興味を引かれる仕事を見つけても、求人票に並ぶ「電気」「通信」「機械」といった言葉を見て「自分の専攻とは違う」と候補から外してしまう。そんな経験はないでしょうか?
しかし、学生時代に学んだ専門領域がその後のキャリアの限界を決めるわけではありません。海洋生物を学び、卒業後は熱帯魚専門店で働いていた小田 啓介さんも、電気や通信の知識をほとんど持たずに株式会社クレストへ入社しました。工場での機器整備から一歩ずつ経験を重ね、現在は全国のダムや河川を巡り、保守点検業務を統括する管理技術者を務めています。
異分野への興味を、どのように新たな専門性へつなげてきたのか。小田さんの歩みから、専攻に縛られずキャリアを広げるためのヒントを探ります。
(この記事の登場人物)
計測器事業所 技術部
小田 啓介
東京農業大学生物産業学部卒業。海洋生物を専門に学び、大学卒業後は熱帯魚専門店に勤務。2019年に株式会社クレストへ入社し、工場での機器整備や現場での保守点検を経験。現在は管理技術者として、顧客対応や工程管理、全国各地の現場の統括などを担っている。
海洋生物への興味が「水質計測を担う仕事」につながるまで
—まずは、小田さんと「水」とのつながりから聞かせてください。
私は大学時代に海洋生物について学び、卒業後はその興味の延長線上で、熱帯魚専門店に勤務していました。熱帯魚の生体管理や接客、販売などを担当し、約3年在籍していましたね。
—好きだった熱帯魚の世界から、別の道へ進もうと思ったのはなぜですか?
仕事自体は楽しかったのですが、長く続けていくことを考えたとき、接客があまり得意ではなかったことや、収入面への不安がありました。それで別の仕事を探すようになったんです。
転職先を探す際には、大学で学んだことをそのまま生かせないとしても、自分が興味を持てる分野には関わりたいと思っていました。つまり生き物や環境、水に関係する仕事ですね。ただ、軸は決まっていても、それに当てはまる求人はなかなか見つかりませんでした。
そうした中でクレストの求人情報を見つけ、ダムや河川で水質を測る機器を扱っている会社だと知りました。水に関わる仕事だったことも、興味を持った理由の一つです。
—ダムや河川で水質を測る仕事は、小田さんが興味を持っていた分野につながっていたんですか?
はい。クレストの仕事は、巡り巡って生態系を守ることにもつながっているんです。
たとえば、クレストが扱う機器の一つに、ダム湖の水質を深さごとに測る昇降式の装置があります。深いダム湖では、水面から湖底まで70メートルほどある場合も。その中を等間隔で測定し、濁りや水温、水中に溶けている酸素の量などを調べます。
ダムを管理する方々は、そうしたデータを見ながら、どの深さの水を下流へ放流するかを判断します。水質を考えずに放流すると、下流に暮らす生き物や農作物へ影響を与える可能性があるからです。
もちろん、クレストの機器だけで何かを決めているわけではありません。それでも、適切な判断に必要なデータを提供することで、水質や生態系を守る仕事の一部を担えていると感じます。
—大学で学んだことと、今の仕事にもつながりを感じますか?
大学で学んだ内容が、そのまま今の仕事に生きているわけではありません。でも、入社後に新しいことを学んでいると、それらの技術が使われる先には、水や環境など、もともと自分が興味を持っていた分野があります。
学ぶ内容は大学時代とは違っても、興味の方向はつながっている。そういう意味では、専門は違っても今の仕事につながっているのかなと思います。
一台ずつ機器を理解し、水質計以外にも仕事を広げる
—異なる分野から入社して、最初に向き合ったのはどんな仕事でしたか?
最初に担当したのは、工場での機器整備です。現場で使われている機器は、年に一度のペースで工場へ戻ってきます。それを洗浄し、定期交換が必要な部品を取り替えたり、異常がないか検査したりしていました。
上司からは、機器のどこを見るべきか、どのように確認するのかを一つずつ教えてもらいました。ひと通りできるようになるまで、自分の場合は4〜5年ほどかかったと思います。
—工場で機器を整備する仕事から、どのようにして現場へ出るようになったのでしょうか?
入社して間もない頃から、先輩に同行して現地での点検を手伝う機会もありました。年度末のように新しい機器の製作が重なる時期には、社員総出で作業することもあるんです。一つの仕事だけを覚えるのではなく、状況に応じて別の業務にも関わりながら、できることを増やしていきました。
初期の出張で印象に残っているのは、山形県内のダムです。そこでは、クレスト製ではない機器の点検も経験しました。
—クレストでは、自社の水質計だけを覚えればよいわけではないんですね。
はい。自社製品だけでなく、現場に設置されたさまざまなメーカーの機器を扱います。対象も水質計だけではありません。気象観測装置や地震観測装置など、ダムや河川の管理に必要な機器の定期点検を担っています。
珍しいところでは、港のガスターミナルで波の高さを測る装置を扱ったこともありますよ。タンカーなどの船が安全に着岸できるかを判断するための装置です。ダムや河川に比べれば多くはありませんが、このように海に関わる現場もあります。
入社前には、ここまで幅広い機器に触れるとは思っていませんでした。目の前の機器を整備しながら仕組みを理解し、現場へ出て使われ方を知る。その積み重ねによって、仕事の幅が広がっていきました。
機器を直すだけでなく、現場全体を動かす役割へ
—現在の小田さんは、保守点検の現場でどこまでの役割を担っているのでしょうか?
現在は、主に保守点検業務の管理技術者を務めています。管理技術者は、受注した業務全体を取りまとめる立場です。お客さまとのやり取りや作業工程の管理、協力会社や一緒に働くメンバーとの調整を行い、現場では作業が適切に進んでいるかを確認します。保守点検業務の現場監督、あるいは総責任者に近い役割ですね。
—機器に詳しいだけでは務まらない仕事だと思います。現場で苦労するのは、どんな場面ですか?
お客さまは国や自治体などの官公庁が中心です。仕事は「共通仕様書」や「特記仕様書」といった書類に基づいて進めるため、まずはその内容を正確に読み込まなければいけません。専門用語だけでなく、官公庁の仕事で使われる独特の言葉や表現もあります。
さらに、お客さまとの会話では、発言の背景や意図をくみ取ることも求められます。もともと私は話すことがあまり得意ではないので、今も難しさを感じる部分ですね。ただ、書類を読み込み、工事や保守の経験を重ねることで、言葉の意味や次に必要な対応がわかるようになってきました。
—全国のダムや河川へ出張する機会も多いんですか?
はい。この仕事では、北海道から九州まで、全国各地のダムや河川へ行きます。遠方への泊まりの出張は、月に1〜2回ほど。近隣県への日帰り出張は、それとは別に月2〜3回ほどあります。
自然の中で行う仕事なので、天候や水位など、周囲の状況を確認することが欠かせません。事前に天気を確認し、お客さまとも相談したうえで、作業できるかどうかを判断します。機器だけを見ていればよいわけではなく、その場の状況に応じて考え、行動する必要があります。
—現場ならではの大変さがあるんですね。一方で、出張を楽しみにしている部分もあるんでしょうか?
そうですね。全国各地へ足を運べるのは、この仕事の楽しさでもあります。最近は鹿児島へ出張し、現地で珍しい魚の刺身を味わいました。日程が週末につながり、仕事が予定どおりに終われば、そのまま現地で過ごすこともあります。
普段はデスクワークも多いため、月に1〜2回、自然の中へ足を運ぶことは良い気分転換になっていますね。観光では簡単に行けないような場所へ入り、その土地の自然や食に触れられるのは、この仕事ならではの面白さだと思っています。
学び続け、クレストの業務全体をカバーできる技術者へ
—仕事のやりがいについても聞かせてください。「自分たちの計測機器が水環境を支えている」と実感する瞬間はありますか?
ダムの管理所で作業していると、その年の水質や藻類の状況などについて、管理する方々が話し合っている場面があります。それを聞いていると、自分たちが点検している機器や、そこから得られるデータが役に立っているのだと感じます。
すぐに目に見える成果が出る仕事ではありませんが、水環境を長期的に支える一部になっているという意識はありますね。
—管理技術者として経験を積んだ今、次に目指していることは何ですか?
保守だけでなく、工事や機器の製作にも関わりたいと思っています。官公庁の案件に必要な書類や入札に関する知識も身につけたいですね。電気や通信、機器の設計についても、もっと深く理解できるようになりたいです。
クレストでは、特定の業務だけを担当し続けるというより、さまざまな業務を幅広く学んでいくことが求められています。私自身も、最終的にはクレストの業務を一通りカバーできるようになることを目指しています。
会社には資格取得を支援する制度があり、私も業務に必要な資格や二級小型船舶操縦士免許を取得しました。今では後輩へ教える機会もありますが、自分自身もまだ勉強している途中です。わからないことがあれば上司や社長へ相談できますし、いつでも話を聞いてもらえる距離の近さにも助けられています。
—小田さんは今後、どんな人と一緒に働きたいですか?
クレストの仕事はとても幅が広いので、いろいろなことに興味を持てる人と一緒に働きたいです。仕事の中で気になるものを見つけ、そこから積極的に知識を吸収していける人が向いていると思います。
私は現在の仕事とはまったく違う分野の出身で、未経験からのスタートでしたが、入社後に一つひとつ学び、管理技術者を任されるまでになりました。今まで勉強してきた分野とは違う領域でも、興味を持って学んでいけば、できることは少しずつ増えていくはず。そうやって、自分の仕事の幅を広げていける方に来てもらえたらうれしいです。