2026年1月23日、当社はAI戦略に関するプレスリリースを発表しました。これまで複数のSaaSをつなぐ「HR共創プラットフォーム」という新たな概念を提唱し、業界に新しい価値を提供してきましたが、今後はHR SaaS連携の「ハブ」から、意思決定を支える「頭脳」へ進化させようとしています。
「人事が自律的に、そして自信を持って次の一手を決められる状態を実現したい」。このAI戦略をエンジニアとしてリードする岡島は、そう語ります。
今回は、AIに対するスタンスや思想、そして具体的な取り組み内容について、詳しく話を伺いました。
[参考リンク]
▼プレスリリース|パトスロゴス、大企業のHR SaaS利用を加速するAI戦略を発表
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000078735.html
何をAIに委ね、何を守るか。戦略の核となった冷徹な線引き
——今回、AI戦略に関するプレスリリースが発表されました。そもそもパトスロゴスがこのAI領域に本腰を入れたきっかけは何だったのでしょうか。
きっかけは、代表の牧野が「これからの人事インフラにはAIが欠かせない」と強い号令を出したことです。しかし、最初から今の戦略に辿り着いたわけではありません。
最初に取り組んだのはカスタマーサクセス領域での業務改善を目的としたものでした。当時は、生成AIを使えば劇的に工数が減るのではないかという期待がありましたが、実際に運用してみると、AIの回答精度を維持するためのメンテナンス負荷やAPIの実行コストが膨らみ、到底投資に見合うレベルではありませんでした。
——その経験が、今の戦略にどう活かされているのですか。
AIが魔法のように何でも解決してくれるという幻想を捨て、経営として「本当にAIが価値を発揮できる土壌」を先に作るべきだと判断しました。
何をAIに委ね、何をシステム側で厳密に守るべきか。この線引きを冷徹に定義することから再スタートを切りました。これが、今の私たちの戦略の核になっています。
データを集めるだけでは頭脳にならない。標準データベースという「辞書」の価値
——パトスロゴスのプラットフォームにAIが組み合わさることで、ユーザーにはどのような新しい価値が生まれますか。
私たちが目指しているのは、AIを「人事の意思決定を支える頭脳」にすることです。パトスロゴスは、自社製品だけでなく、共創パートナーである他社製SaaSを組み合わせて最適解を提案する共創ビジネスを展開しています。その結果、私たちのプラットフォームにはあらゆる人事データが集約される仕組みになっています。
しかし、単にデータを集めるだけではAIはうまく動きません。重要なのは、そのデータがどのようなルールや背景で作られたのかという前提情報をAIに正しく理解させることだと考えています。
——「人事データ特有の難しさ」は、具体的にどのようなところにありますか。
例えば、A社のSaaSでは「基本の月収」に含まれる手当が、B社のSaaSでは「特別手当」として扱われているといった、プロダクトごとの定義の不一致が至るところに存在します。人事業務はルールの分岐が非常に多いため、背景を知らないAIは簡単に誤った回答を導き出してしまいます。
なので、私たちは創業当初から力を注いできた標準データベースを辞書として活用しています。A社のシステムとB社のシステムで定義が異なっていても、私たちの標準モデルへマッピングすることで、すべてを同じ土俵で扱えるようになります。正しい辞書があるからこそ、AIは初めて人事の複雑な文脈を理解し、現場の状況に応じた鋭い示唆を出せるようになります。
——「意思決定を支える頭脳」が実現されると、人事の現場は具体的にどう変わっていくのでしょうか。
一言で言えば、人事の皆様が考える時間を取り戻すことができます。会計の領域と比較すると分かりやすいのですが、会計には法律や標準的な型があり、特に上場企業には財務状況の公開義務もあり、自社の数値を他社や過去と比較することで経営判断を下す土壌がすでに整っています。
しかし、人事領域はデータがバラバラで、かつ非常に機微な情報を扱うため、これまでは客観的な比較が難しく、どうしても担当者の経験や直感に頼らざるを得ない場面が多くありました。
——標準データベースがあることで、その課題がどう解決されるのですか。
企業内やグループ内でのデータ比較が容易に実施できるようになります。見たい切り口で、判断に必要な材料が瞬時に揃う状態です。
人事は本来、もっと戦略的な業務に時間を使いたいはずです。しかし現実は、バラバラなSaaSからデータを吸い上げ、整理するだけの事務作業に追われています。その”土壌づくり”をAIと標準データベースが肩代わりすることで、人事が自律的に、かつ自信を持って次の一手を決めることができるようになります。それが私たちが描く自律化の姿です。
最難関は「迷わないシステム利用」。マルチSaaSの分断をAIエージェントで統合する
——今回のプレスリリースでは3つのテーマを揚げていました。特に実現が難しいと感じているポイントはどこですか。
[参考情報]
パトスロゴスが描くAI戦略の未来像
1.問い合わせ対応の高度化:人事の「思考」を伴走するAI回答(対象:人事部門・従業員)
2. 迷わないシステム利用:AIが最適なHR SaaSを導き、手続きをエスコート(対象:人事部門・従業員)
3. 戦略の自律化:組織課題を解明し、未来を提言するAIエージェント(対象:経営層・人事部門)
「迷わないシステム利用」の実装です。パトスロゴスは複数のSaaSを束ねて提供するモデルですので、ユーザーから見れば体験が分断されやすく、どのシステムで何をすればいいのか迷いやすいという課題があります。
AIを使えば、従業員がどこに何を聞けばいいかという迷いを解消できます。しかし、単にデータを繋げばいいわけではありません。人事データには、給与や評価、マイナンバーなど、立場によって決して踏み越えてはいけないアクセス権限(認可)の境界線があるからです。
——セキュリティとAIの利便性を、どのように両立させているのでしょうか。
誰がどのデータを見てよいかという判断を、AIに任せないと決めています。確率論で動くAIのロジックに権限管理を委ねるのは、企業インフラとしてあまりに危険だからです。
そのため、システム側で厳密にアクセス権限を制御し、AIはその許可された安全な範囲内でのみ動くエージェントとして設計しています。人間が介在すべき承認フローを明確に残しつつ、裏側では複数のシステムを横断してAIが自律的に動く。このガバナンスと利便性の高度な両立が、私たちの開発の本丸であり、挑戦しがいのあるテーマだと考えています。
SaaSのデータ分断という不条理を、標準モデルで論理的に統合。
——パトスロゴスにとって、AI戦略の成功とはどのような状態を指しますか。
我々の成功は、パトスロゴスの標準モデルが業界のデファクトスタンダードとなり、日本の大企業から「非生産的な事務作業」を完全に消滅させることです。
これは単なる改善ではありません。バラバラなSaaSがもたらしたデータの分断という不条理を、我々の「頭脳」が論理的に統合し、秩序をもたらす。それによって、すべての人事が事務作業から解放され、AIの鋭い示唆に基づき経営の意思決定にのみ集中できる環境を、我々のプロダクトが実現したと言えると思います。