データックでは、公衆衛生・製薬・医学の研究をされている方を対象に、定期的に採用セミナーを開催しています。今回は、2026年8月24日(月)に開催したセミナーのレポートをお届けします。
テーマは、「これからの薬剤疫学者:専門性をつなぎ、RWD研究を意思決定につなげる」です。
ゲスト講師の深澤俊貴先生(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 薬剤疫学分野 講師)からは、意思決定上の課題を研究につなげ、その成果を意思決定に返すプロセスと、薬剤疫学者が担う科学的判断についてお話しいただきました。RWE事業部 Epidemiology Group グループマネージャーの李さんからは、企業で働く疫学者としての実感と、データックの専門性を高める取り組みが紹介されました。
その後のパネルディスカッションでは、企業で活躍する薬剤疫学者に求められる専門性と、キャリアの広がりについて議論が交わされました。
①会社紹介
データックは2018年8月の設立以来、「医学の知の創出を加速する」というミッションと、「医療の選択肢が患者に届く世界」というビジョンを掲げ、製薬企業のメディカルアフェアーズ(MA)部門を主なクライアントに、リアルワールドデータ(RWD)を用いたデータベース研究の受託支援を行ってきました。
研究戦略・データベース選択から解析、論文化までを一気通貫で支援できる体制が特徴です。「戦略を成果に繋げる提案力」「臨床とデータベース研究の架け橋」「共創するパートナー」の3つを強みに掲げています。
②講師講演:問いを研究に、研究を意思決定に
深澤俊貴先生からは、RWD研究を設計・推進する薬剤疫学者の役割についての講演が行われました。
アカデミアでも企業との共同研究でも受託研究でも、目的や成果物は異なるものの、リサーチクエスチョンを軸とする科学的判断は共通するといいます。その役割が、ICH M14をはじめとする国際的な整理を踏まえた、エビデンス生成の3段階に沿って紹介されました。
1つ目は、「問いを明確にする」こと。
まず、何のための意思決定であり、誰にどう活用されるのかを考えます。そのうえで、既存のエビデンスを批判的にレビューし、不足している情報を特定して、研究で答えるべきリサーチクエスチョンを定めます。
2つ目は、「研究を設計・実施する」こと。
問いから研究デザインの主要素を定め、「データベース上で何を特定できる必要があるか」という最小データ要件に落とし込みます。候補となるデータソースの適合性と限界への対応を検討し、選択・除外の理由を明示します。データアクセスや契約・倫理、解析環境、人員・予算・期間といった実施上の条件も判断します。
判断の根拠と実装方法は、プロトコルと統計解析計画書(SAP)に明文化します。解析では計画どおりに実装されているかを確認し、変更や追加解析が生じた場合は内容・理由・時期を記録して、事前に規定した解析と区別します。第三者が理解・評価・再現できる形にすることが、透明性と再現性を支えるといいます。
3つ目は、「エビデンスを解釈し、意思決定に位置づける」こと。
事前に規定した解析と事後の解析を区別し、推定値や統計的精度に加え、バイアスや交絡、測定誤差、欠測データの影響を検討して、結果から言える範囲を見極めます。そのうえで、意思決定に提供できる情報、残る不確実性とその重要性、他のエビデンスとの関係を整理します。
この3段階は一方向ではなく、必要に応じて問いに立ち戻る反復的なプロセスです。重要な不確実性が残れば、追加解析や別のデータソースの活用、新たな研究につなげます。
薬剤疫学者は、多様な専門家と協働しながら各段階の科学的判断を一貫してつなぎ、エビデンスの意思決定上の位置づけを明確にする存在である、というメッセージで講演は締めくくられました。
③データックメンバー講演:企業で働く疫学者として
Epidemiology Group グループマネージャーの李さんからは、企業で働く疫学者として、データックの業務で良いと感じた点が2つ紹介されました。
1つ目は、多様な疾患領域に関われること。受託研究だからこそ、自身では立案しない、あるいは立案できない分野の研究に関わる機会があり、それが成長につながるといいます。
2つ目は、エビデンスの活用を意識した研究設計力が身につくこと。クライアントの戦略的目標を見据えて研究を組み立てることで、研究思考そのものが強化されるという実感が語られました。
あわせて、データベース研究の専門家集団であるための取り組みも紹介されました。週1回60分、持ち回りで行う定期勉強会や、研修受講・書籍購入を支援する学びの奨励制度を設けています。新入社員には、シニア疫学者が約3か月かけてプロトコル作成を指導する教育研修も用意されています。
④パネルディスカッション
続いて、李さんと深澤先生が、「企業で活躍する薬剤疫学者に求められる専門性」と「データックで積める経験と、薬剤疫学者としてのキャリアの広がり」について議論しました。
李「記述疫学研究では、臨床上の問いを回答可能な研究に翻訳する部分が曖昧になることがあると感じています。共同研究で特に意識されていることは何でしょうか?」
深澤「リサーチクエスチョンを明確にすることです。ただ、その前に、何のための意思決定であり、誰にどう活用されるのかを考える必要があります。そのうえで、標的集団は誰か、アウトカムは何か、エビデンスが最終的にどう還元されるのかまで計画段階で考えると、曖昧さは減っていくと思います」
李「活用先から逆算して問いを組み立てるということですね。研究の限界を踏まえて実施可否を判断する際は、どこに基準を置かれていますか?」
深澤「ケースバイケースです。限界があればno-goという二値的な判断ではなく、その程度を考えます。たとえば全生存期間を見たい場合、緩和医療への移行によって追跡できなくなる患者がどの程度いるかが重要で、その割合が大きければ難しいと判断します。
ただ、そこで終わると意思決定者の意向は宙に浮いてしまいます。死亡の影響を受けにくい代替指標を提示するなどして妥協点を探りますが、問い自体が変わっては本末転倒です。最終的には科学的な判断のもとでgo/no-goを決めます」
李「限界の程度を見積もり、元の問いを保った代替案を出す力が求められるのですね。意思決定者と意見が対立する場面では、どう対応されますか?」
深澤「まず、科学的な判断とビジネス上の判断のどちらで対立しているのかを整理します。科学的な判断は薬剤疫学者が担うべきであり、研究をする以上、その軸はぶれてはいけないと思っています。
ビジネス上の判断であれば、相手の立場や価値観、何を重視しているのかを理解するよう努めます。そのうえで、科学的にどこまでできるかを示し、合意形成していきます。また、同じ内容でも誰が言うかで受け取られ方は変わります。意見を伝えるうえでも、自身の専門性を高めることが重要です」
李「科学的な判断を担いながら、相手の価値観を理解して合意形成することが大切なのですね。医師ではない薬剤疫学者が、臨床的な観点を外さないためには、どのような行動が必要でしょうか?」
深澤「私自身も医療従事者ではないので、まさにその立場です。診療ガイドラインや添付文書は必ず読みます。医師の方には及ばないという限界を理解しつつ、自分なりの考えを持って会議に臨み、対話を通じて調整します。
また、診療報酬の中で発生するデータを扱うため、患者さんがどのような診療フローを経て治療に至るのか、現場の感覚を理解しようと努めることも重要です。それが、適格基準やアウトカムの定義といった要所を外さないことにつながります」
李「患者ジャーニーを把握し、臨床の方々と擦り合わせるということですね。薬剤疫学者の育成で、まず教えるべきことは何でしょうか?」
深澤「問いを自分で立てることです。手元のデータソースから何の研究ができるかを考えがちですが、まずリサーチクエスチョンを考え、研究デザインの主要素と最小データ要件を導き、それに沿うデータソースを選びます。この一連の流れを自分で立ち上げ、経験することが成長には欠かせないと思います」
李「その過程を自分で経験することが大切なのですね。キャリアについて、アカデミア、CRO、製薬企業、規制当局以外には、どのような選択肢がありますか?」
深澤「データベースベンダーやコンサルティングファーム、ヘルステック企業なども挙げられます。ただ、薬剤疫学者という名前にこだわる必要はないと思っています。
問いを考え、研究を立て、エビデンスを適切に活用する能力は、他の職種にも転用できます。専門性を高めるほど選択肢は広がりますし、その一連を経験できるデータックは、とても良い場だと思います」
李「専門性そのものが選択肢を広げるということですね。最後に、企業で働く研究者にとって特に重要なスキルは何でしょうか?」
深澤「科学的に考えることが前提です。そのうえで、企業の研究には多くのステークホルダーが関わるため、相手の部署が何を大切にしているのかを理解し、意思決定に導くことが重要です。
疫学や統計はあくまでスキルであり、最低条件です。相手の立場に立ち、意思決定に導こうとする方が、実際に力を発揮されているように思います」
李「疫学や統計を出発点に、意思決定に導く力が問われるのですね。本日のご講演にも重なるお話でした。ありがとうございました」
⑤募集職種紹介
データックでは現在、以下の職種を募集しています。
クリニカルデータサイエンティスト 兼 プロジェクトマネージャー(正社員・業務委託・インターン)
解析設計・品質保証・解析基盤構築までを担う「AI時代のClinical Data Scientist」を目指せます。
疫学者 兼 プロジェクトマネージャー(正社員・業務委託・インターン)
研究デザインから論文化までを一気通貫で経験し、成果を社会実装につなげることを目指せます。
マーケティング営業(正社員・業務委託)
疫学者・データサイエンティストと連携し、「どんなエビデンスを創るべきか」から提案する営業を経験できます。
データックでは、今後もさまざまな情報を発信していく予定です。ぜひ引き続きご注目ください!