鉄道・航空業界は今、コロナ禍からの回復という追い風を受けながらも、静かに構造的な岐路に立っています。
インバウンド需要の急回復で足元の業績は過去最高水準を更新する会社も多い。しかし同時に、日本全体の人口減少という長期トレンドの中で、本業だけに頼り続けることへの危機感も確実に高まっています。
7月7日、BASECAMP 鉄道・航空FORUMに、鉄道・航空各社のCVC・イノベーション担当者が集まり、「移動インフラを担う企業が、次の事業をどう作るか」という問いをテーブルに乗せて、本音で語り合いました。
事業拡張か、飛び地か
この日のフォーラムは、参加各社の「スタンスの整理」から始まりました。
各社が自社のCVC・新規事業を「事業拡張(既存アセットの活用)」と「飛び地(新領域への探索)」という二軸でどう捉えているかを共有する自己紹介の時間は、予想以上に多様な視点を生みました。
ある鉄道企業は「沿線価値の向上や人の流れの創出」を軸にした事業拡張型として、フィットネス事業への出資など「地下から地上へ」の展開を推進中。また、ある鉄道企業はCVC子会社化を通じて飛び地への投資を明確に宣言するスタイル。ある航空企業は「飛び地をいかに飛び地に見せないか」という問いを自社の課題として率直に語りました。
「最初から一つの答えがあるわけではない。どこに重きを置くかが、それぞれの会社の戦略を映している」という声が、この日の議論全体に通底していました。
コンソーシアムという選択肢
この業界のCVC活動で際立つのが、同業他社との"協調"という動きです。
ドローンによる鉄道設備の点検業務では、JR各社や鉄道会社などが共同開発の協定を結び、スタートアップを共同で活用する取り組みが進んでいます。忘れ物・落とし物を探すサービスを複数の鉄道会社が共通インフラとして導入する動きも見られます。
「競合他社との協調領域を作ることで、スタートアップへの投資効果を業界全体で高めていく。この業界だからこそできる発想かもしれない」という発言が印象的でした。
競争だけでなく、共創によって課題を解くという視点が、この業界のオープンイノベーションに独自の色をつけています。
「CVCはやらない」からの大転換
フォーラムの後半、ある航空会社のCVC担当者が自社の取り組みを語ってくださいました。
「当初、CVCをやらないという立場でした。目利き人材がいない、体制が整っていない、既存事業に比べてリターンの確実性がない─そういう理由から、まずはVCのLPとして学ぶことから始めたんです」
それが変わったのは、スタートアップとの協業を通じた事業創出というミッションが会社として明確になったタイミング。二人組合でCVCを立ち上げ、専従で自社の事業開発を担うメンバーをVCに配置するという仕組みをつくりました。
「21社に投資をして、全く事業部と噛んでいないのは4社ほど。何らかの形では事業連携が生まれている計算になります」
事業創出を最優先とする姿勢は、財務リターンだけを追うVCとは一線を画します。空飛ぶクルマ、ドローン、AIビジネスなど、「次の事業ドメインをゼロから作る」という覚悟が言葉の端々から伝わってきました。
自前とオープンイノベーションの掛け合わせ
大手私鉄系ホールディングスの担当者は、自身がスタートアップの創業者として大手私鉄系ホールディングスへ会社をイグジットした後、グループの新規事業部門を立ち上げてきた経歴の持ち主です。
「事業シナジーがある限りは、単体で赤字でも続けるという判断をすることもあります」
10年で売上10億円を目安に置きながら、単年の数字だけで撤退を判断しない姿勢は、長期的な事業創出を本気で目指す覚悟の表れでした。
本業とスタートアップをどう組み合わせるか。その問いへの答えは、各社の戦略と文化によって大きく異なる──そのことがこの日の対話を通じて鮮明になりました。
BASECAMPが生み出す「同じ悩み」の発見
フォーラムを通じて何度も繰り返されたのは、「同じことで悩んでいたとは思わなかった」という声でした。
鉄道・航空という巨大なインフラを抱える企業同士は、普段は競合や独立した存在として動いています。CVC活動の手応えも課題も、社外に語る機会がなかなかありません。
BASECAMPのフォーラムは、完全招待制という安心感の中で、そうした「言えなかったこと」を率直に話せる場として機能しています。事業拡張か飛び地か、出資か協業か、社内説得の壁をどう越えるか─成功事例だけでなく、葛藤や失敗も含めて共有されたこの日の対話は、参加者それぞれの「次の一手」を考えるきっかけになったはずです。
移動インフラを担う企業が、次の100年をどう描くか。その問いへの答えは、まだ出ていません。
それでも、問いを持ち寄って一緒に考えられる仲間がいる。
その場をつくり続けることが、BASECAMPの役割だと考えています。