「初日のショーが終わったあと、スタッフ全員が泣き崩れました。間違いなく人生の代表作になったと思います」
クリエイティブスタジオLILは、映像作品を作るだけでなくショーの企画設計や全体演出も手がけます。コンセプト設計から音楽・照明との調整、現場でのリハーサル対応まで、ショー全体に最初から関わるプロジェクトも少なくありません。そこには、映像制作だけでは体験できない苦難と、それを乗り越えた感動があります。
今回は、青森屋 by 星野リゾートの常設ショー「みちのく祭りや」のフルリニューアルプロジェクトを紹介します。代表でプロデューサーの井筒亮太さん、共同代表で演出家の橋本大佑さん、そして舞台演出の原田新平さんに、「みちのく祭りや」という大規模リニューアルプロジェクトを通じて、LILのCGクリエイターに求められる資質を語っていただきました。
映像で舞台の「あり方」を変えた。ホテルスタッフが演じる365日のショーを再構築するまで
──まずはプロジェクトの経緯を聞かせてください。
井筒:始まりは2020年の1月頃で、知人の紹介で知り合った青森屋のオーナーからの相談でした。「毎晩ショーをやっているんだけど、現代の技術を取り入れてリニューアルしたい」と言われたのです。実際に現地を訪れると、空間のポテンシャルの高さを強く感じました。また、ショーはホテルスタッフが出演しており、青森各地の祭りを表現した内容になっていました。
──具体的には、どんな要望があったのですか。
井筒:「スタッフの負荷を下げたい」という要望と、「体験満足度を上げて、有料化したい」という要件を、同時に達成することが求められました。
青森屋のショーは365日、毎晩上演されており、出演者はホテルのスタッフです。日中はフロントやレストランで働きながら、夜には舞台に立つため、負担は決して小さいものではありません。
一方で、それまで無料だったショーを有料化するには、クオリティ向上は必須でした。普通に考えれば、クオリティを高めればスタッフへの負荷は増えるものです。正直、当初は両立の道筋が見えず、解決策を見出すのに苦戦しました。
──その矛盾を、どうやって解決したんですか。
井筒:ショーの「構造」を変えることにしました。それまでは演者が舞台を離れると空っぽになるので、誰かが常に出続けなければいけなかったんです。そこを「演者がいる場面」と「映像・照明だけで成立する場面」に分けて設計し直したんです。映像が舞台を担っている時間、演者は袖で休むことができる。自分の出番が来たときだけ、集中して臨める構造にしたのです。
橋本:演者がいる時間と映像だけの時間を組み合わせることで、舞台にコントラストが生まれ、結果としてメリハリのある演出が実現しました。スタッフの負荷を軽減する取り組みが、そのまま演出の質の向上にもつながりました。
井筒:加えて、演出の切り替えをワンタッチで自動化するシステムも開発しています。お客さまにはその仕組みの存在を意識させないように工夫しながら運用していますが、実際は、観客席から見えている以上に、舞台の裏側には多くのテクノロジーが組み込まれているんですよ。
伝統芸能とデジタルの絶妙な融合。あえて引くことで際立たせた風土の魅力
──ショーのコンセプトは、どのように構築したのか聞かせてください。
橋本:最初に決めたのは、「祭りの再現はしない」という方針でした。ショーは大きく、青森のねぶた祭、八戸の三社大祭、五所川原の立佞武多(たちねぶた)、弘前三社大祭と、県を代表する祭りをモチーフに構成されています。しかし、ショーは本物の祭りには到底叶いません。本物の祭りを見たいなら、現地に足を運んでいただくのが一番です。
だからこそ私が目指したのは、ここでしか見られない唯一無二のショーです。祭りの「再現」ではなく、青森という風土そのものを表現するドラマとして設計したんです。
青森には、5ヶ月にも及ぶ長い冬があります。その期間にエネルギーを蓄え、やがて祭りで一気に解き放つ。その物語を軸に据え、全体コンセプトを構築していきました。
──映像演出を作る上で、難しかったことはありましたか。
橋本:デジタルとねぶたという伝統芸能との相性が、想像以上に難しかった点です。重厚な歴史を持つ文化に対して、デジタル映像を全面に出すと、かえって安っぽく見えてしまう懸念がありました。
そのため、ショーの冒頭は、あえて映像を使わず、影絵を採用しました。光で形を表現するアナログな手法は、ねぶたの世界観に自然と寄り添います。演者がいる場面では映像の存在感を抑え、演者が退場後にプロジェクションマッピングを解放するなど、コントラストによって全体のリズムを設計しています。
──ねぶたをCGで表現するにあたって、工夫したことはありますか?
橋本:例えば五所川原の立佞武多の館(たちねぶたのやかた)を訪れ、実物を3Dスキャンしました。7階建て相当の巨大なねぶたをデータ化し、映像に落とし込んでいます。今でこそ珍しい技術ではありませんが、当時は先進的な取り組みでした。ねぶた本来の造形や質感はリスペクトしながら、ショーの世界観に合わせて再解釈し、自分たちの表現として昇華させています。
原田:映像の出方によって、演者の動きも大きく変わります。映像が前面に出る場面では演者は一歩引き、演者が主役となる場面では映像は背景に回る。その”呼吸”を、稽古を重ねながら少しずつ合わせていきました。
橋本:私たちが目指したのは、映像を「見せる」のではなく、「現象を起こす」ことです。光と映像が一体となって立ち上がる瞬間、それはもう単なる映像作品じゃなくなります。それを体験した人の記憶には、単なる映像作品以上の記憶が深く刻まれ、価値を生むと考えています。
青森に泊まり込んだ2ヶ月。音楽家・演者・CGクリエイターが同じ屋根の下で作り上げたショー
──制作は、どのように進めていったんですか。
原田:まず橋本がコンセプトとストーリーラインを設計して、音楽家と私と井筒で構成を議論するところから始まりました。私は青森屋に常駐し、ホテルスタッフと一緒に稽古を重ねながら、毎日の様子を映像に収めます。そして橋本に送り、フィードバックをもらい、現場のブラッシュアップに取り組むといった形です。
橋本:私のほうでは、送られてくる映像を見ながらCGを作成します。現場ではプロジェクターで投影して、原田にスタッフへフィードバックしてもらいます。そのやり取りを繰り返しながら、徐々に映像と演技をリンクさせていきました。
──生演奏と映像を合わせる難しさはありましたか。
原田:それが一番難しかった点ですね。生演奏はリズムが一定ではないため、映像と完全に同期させることができません。
井筒:そこで、あえて同期させる場面を絞ることにしました。人が映像に合わせやすいナレーションパートのみを同期ポイントにし、それ以外の場面では、映像が演奏に寄り添う構成としています。いわば、「生演奏を軸に、映像はそれを支える」という発想の転換でした。
──本番前の最終調整は、どんな状況でしたか。
原田:本番2ヶ月前には、チーム全員で青森屋に泊まり込みました。それぞれがホテルの一室を作業場にして、制作、舞台で確認、修正をひたすら繰り返す日々でした。
橋本:特に、ねぶたへのプロジェクションマッピングは、ミリ単位の調整が求められます。部屋と舞台を何度往復したかわからないほどでした。
原田:また、CGクリエイターも初期からその議論に加わっていました。音楽の構成や展開、演者の動きなど、全部を知った上で映像を作る必要があったからです。
その結果、映像が単なる演者の補助ではなく、演出の一部として機能するようになりました。もし「映像担当」として映像制作だけを切り出していたら、あのショーにはならなかったと思います。
「人生の代表作を、ここで作ってほしい」映像づくりを超えた体験価値を生み出したいクリエイターへ
──LILのCGクリエイターには、どんな人が向いていると思いますか。
井筒:「相手の視点から映像を想像できる人」だと思っています。ダンサーと組むなら、ダンサーから見てこの映像はどう見えるか、といった感じです。自分の視点だけで完結しようとする人は、コラボレーションの際に化学反応を起こせません。相手の立場を想像しながら動ける人は、自分一人では絶対に生み出せないものを作れるようになります。
原田:私は、CGクリエイターには食わず嫌いをしない好奇心も大事だと思います。土地の文化、関わる人たちの考え方、演者の感覚など。それを丁寧に聞いて咀嚼できる人は、異ジャンルとの仕事でも力を発揮できますからね。
橋本:私からは、人と組んだときに力が増す人が向いていると思います。LILの案件は、必ず誰かと一緒に制作を進めます。また、私自身も個人プレーではなく、チームで作品を作りあげたい方と、一緒に働きたいです。そこは正直に言っておきますね。
──LILだからこそできる経験があれば、聞かせてください。
橋本:映像制作に限定されない案件もあり、キャリアを積める点です。音楽、演出、空間設計、システム開発まで含む総合演出に、CGクリエイターが最初から参加できる機会は、他社を見てもそうありません。作家性を持っている人であれば、場合によってはCGクリエイターとしてだけではなく、ディレクターとして活躍してもらいたいと思っていますので、ご自身の可能性も広がると思います。
──最後に、LILに興味を持った方へメッセージをもらえますか。
原田:LILのプロジェクトは、情緒的で大規模なものばかりです。青森屋のショーは365日、毎日200人以上が見ています。他プロジェクトでは、1000人以上が収容される会場で、毎晩行われるものもあります。LILは、本当にたくさんの人の心を動かせるコンテンツを、真剣に作っている会社です。だからこそ、人生の代表作を作りたい人に参画してほしいと思っています。
橋本:映像だけを作っていると、どこかで「自分の仕事はここまで」という壁を感じることがあると思うんです。その壁の向こうに行きたいと思う人は、ぜひ話を聞きに来てください。
井筒:青森屋で初日の公演が終わった後、関係者みんなで泣き崩れました。次の日、帰り際にもスタッフの人たちが泣きながら見送ってくれました。
ただ映像を作る仕事であれば、ここまで感動を分かち合うことはできません。お客さまだけでなく、一緒に作品を作る仲間たちとも感動しあえる仕事ができる。それがLILの魅力であり、そういう仕事に興味のある方をお待ちしています。