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自然の力で鰻の可能性を最大限に引き出す。 高校生の心に刺さった、養鰻業を追究する職業人の姿勢とは?

2020年10月16日(金)、文部科学省の取組み「WWL」(ワールド・ワイド・ラーニング)の一環で、県立大宮高等学校文化情報課1年生約20名が新富町を訪れました。命の探究授業を快諾したのは、年間8トンもの鰻を生産する中村養鰻場の2代目・中村哲郎さん。はじめは遠慮気味だった生徒さんたちも、養殖場内を中村さんに案内され湧いてくる疑問をどんどんぶつけるように。中村さんもさらに熱く、鰻について、自然について語っていました。

鰻も人間も自然の一部。
自然の力を最大限に利用して鰻を育てる

自然保護をテーマに生徒さんたちに話すにあたり、「私の持論なんですが…」と前置きし、話し始めた中村さん。
「『自然を守りましょう』」とよく言います。自然の対義語は人工、つまり人間がつくったものと自然とを線引きしていますが…。養殖は、自然でしょうか?人工でしょうか? 人間も自然界を成す一部であり、私たちは自然の力を利用して鰻を“人工的に”育てていますが、自然と線引きする必要はあるのでしょうか」

鰻が遡上する、うなぎが好む水質の一ツ瀬川。養殖池にその伏流水を引いて鰻を育てている中村さんは、いかに自然の力を利用して養殖を行うかを重要視し、養鰻場も自然の一部と考え環境づくりを行っています。

「これから一緒に養鰻現場を見て回るので、それを感じてもらえたらいいですね」。

砂利を敷き詰めた養殖場の底
バクテリアが増えて水を浄化

まずは水がない乾いた養鰻池から中村さんの説明が始まります。池の底には、砂利が敷き詰められています。「コンクリート三面張りの川がよくあるでしょう。そうはしないで、砂利を敷き詰めることで凹凸をつくり、水中でバクテリアが繁殖しやすい環境をつくるんです。バクテリアの働きで水がきれいになり、うなぎが健康的によく育つんですよ」。

初めて見る養鰻池で、生徒さんたちは一つひとつに理由があることを知ります。耳を傾け、メモをとります。

鰻をサイズごとに選別する場所では、
「なぜこれは木でつくられているのですか?」と質問がありました。
「金属製より鰻の肌にやさしいからですよ」
先代をふくめ長年の経験から、鰻に最適な環境を追究している中村さん。
その姿勢を生徒さんたちは徐々に感じ始めているようです。

養鰻業は母親業
声を出さない鰻の声を聞く

当然ですが鰻は声を発しません。その鰻の状態を把握し、出荷シーズンに合わせて太らせるためには、鰻の様子をじっくり観察してエサの量やタイミングを測っています。

「自分の子どもよりよく見ているかな。人間の赤ちゃんは声を出してくれるけれど、鰻はよく見ていないと、どうしてほしいのか分からない。母親業ですよ」。

そんな話をしているうちに、次第に生徒さんたちが代わる代わる中村さんのそばへ。自分の中に湧いてきた疑問を、メモを片手に中村さんに質問します。

同年代の子どもがいる中村さんは、目を細めながら真剣に答え、丁寧に説明をしていました。

我が子がお世話になった地域へ
感謝の気持ちで給食に寄付

最後は事務所内で、見学の振り返りと補足説明、質問の時間です。
父親が始めた養鰻業は、東京でコンピュータ関係の仕事をした後に2000年に帰郷して後継しました。

中村養鰻場では生きたまま、直接鰻専門店へ。問屋を通さず直接鰻を納めることで、その反応や意見をもらってさらなる高みを目指します。さまざまなデータを数値化して記録することも継続して行っており、「数字と感覚がマッチした瞬間が最高におもしろい」と、養鰻業にハマった理由も教えてくれました。


「子どもさんが通った学校給食に寄付していると聞いたが、どんな思いから?」
生徒さんから出たこんな質問に、
「私はとにかく鰻のプロとして結果を出したい一心で仕事に没頭しました。自分の子どもが誰にどれだけお世話になっているかも知らずに、子どもが大きくなって…。私ができる恩返しは、鰻だけですからね」。
また、
「鰻の味を、地域の子どもたちの記憶に残したい」
とも話していました。


短い時間でしたが、学びと交流の実りある探究学習がこの新富で実現しました。
生徒さんたちは自然や仕事について学びながら、働く父親の背中も感じた時間だったのではないでしょうか。

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