商品ではなく”進歩”を選ぶ。「ジョブ理論」から学ぶ“選ばれる理由”のつくり方 読書レポ【広報のつぶやき集🐥】
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こんにちは!インテグレート広報の角田です🐻❄️
マーケティング領域で広く参照されているハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・M・クリステンセン教授の「ジョブ理論」。
インテグレートの考える顧客インサイトの感覚と非常に近いため、その思想を日々の議論や企画づくりでも参考にしています。
私自身、マーケティング業界未経験で入社したこともあり、業務の中でマーケティングの本質的な概念や、それに紐づく専門用語に触れるたびに、背景にある考え方まできちんと理解したいと感じる場面がありました。
特にインテグレートでは、マーケティング戦略の議論で「ジョブ」という言葉が頻繁に登場します。
その原点にある考え方を整理したいと思い、あらためて「ジョブ理論」を読んでみることに。
今回は、その読書レポートをお届けします。
ジョブで変わる“選ばれる理由”
ジョブ理論の定義について、クリステンセン氏は以下のように解説しています。
顧客はある特定の商品を購入するのではなく、進歩するために、それらを生活に引き入れるというものだ。この「進歩」のことを、顧客が片付ける「ジョブ」と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を「雇用」するという比喩的な言い方をしている。
クレイトン・M・クリステンセン,ジョブ理論,ハーパーコリンズ・ジャパン,2017,P.58
そして、ジョブには機能的側面だけでなく、社会的・感情的な側面があることも強調されています。
たとえば本書では実際にクリステンセン氏が相談を受けた「ミルクシェイクのジョブ」の例が挙げられています。
「どうすればミルクシェイクの売上を伸ばせるか」を探るために、
ファストフード店はまず、
「どんな点を改善すればもっと買いたくなりますか?」といった顧客調査を行い、その要望を商品に反映しました。
しかし、改善を加えても売上はほとんど変わりませんでした。
そこでクリステンセン氏らは視点を変え、
「来店客の生活の中で、どんな“ジョブ(用事・進歩)”がミルクシェイクを“雇用”させたのか」
という軸で、丸一日(18時間)来店客を観察しました。
その結果、午前と午後でミルクシェイクが“雇われる理由”がまったく異なることがわかったのです。
● 朝の通勤時間帯
観察によると、午前9時前にひとりで来店する客がミルクシェイクを多く購入していることが分かりました。
購入者に話を聞くと、
「長い通勤時間を、退屈せずに、手軽にお腹を満たしながら過ごしたい」(=機能的なジョブ)
という共通のジョブを抱えていました。
●午後の子ども連れの時間帯
一方、午後になると、子ども連れの親がミルクシェイクを買う姿が多く見られました。
行動観察や会話の中から分かったのは、彼らが抱えていたジョブが朝とはまったく異なるという点です。
「子どもへのちょっとしたご褒美にしたい」「一緒に楽しめる時間をつくりたい」といった、感情的・社会的な側面のジョブが語られました。
同じミルクシェイクでも、
朝は「退屈しない通勤のお供」として、午後は「親子の時間をつくるツール」として
異なるジョブを片付けていることがよくわかる事例です。
午前と午後でジョブが違うと、当然「競合」も変わります。
- 朝の通勤時間帯の競合:ドーナツ、バナナ、コーヒー
- 午後の親子時間の競合:玩具店、キャッチボールなどの体験
ジョブ理論の視点で考えると、競合は同じカテゴリの商品に限りません。
生活者がそのジョブを片付けるために選びうるすべての手段が競合になるのです。
“競合”とは本当に敵なのか?
商品やサービスの視点で競合を考えると、つい同じカテゴリのものに目が向きがちです。
しかし、前述の通り、生活者のジョブという視点で考えると、競合はまったく別のカテゴリや業界にも存在します。
この考え方を通して、それまで私が捉えていた「競合」の概念が大きく変わりました。
また同時に、競合の範囲が広がるということは、ターゲットの選定やタッチポイントの強化、ブランディングなど、より広い視点で深く、そして長期的にマーケティング戦略を考えていく必要があるという点で難しさを感じました。
しかし、インテグレートが大切にしている「市場創造」という視点に立ち返ると、
競合が多いという状況は、裏を返せば「共に取り組める相手が多い」ということでもあります。
異業界や、これまで競合と見なされていた企業であっても、
生活者のジョブを起点にすれば、これまでとは違う関わり方が生まれ、価値をともにつくっていく関係になりうるのです。
ビジネスにおいて競合に勝つという視点は、無視できないものだと思います。
しかし、ジョブ理論は、市場を奪い合う発想だけでなく、共創というもう一つの視点の重要性を示しているとも感じました。
生活者のジョブを起点にすれば、企業同士の関係はもっと柔軟で建設的なものになり得る。
その考え方に、とても前向きな可能性を感じました。
データでは捉えきれない「状況」と「心理」
ジョブ理論の中で特に印象に残ったのが、「人そのもの」ではなく、「その人が置かれた状況」に注目して顧客を理解するという考え方でした。
年齢や職業といった属性よりも、「どんな場面で、どんな制約や感情を抱えていたのか」といった状況のほうが、行動を大きく左右すると本書では解説されています。
AIを使えば、統計的な分析やパターン抽出は効率的に行えます。しかし、「人がなぜそう感じて、行動したのか」という深層心理までは読み取れません。
以前、インテグレートが行うデプスインタビューに立ち会った際、
本題に入る前に、「趣味はありますか?」「始めたきっかけは?」「家族からは何と言われてる?」などといった会話が続いていたことがありました。
当時は、すごく丁寧なアイスブレイクだな、という印象を持っていましたが、
今思えば、あの時間こそが その人の状況や選択の背景を探るためのプロセスだったことに気づきました。
この経験を通して、属性データだけでは見えない 心理に向き合うことの重要性を改めて実感しています。
企業が持つべき一貫性と信頼
ジョブを見極めて満たすことは簡単ではない」と著者は語ります。
企業は、優れた商品やサービスをつくるだけでなく、機能的・社会的・感情的な側面を満たす体験を設計し、それを一貫して提供することが大切で、一貫性が欠けてしまえば、どれだけ良いアイデアでもすぐに模倣されてしまう。
「このブランドなら自分のジョブを解決してくれそうだ」と思える信頼や、「選びたい」という感情を生み出す体験が重要である、と強調されています。
この考え方はインテグレートが実践している、生活者に課題に気づいてもらい、生活者が行動したくなるための『パーセプション設計』や
生活者の「買いたい」「買い続けたい」と思ってもらい、商品・サービスが生活の中に根付いていくことをめざす『CX(顧客体験)設計』の根幹であると感じました。
また本書では、商品やサービスが本当に顧客のジョブを解決できているかを見届け、購入後も体験を提供し続けていくことが重要であるとも解説されています。
購入だけをゴールにせず、継続的な価値提供を積み重ねていくことが、長期的な信頼やブランドの成長につながるという学びがありました。
自分の選択にも、ジョブ理論は潜んでいた
本を読み終え、これまで自分が商品やサービスをどんな思考で選択してきたのかを振り返ってみました。
日用品や消耗品など、日常的に繰り返し買うものは、ほとんど「コスパがいいか」という基準で選んでいたように思います。
そこには大きな感情はなく、実用性を満たしているかどうかだけで判断していて、いわば機能面のジョブを片付けるための雇用でした。
一方で、高額な買い物や、一度選ぶと元に戻すのが難しい決断の場面では、
「本当に実現したいことは何か」「何が満たされれば正解だと思えるのか」といった問いを何度も行き来し、社会的・感情的な側面も含めて慎重に判断していたことに、改めて気づきました。
振り返ると、私が無意識のうちにしていた商品・サービスの選択にあたっての思考は、きちんとジョブ理論に当てはまっていると感じました。
今回、ジョブ理論を読み、その選択の背景に「自分のジョブを片付けるために何かを雇用していた」という構造があったことを理解することができました。
さいごに
ジョブ理論は、顧客を理解するためのフレームワークであると同時に、企業が価値をどう届けていくべきかを見直すヒントにもなると感じました。
広報の仕事に置き換えても、相手の環境や思いを汲み取り、その文脈に寄り添った伝え方を選ぶ姿勢は欠かせません。
今回の気づきを、今後の発信やコミュニケーションづくりにも活かしていきたいと思います。