成果を出したアトツギを表彰する「アトツギアワード」。構想から仕掛けた広報戦略と「構造化能力」
ーー 今回は、正解ゼロの環境で事業を動かし、成果を出していく裏側について紐解いていきます。サンディは「アトツギアワード(※)」をはじめ、数々の事業を0から立ち上げてこられましたが、そもそもこのアワードはどのような背景で生まれたのでしょうか?
※アトツギアワード:ベンチャー型事業承継に挑み、自社や地域で具体的なビジネスの成果を出した全国のアトツギにスポットライトを当て、表彰する年1回のイベント。
発端は、ベンチャー型事業承継の初代事務局長を務めた後、シンガポールに滞在しながら、一歩引いた目線でアトツギ界隈を眺めていた時の強い違和感でした。
当時、社団の取り組みもあってアトツギ同士のコミュニティはすごく盛り上がっていたんです。
でも、一歩外に出てみると、一般社会からはまだまだ「アトツギって何?」という状態。せっかく面白い挑戦をしているアトツギがたくさんいるのに、その熱量が仲間内だけで閉じてしまっていたんですね。
「このままじゃ勿体ない。もっと外の世界に情報を開いて、アトツギの社会的価値を知ってもらって、優秀な人材の転職や新たな取引に繋がるような仕掛けが必要だ」と考えました。
ただ、自社のWebメディアで発信するだけだと、検索して見に来るのは元々アトツギ界隈にいる人たちばかりです。外の世界に届けるには、マスコミなどの第三者メディアのレバレッジを利かせる必要があります。
そこで「世の中が思わず取り上げたくなる仕組み」として、ニュートラルに今年一番成果を出したアトツギを表彰する「アトツギアワード」の構想をまとめました。
単に「アワードをやろう」というアイデアだけでなく、「なぜやるのか」「どうやったら外部メディアや世の中に届くのか」という構造までをセットにして代表の山野に提案したのがスタートです。
内輪ノリにしない。思考の「構造化」と、粘り強くやりきる「推進力」
ーー アイデアを出すだけでなく、それを実現に向けた具体的な設計に落とし込み、形にしていくために、どのように進めていったのですか?
まず、一番こだわったのは、徹底的な中立性の設計です。
自分たちと仲が良いアトツギを取り上げて表彰してしまったら、また内輪ノリに戻ってしまう。だからこそ、推薦委員もメディア関係者、中小企業支援団体、アカデミックなど多角的な視点を持つ方々に依頼し、社団の私意が1ミリも入らない「他薦」による選考の仕組みを10ヶ月かけて丁寧に設計しました。
そして、その設計図を絵に描いた餅にせず、社内外のステークホルダーを巻き込みながら形にしていくのですが……当時は僕自身がシンガポールに滞在していたこともあり、推進するだけでも一苦労でした。
まずは現場の熱量や運営の文脈を直接体感するために、前年に開催された社団のイベントにシンガポールから足を運び、今の雰囲気を肌で理解することから始めました。
さらに、限られたリソースの中で「中立な推薦委員」を一人ずつ巻き込んで人選を整えたり、メディアへのアプローチや配信環境の調整など、泥臭い調整や準備を一つずつ積み上げていったんです。
そうして迎えた第1回の開催(東京・渋谷)で最も心に残っているのは、アトツギのみなさんが本気で挑戦してきた成果を生の言葉で語ってくれたことです。
以前『アトツギ甲子園』に挑戦するもグランプリを獲れず、ずっと悔しさを抱えていたあるアトツギの方が、このアトツギアワードでグランプリを受賞された際、感極まって涙を流されたんです。また別の受賞者の方は、幼いお子さんを会場に連れて来られていて、後日「パパが世界一かっこいい」とお子さんに言われて泣いた、というエピソードをnoteの記事に書いてくださった。
誰かが本気で嬉し涙を流せる場、そしてアトツギが次の世代に誇れる場を創れたことは、事業を作った人間として何よりの喜びでした。
さらに、会場には多くのメディア関係者にお越しいただいたほか、遠方の方にも届けるためにあえて予算を投じてYouTubeのリアルタイム生中継配信にこだわりました。
結果として、最終的には1,000人以上の方に視聴していただくことができたんです。
単にその場のイベントで終わらせず、YouTubeにアーカイブ(資産)として動画を残すことで、いつでも・誰でも彼らの挑戦を見返すことができる。それこそが、このアワードの一番大きな成果物であり価値だと思っています。
実際、受賞者の方が地元の市長を表敬訪問されたり、動画を見た地域のメディアや行政にも取り組みが波及していくなど、僕たちの想定を超えた大きなインパクト(レバレッジ)を生み出すことができました。
▲アトツギアワード2025の受賞者
現場の泥臭い体験を、体系的なプログラム(型)へ。「具体と抽象」の行き来
ーー サンディは「アトツギ支援認定サポーター講座(認サポ)」など、他の事業にも関わっていますよね。こうした事業開発の現場ではどんな思考が活かされているのでしょうか?
認サポのプログラム開発は、まさに「具体的な事象を抽象化し、構造化する思考」の成果ですね。
僕たちは日々、全国のアトツギに向けて伴走支援プログラムを運営しています。
その際、さまざまなアトツギの事例を共有するのですが、例えば大分や長崎など、プログラムを実施した各地で起きた「具体的な成功例や失敗例」をそのまま伝えるだけでは、単なる一例の話で終わってしまいます。
そうではなく、「一歩引いた視点から見て、みんなが共通してつまだくポイントはどこか?」「うまくいくパターンにはどんな共通項(Tips)があるのか?」を抽出し、誰でも再現できるように知見を体系化(構造化)していく。
自分が経営論を上から語るのではなく、現場のリアルな「具体(事例)」を深く理解した上で、それを「抽象(ノウハウ・型)」に昇華させて人に伝える。
この「具体と抽象を行き来する思考」こそが、事業を横展開していく上でとても役立っていると感じています。
「構造化能力」と「推進力」—— この仕事をもっと面白くする2つの思考
ーー 今の社団の事業展開において、どのようなスキルや姿勢があると、より仕事を楽しめたり持ち味を発揮できると思いますか?
いまのフェーズで、持っているとすごく仕事が面白くなるのは次の2つの要素だと思います。
- 構造化能力: 散らかった課題や現場の泥臭い事象に対して、一歩引いた客観的な視点(抽象度)を持ち、「本質的な課題は何か」「どういうモデルにすれば解決するか」を整理・設計してみる力。
- 推進力: 綺麗な企画書を書くだけで終わらせず、多岐にわたるステークホルダーの間に立ち、泥臭く合意形成を行って最後まで形にしきる実行力。
もちろん、最初からこれらが完璧にできる必要はありません。
社団にはそれぞれの得意分野を活かし合い、足りない部分を補い合うカルチャーがあります。
大切なのは、「指示を待つだけ」や「アイデアを出すだけで終わる」のではなく、「自分で構造を考えて、泥をかぶってでも一歩動かしてみたい」という当事者意識(オーナーシップ)があるかどうか。
それさえあれば、社団の環境は間違いなく最高に面白い打席であり、自身の成長と大きなやりがいを実感できるはずです。
自分がやらなければ、世の中に存在しなかった価値を創る
ーー 最後に、この「正解ゼロ」から事業を立ち上げていく面白さについて教えてください。
ゼロから事業をつくる最大の魅力は、「自分がやらなかったら、未来永劫この世に存在しなかったかもしれない価値が生まれること」です。
完成された業界で決まった仕事をこなすよりも、未完成な領域だからこそ、自分の手で仕組みを創り出した時の「手応え(差分)」は圧倒的です。
アトツギワールドは、まだまだこれから出来上がっていくエキサイティングな領域で、素材も課題も山ほど転がっています。
「与えられた枠組みを飛び出して、自分の手で社会に新しい価値や仕組みを構造化し、推し進めていきたい」という強い好奇心を持った方と、ぜひ一緒に挑戦したいです!