさんいらっしゃる展示会では、業界・企業の課題のヒアリングが可能です。

ほかにも、セールスの商談同行では、課題に対して今のカミナシで解決できそうなところ・できなさそうなところを発見できます。CSとの同行では、サービス導入済みのクライアントが持つ、カミナシ導入の目的や導入する際の課題を理解できます。

現場訪問では、クライアントの業務プロセスを理解したり、サービスが使われている現場を見たりすることで気づきが得られます。

2.Slackで現場訪問の同行募集・参加後レポート共有

カミナシのSlackにはCSが現場訪問の同行メンバーを募るチャンネルがあり、現場訪問の機会が得られます。訪問後には、現場訪問の結果レポートを共有します。

3.リサーチ計画を立てられるNotionテンプレートを用意

テンプレートによって、現場訪問に必要なリサーチ計画を誰でも簡単に作成できます

内容は、企画内容やヒアリング訪問で明らかにしたいこと、役割分担、結果やネクストアクションなど。仮説検証フェーズにおいては、現場訪問を通してわかったことや新しく生まれた仮説、今後検証すべきことを記載し、ネクストアクションを明確にします。

4.情報の一元化

ヒアリング・リサーチに関する情報は、すべてNotionに集約。現場訪問・ヒアリングの結果を一元化し、組織の資産として知見を蓄積しています。

5.事例共有会

セールス・CSが、「クライアントが持っていた課題」や「カミナシを導入することで、その課題がどうなったのか」を共有。現場になかなか行けない人へ向けて、現場の情報をキャッチアップできる仕組みを整えています。

これらの取り組みと並行して、現場同行後の気づき・学びを組織に還元することが必要です。このサイクルの繰り返しによって、現場ドリブンの文化が浸透します。

現場ドリブンの文化をつくるために今日からできること

現場ドリブンの文化をつくるために今日からできることは、次の4つです。

  • ヒアリングの機会を探す
  • しぶとく同行依頼・紹介依頼をする
  • 社員をヒアリング同行に誘う
  • 学びや気づき、ストーリーを組織に還元する

既存のクライアントだけでなく、カミナシの導入を見送ったハウスリストや社員の知り合いなど、ヒアリングのチャンスはたくさんあります。何でもいいので、まずは機会を探しましょう。

クライアントとの接点を持つ社員に、しぶとく同行依頼・紹介依頼をすることも大切です。「この仮説を検証したい」「こんなクライアントがいたら声をかけてほしい」と、同行の目的を具体的に伝えるとなお良いですね。

エンジニアなど、クライアントとの接点がつくりにくい社員には、こちらから「一緒に行かないか?」ヒアとリングに誘ってみましょう。

最後に、学びや気づきを組織に還元することも忘れずに。クライアントが困っていることを何度もストーリーとして語り、組織に還元させることが大切です。

文化は1日にしてならず。地道な活動で、ゆっくりと浸透させていきましょう。

TLのより詳しい内容は加古さんのnoteでも掲載されていますので、ぜひご覧ください▼


加古 萌 氏/株式会社カミナシ プロダクト&デザイン部 部長 プロダクトマネージャー株式会社ディー・エヌ・エーに新卒入社。ソーシャルゲーム事業、キュレーション事業、ヘルスケア事業にてプロダクトマネージャーや事業責任者などを務める。2022年4月にカミナシに入社し、現在はプロダクトマネジメント、デザイン領域のマネージャーを担当。2児の母。

🐐

自分自身がプロダクトのユーザーとなる機会がないからこそ、一次情報の収集をもって仮説検証することを何より大切にするカミナシ。

ユーザーに寄り添ったプロダクト開発に近道などなく、クライアントに泥臭く向き合っていくことが大切なのだとわかりました。

執筆=まあや

次回のイベントでは、ROUTE06(ルートシックス)のPMをお招きして、「大手企業の新規事業立ち上げを支援するチームに学ぶ、実践的なプロジェクト推進方法」をテーマにTLを行います!

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