「映像を作ることと、体験を設計することは、似ているようでまったく違う」
株式会社LILは、江戸東京博物館やスカイツリーなど、大型施設の空間演出を中心に手がける、少数精鋭のクリエイティブスタジオです。映像を指示通り制作して終わりではなく、演出のコンセプト設計からCGクリエイターへのディレクション、現場での調整まで、体験の上流から一気通貫で関わるのが特徴です。
今回は、江戸東京博物館の大規模リニューアルに伴うプロジェクションマッピングプロジェクトについて社内インタビューを実施。代表でありプロデューサーの井筒亮太と、共同代表であり演出担当の橋本大佑に話を聞きました。
語られる機会が少ない大型プロジェクトの全容や、LILが内製CGクリエイターを求める理由。そしてLILでしか味わえない経験について、語ってもらいました。
都知事肝入りの大型案件が、ほぼゼロベースで舞い込んだ。演出の上流から入るLILが、1年かけて江戸を蘇らせるまで
──まずは江戸東京博物館プロジェクトに携わることとなった経緯を聞かせてください。
井筒:江戸東京博物館の大規模なリニューアルに伴い、半屋外エリアの巨大な天井空間に大型のプロジェクションマッピングを投影する話をいただきました。縦が100メートルを超える天井全面に映像を投影する、日本でも最大級の規模のプロジェクトです。
プロジェクトのオーダーは、クライアント側からテーマの方向性は示されていましたが、演出の中身はほぼゼロベースでした。そのため、私たちが演出プランを設計し、どんな映像を作るかを提案するところから参画しました。
──ほぼゼロベースから演出を設計するというのは、具体的にどういうことでしょうか。
橋本:まず現場に足を運ぶところから始めます。あの空間は両国駅のホームからも見えるくらい巨大であり、天井空間は映画のように一方向から見るものではありません。
その特性を自分の目で確かめた上で、「江戸の世界が天井から溢れ出す巨大装置にしよう」というコンセプトが生まれました。空間の特性を演出の起点にする。それが私たちの仕事の出発点です。
──LILが受注するプロジェクトの多くは、大規模なものや、今回のようにゼロベースで比較的自由度が高い案件が多いですよね。こうしたプロジェクトに携われる背景には、何があるのでしょうか。
井筒:受ける案件を絞っていることが大きいと思います。「3ヶ月で納品してほしい」という依頼も多いのですが、それらは全てお断りしています。この江戸東京博物館プロジェクトも、完成までに約1年かかりました。
私のプロデューサーとしての最優先ミッションは、良いクリエイティブを作り上げるための、予算とスケジュールをしっかり確保することです。こだわり抜ける環境を守れなければ、クリエイターが本当に力を発揮できる仕事はできません。最善の環境を整えることが、クリエイターへの約束でもあると思っています。
クリエイターと共に超える表現の限界。100回を超えるやり取りが生んだ、北斎の波とワニザメの鱗
──CGクリエイターはどの段階から参加し、どんな役割を担うのでしょうか。
橋本:演出の大枠が固まった段階で入ってもらいます。私が全体の尺と展開の流れを設計し、どのシーンをどう見せるかという構成を作る。そこまで決まってから参加してもらう形です。
ただ、渡すのは細かい指示書ではなく、「このシーンで江戸の四季を表現してほしい」という粒度の依頼です。どう表現するかはクリエイター側に大きくは委ねています。こうしたオーダー方法を取る理由は、自分の発想だけで作っていたら、想像の範囲を超えられないからです。クリエイターの提案を見て「この発想は自分にはなかった、これを採用しよう」となることも少なくありません。
自分にはない発想の提案を持ってきてくれるクリエイターとの仕事は、純粋に楽しいですね。
──今回のプロジェクトで、橋本さんが特にこだわった演出部分があれば教えてください。
橋本:歌川国芳の作品「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」をベースとした巨大な魚「ワニザメ」がうねるシーンと、葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をベースとした波のシーンの演出です。
ワニザメは鱗1枚1枚、牙1本1本の角度まで指示を出して、CGクリエイターと100回を超えるやり取りをしました。北斎の波は、フラットな浮世絵をどう立体化するかが難しくて、Houdiniという物理演算が得意なツールをメインで使用しながら何度もトライアンドエラーを繰り返しました。フォトリアルな表現と絵画的なデフォルメの落としどころを探し続けた、最もこだわったシーンです。
このシーンを担当したのは、業界誌特集が組まれるほどのトップアーティストたちで、LILの案件には、こうした各領域のスペシャリストが集まります。
本作は、CGアーティストが自由度高く作る場面と、トップアーティストと妥協なく作り込む場面が織り交ぜられています。映像の5分すべてを均等にこだわっていたら永遠に終わりませんから、掴みとクライマックスは徹底的に作り込むようにしています。こうしたメリハリが、結果的に作品全体を引き上げることになったと思っています。
AIに任せた分だけ、魂を込められる表現が増える。CG×AIのハイブリッドが変えた、こだわりの使いどころ
──制作現場でのAI活用について教えてください。
橋本:企画のアイデア出しの段階からすでに活用が進んでいます。以前はゼロから自分でアイデアを生み出すしかありませんでしたが、今はAIがどんどん案を出してくれる。私の役割は、その中から面白いものを選んで組み合わせることに変わってきました。
井筒:実制作では、群衆やモブキャラクターのアニメーション制作に活用しています。以前はモブを1体ずつ手作業で動かしていたのが、AIで自動化できるようになりました。それによって生まれた時間は、映像のメインなど人の手によって狙った動きを生み出す必要がある場面に注ぐようにしています。
AIに任せるのは「演出を細かく制御しなくていい部分」に絞る。省力化した分のリソースを、本当にこだわりたいシーンに集中できることが、クオリティ向上につながっています。
──AI活用について、今後はどんな体制を目指しているのでしょうか。
井筒:CGとAIをどう組み合わせるかの判断は、実際に手を動かして試してみないとわかりません。外部に依頼するだけでは、そのノウハウが自分たちに蓄積されていかない。手法を自分たちで開発できる体制を作ることが、これからのLILにとって重要なことだと考えています。
外部のパートナーは、一緒に新しい表現を開発していく仲間です。案件ごとに最適なスペシャリストと組むので、内製クリエイターは毎回異なる領域のプロと直接やり取りすることになる。それ自体が、どの会社にいても得られない学びの場になっていると思っています。
「1つだけ、誰にも負けないものを持っていてほしい」100年後も残るものを作る現場が、求める人材像
──LILのCGクリエイターに求めることを教えてください。
井筒:センスと技術力の両方が必要です。演出イメージを読み取って形にするセンスがないと方向性がずれてしまうし、かといってセンスだけでは形になりません。両方を高いレベルで持っていないと、正直うちの仕事は難しいと思います。
加えて、新しい技術への好奇心も欠かせません。CGだけでもAIだけでもなく、目的に応じて最適な手法を自分で考えられる柔軟性が、これからますます重要になります。
橋本:何か1つ、誰にも負けない武器を持っている人だと嬉しいですね。パーティクルでも、水の表現でもいい。私は得意分野を持つ人と仕事をする時は、その強みを起点に演出を考えます。「このクリエイターはパーティクルが突き抜けている」と分かれば、そこを見せ場にしたシーンを作る感じです。クリエイターの武器が演出そのものを変える可能性があるからこそ、一緒に働くCGクリエイターには、武器を持ってもらいたいですし、私もそういう方とぜひ一緒に作品を手掛けたいですね。
消費される作品ではなく、「100年後も古くならないものを作りたい」という意識がある方なら、きっとLILのプロジェクトはやりがいを感じられると思います。
井筒:今回のプロジェクトでも、流体シミュレーションを専門とするプロダクションや、業界誌「CGWORLD」で技術特集が組まれるレベルのアーティストと直接協業しています。内製する企業の中にいたら出会えないようなプロフェッショナルたちと、LILなら肩を並べて仕事ができる。それが、LILのクリエイターにとっての大きな成長の機会だと思っています。完全リモートワークなので日本全国どこからでも働けますし、空間演出が未経験でも、この10年で積み上げてきたノウハウを伝えることができます。目的に向かって自分でどう動くかを考えられる人は、ぜひ話を聞きに来てください。