「残業が多く、休日が少ない」「現場の負担が大きい」というイメージが根強くある建築業界。株式会社川﨑ハウジングでは、4年前のM&Aを機にAMGホールディングスグループの一員となったことで、労働環境が大きく変わりました。今回お話を伺ったのは、取締役のHさんです。
設計から現場管理、原価計算、営業対応、そしてM&Aの転換期における組織づくりまで、住宅ビジネスのあらゆる領域を経験されてきました。本取材では、その歩みから若手育成にかける思いまでお話を伺いました。
Hさん
取締役/久留米支店長
大分県出身。関東学院大学を卒業後、新卒で大阪の住宅会社に設計職として入社し、後に転勤先の久留米支店で施工管理も兼任するようになる。その後、株式会社川﨑ハウジングへ転職し、設計・現場管理・原価計算から営業対応、M&A後の組織づくりまでを幅広く経験しながら支店長に就任。M&Aを経て、現在は取締役として久留米支店を統括している。
前職の経営危機を乗り越え、設計から現場管理まで担ってきたキャリア
──これまでのキャリアについて教えてください。
Hさん:大分県の出身なのですが、横浜の大学に進学しました。大学卒業後は、新卒で大阪の住宅会社に設計職として入社しています。大分と大阪は新幹線で3時間ほどと意外と近かったので、東京や関東での就職はあまり考えていなかったんです。
──入社当初はどのような仕事をされていたのでしょうか。
Hさん:最初の4年間は本社勤務で、雑用のような仕事が多かったですね。支店から上がってくる書類の整理をするような仕事が中心でした。当時はかなり大きな規模の会社で、規格住宅を扱っていたので、一から自由に設計する物件は年に2回ほどでした。
──なるほど。大阪から久留米に来られたきっかけは何だったのでしょうか。
Hさん:本社にいた4年目に阪神淡路大震災があり、その年に久留米支店への転勤の話が出たんです。ちょうどいい転機だと思い、前向きに引き受けました。
久留米に来てからは、実際に建てて販売する物件の設計を担当するようになりましたし、九州全体の設計社員向けにCADの入れ替え指導も任されるようになりました。
──川﨑ハウジングへ転職された経緯を教えてください。
Hさん:前職の会社は、2000年代に入った頃から業績が急激に悪化していきました。
年間120件ほど販売していた久留米支店が、50件ほどまで落ち込んだことを記憶しています。このまま自分の生活をどう立てていくか、真剣に考えざるを得ない状況でした。そんな時期に元同僚から声をかけてもらったことが、川﨑ハウジングとの出会いです。
面接をしてくださった当時の社長は、実は私が以前勤めていた会社の出身だったんです。
ルーツが同じ会社なら大きくは変わらないだろうと思い、お世話になることに決めました。
「本当に必要な業務」を見極める、M&A後の労働環境改革
──川﨑ハウジングに入社された当初は、どのような役割を担われていたのですか。
Hさん:設計職として採用されました。ところが入社してみると現場監督がおらず、設計担当の社員が一人で図面を書いているような状況でした。
それで、設計を教えながら現場も見ることになったんです。受注が伸びるにつれて忙しくなり、人を増やしながら体制を整えていきました。
──現場仕事とマネージメントの両方を担当していたんですね。支店長への就任は、どのような経緯だったのでしょうか。
Hさん:建築の原価がわかっていないと、物件の企画や事業計画を作るのが難しいという事情があって、久留米では私がその作成を任されていました。
それに、川﨑ハウジングに入った当初は建売ではなく、先にお客様を決めてから建てていく「売り建て」という販売方式が主でした。分譲地が10区画あればモデルハウスを1棟建てて、残りはプランを見ていただきながらお客様と打ち合わせて建てていく、そうしたやり方を長くやっていたので、営業的な感覚も多少は身についていたのだと思います。
設計出身で営業会社の支店長になるのは珍しいケースだと思うのですが、そうした経緯もあって、M&Aより前に支店長を任されるようになりました。現在は取締役として久留米支店を統括しています─M&A後、労働環境はどのように変わっていったのでしょうか。
Hさん:親会社が変わり、新しい体制になったのが2023年の10月でした。在籍期間が長く、これまでのやり方に慣れている年配社員も多かったため、新しい体制や方針を浸透させていく過程は、やはり大変でしたね。
──具体的には、どのような点が大変だったのでしょうか。
Hさん:M&Aの前は、始業前の会議や休日の打ち合わせが当たり前のように発生していました。新体制で着任した社長が、就業時間外に会議などをすることを控えるよう社内全体へ伝えてくれて、労働環境が変わっていったんです。
また休日を増やして労働時間も短くする一方で、成果も出さなければいけないと言われると、本当に必要な業務は何かを考えざるを得なくなります。
今振り返ると、当時は疑いも持たずに続けていた、意味のない業務がたくさんあったと感じています。
──実際に、どのような業務が見直されたのでしょうか。
Hさん:たとえば以前は、設計社員も週末の売り出し現場に出て、看板を持ったり、お客様へのお茶出しを手伝ったりしていました。
今はこうした営業対応は、すべて営業部門に任せるようにしています。設計は設計の仕事に、営業は営業の仕事に集中する。部門の外の仕事で時間を取られないようにしたんです。残業も、繁忙期でも月平均10〜15時間までに抑えるよう伝えていて、勤務時間内は事務所でしかできない業務に集中してもらっています。
こうしたやり方に変えてから、5年前より業績は良くなりました。つまり、やり方次第でもっとうまくいくということだと思っています。
全部経験してきたからこそ描ける、住宅のプロフェッショナル育成という答え
──これまで現場やマネジメントなど幅広く経験されていらっしゃいますが、それらは今の仕事にどうつながっていますか。
Hさん:振り返ると、前職では九州全体のCADの入れ替えに携わり、仕組みそのものを作る経験をさせてもらいました。川﨑ハウジングに来てからは、マネジメントと現場を兼務しながら、原価計算やM&Aの転換期における組織づくりまで経験しています。
それぞれ大変なことも多かったですが、今こうして設計から現場管理までを一貫して見られる人材を育てたいと考えられるのは、その全部を経験してきたことも大きいように思います。
──今後の人材育成について、どのようなビジョンをお持ちですか。
Hさん:実際に設計や施工管理を目指す人自体の絶対数が少なくなっていると感じています。IT業界の人気もあって、建設業を志望する若い人はどんどん減っていますね。それでも、住宅産業自体がなくなることはないと思っているので、その中で生き残れる会社にしていきたいんです。
──そのために、どのような方針で人材を育てようとされているのですか。
Hさん:施工管理か設計、どちらか一方の専門家を育てるのではなく、住宅に特化して、設計から施工管理まで一貫して対応できる「住宅のプロフェッショナル」を育てたいと考えています。
弊社はビルや店舗ではなく住宅に絞ってやっている会社なので、そこに強みを持たせたいんです。
それに、設計や施工管理のどちらかが急に欠けることになっても、両方できる人材が複数いれば柔軟に対応できます。
──実際に、そうした人材を育てる環境が整っているんですね。
Hさん:そうですね。私自身、川﨑ハウジングに入った当初は設計として採用されながら、設計を教えつつ現場も見るという形でやってきました。だから、両方を担うのは決して無理な話ではないと思っているんです。ベテランの現場監督が2人いますし、設計は私が教えられます。
実務レベルであれば、入社3年目の設計担当者も指導できるようになってきています。
他社様の仕事内容を見ても、設計から現場まで一人で担える環境をつくれる会社は、そんなに多くないと思っています。ある程度の規模がないと建売住宅の事業そのものが成り立ちませんし、逆に棟数が多すぎると、一人で全工程を見るのは現実的ではありません。
久留米支店の年間の棟数は50棟から60棟ほどで、ちょうどいい規模なんです。だからこそ、まず1件設計して、それが形になっていく様子を3か月ほど現場で見届けながら、並行して次の1件を設計していく。自分が描いた図面が一棟の家として建ち上がっていくのを、最初から最後まで自分の目で追えるわけです。
そうしたサイクルを繰り返していけば、年間12件ほどを担当できるようになるはずです。ただ、今の久留米支店にはまだ設計と現場管理の両方を担える人材はほとんどいません。だからこそ、うちで両方を経験して育っていく人が出てくれば、それは他にはない強みになると思っています。
──このキャリアの積み方は、他社とは違う魅力になりそうですね。
Hさん:大手ゼネコンで現場管理をしたいという人には、あまり響かないかもしれません。ただ、住宅に特化して全工程を経験したい人にとっては、価値のある環境だと思っています。
建設の工事現場というと、ゼネコンの所長になることがキャリアの到達点というイメージを持たれがちですが、もっと身近なところにも面白い仕事があるということを、建築や建設を目指す人にはわかってもらいたいですね。住宅の設計や施工は、一度その良さがわかると、ずっと続けられる仕事だと思っています。それだけ奥が深い。
向上心のある人と一緒に、住宅のプロを育てていきたい
──どのような人と一緒に働きたいと考えていますか。
Hさん:向上心の強い方でしょうか。何でもやってみたいと思うくらいの気持ちがちょうどいいと思っています。設計にしても施工管理にしても、与えられた仕事をきっちりこなせればそれでいいという、いわゆる指示待ちの人よりも、自分で考えて「こうしたい」と提案してくれる人の方がいいですね。
──逆に、どのような方に興味を持ってもらいたいですか。
Hさん:住宅のプロを目指したいという明確な意識がなくても構いません。住宅業界そのものに興味がある方、新卒の方であれば、特に建築学科の方には、一度話を聞いてみてほしいと思っています。
──若手や設計担当のメンバーと接する中で、大切にされていることはありますか。
Hさん:設計の仕事は、本来なら時間を気にせずにやりたいと思う人が多い仕事なんです。私自身がそうだったので、その気持ちはすごくよくわかります。
実際、今でも残業時間が多くなってしまう設計社員がいますが、頑張ってやってくれているだけに、あまり強く言いたくないという気持ちもあるんです。
ただ、その頑張りたい気持ちは大事にしながらも、勤務時間の中できちんと成果を出せるように、一緒に考えていきたいと思っています。
──働き方について、ご自身はどのようにお考えですか。
Hさん:設計の仕事は、時間を気にせずにやろうと思えばいくらでもできてしまう仕事です。私自身、若い頃は夜遅くなることも苦にならないタイプでした。ただ、今にして思えば、もっと違う時間の使い方があったかもしれないと思うこともたくさんあります。
今の時代は、仕事も私生活も両方大事にできる環境で働けるということを、これから働く方にも知ってもらいたいですね。自由に使える時間が増えた分、それをどう使うかは本人次第だと思っています。
──最後に、転職を迷っている方へメッセージをお願いします。
Hさん:設計や施工管理の技術者として、住宅のプロを目指したいという方にとっては、すごくいい環境を提供できると自負しています。ぜひ一度、話を聞いてみてもらえたら嬉しいです。