全体から見れば約0.3%にあたる、168件の返金・イレギュラー対応。設備不備や、運営だけでは防ぎようのないトラブルも含まれており、すべてがお客様の不満や清掃問題だったわけではありません。それでも、一件ずつ読み直すと、次の宿泊体験をより良くするための学びがありました。
こんにちは。
日本一ワクワクする会社、インバウンドホールディングスの山崎です。
今日は、清掃を単なる作業ではなく、宿泊体験と事業をつくる仕事として考える話をします。
ホテルや民泊の仕事と聞いて、清掃を思い浮かべる人は多いと思います。
部屋をきれいにする。ベッドを整える。アメニティを補充する。もちろん、どれも大切です。
でも私たちは、清掃を「予約と予約の間に行う作業」だけだとは考えていません。
ゲストが扉を開けた瞬間、最初に感じる安心。写真で見た期待が、現実になったと確信する時間。旅の疲れをほどき、明日を楽しみにできる空間。その入口をつくるのが清掃です。
逆に、髪の毛が一本残っている、においが気になる、設備が動かない。たった一つの違和感で、その後にどれだけ丁寧な対応をしても、宿泊体験全体が「残念だった」に変わることがあります。
だからこそ、感覚だけで「もっと丁寧に」と言うのではなく、実際に起きた声を事業のデータとして見直しました。
168件を、一件ずつ分類した
社内資料では、2024年5月23日から2025年10月6日までに発生した、全体の約0.3%にあたる返金・イレギュラー対応168件を振り返っています。設備不備や、運営側だけでは防ぎようのないトラブルも含まれるため、168件すべてを「不満」や「清掃問題」と捉えるものではありません。
このうち、ゲスト側の認識違いなどに分類された29件を除くと、運営側で改善可能性を考える対象は139件。その中の81件、約58%が清掃または施設に関係する内容でした。
内訳は、清掃・におい24件、設備故障44件、アメニティや施設関連9件、害虫4件です。
この数字を見たとき、「清掃スタッフにもっと気をつけてもらおう」だけで終わらせてはいけないと思いました。
設備故障を清掃時に発見できる仕組みはあったか。報告された問題が、修繕担当へ確実につながっていたか。写真だけで確認できる項目と、においや作動確認のように現場でしか分からない項目を分けていたか。部屋ごとの癖や過去の不具合が共有されていたか。
81件は、誰か一人を責めるための数字ではありません。ゲストの期待を守るために、チームが改善できる場所を示す地図です。
クレーム対応ではなく、体験設計の仕事
問題が起きた後、早く謝り、返金や代替案を提示することは必要です。しかし、本当に価値があるのは、同じ残念を次のゲストに繰り返さないことです。
たとえば、においの指摘が起きたとします。
その場では消臭や部屋変更を行う。次に、原因が水回り、空調、排水、清掃用品、換気のどこにあるかを調べる。施設固有の問題なら設備改善へつなぎ、作業工程ならチェック方法を変える。再発していないか、次の宿泊後の声を確認する。
一件の対応を、原因分析、改善、検証まで進めて初めて、運営品質が上がります。
この仕事では、ゲスト対応、清掃、設備、施設責任者、オーナーとの報告が分断されていてはいけません。現場の小さな違和感を拾い、必要な人へ早く渡し、施設全体の体験へ反映する。清掃品質を起点に、オペレーション全体を設計する仕事です。
「期待、安心、快適、感動、伝説」の階段
社内では、ゲスト体験を五つの段階で考えています。
まず、写真や説明を見て生まれる「期待」。次に、部屋へ入った瞬間の「安心」。滞在中に不便なく過ごせる「快適」。想像していなかった気づかいや地域との出会いによる「感動」。そして、帰国後も誰かへ話したくなる「伝説」です。
清掃は、安心と快適を守る土台です。土台が崩れれば、感動を届ける前に体験が終わります。
一方、清掃はマイナスをゼロへ戻すだけの仕事でもありません。
季節や宿泊目的に合った準備、子ども連れへの配慮、長期滞在者が使いやすい収納、迷わない案内。現場を最もよく知る人の気づきが、ゼロからプラスを生みます。
部屋を整える人は、ゲストから遠い裏方ではありません。誰より先にゲストの目線で空間を確認する、最初の体験設計者です。
現場の気づきを、発言できる組織にしたい
清掃の仕事で起きやすい問題の一つは、現場で気づいた人に決定権がないことです。
「この設備はそろそろ壊れそう」「この案内では海外ゲストが迷う」「この家具の配置は清掃しづらく、忘れ物も起きやすい」。そう感じても、決められた作業だけを終え、報告が埋もれてしまう。
私たちがつくりたいのは、現場から改善が始まる組織です。
気づきを写真や記録で残す。緊急度を分ける。誰がいつ判断するかを決める。改善後に結果を確認する。よい方法は他の施設へ展開する。
声の大きい人の意見ではなく、ゲストの声、現場の事実、発生件数をもとに優先順位を決めます。
入社年次に関係なく、「このままだと次のゲストも困る」と根拠を持って言える人には、改善の中心へ入ってほしいと思っています。
清掃から、どんなキャリアが生まれるか
清掃品質を深く学ぶと、仕事の選択肢は広がります。
一つは、複数施設の品質を守るスーパーバイザー。施設ごとの課題を分析し、基準、研修、監査をつくります。
二つ目は、新規施設の立ち上げ。清掃しやすく、壊れにくく、ゲストが使いやすい空間を開業前から設計します。
三つ目は、ゲスト体験の改善。レビューや問い合わせを分析し、施設案内やアメニティ、滞在導線を変えます。
四つ目は、業務改善やAI活用。写真確認、報告、発注、異常検知など、繰り返し作業を仕組みにし、人は判断と気づきへ集中します。
五つ目は、施設やホテル全体の責任者。品質、コスト、人員、レビュー、収益をつなげて判断します。
清掃を入口に、品質管理、プロジェクト管理、教育、経営まで学べる。必要なのは、作業を速く終えるだけでなく、なぜこの工程が必要かを考える姿勢です。
数字と声を、両方見る
品質改善で、クレーム件数だけを追うと危険です。件数が減っても、単に報告されなくなった可能性があります。返金額だけを下げようとすれば、ゲストへの誠実な対応を損なうかもしれません。
見るべきなのは、発生件数、再発率、対応時間、レビュー、現場の負担、修繕までの時間、そしてゲストの具体的な声です。
数字で傾向を見つけ、声で背景を理解する。現場で仮説を確かめ、仕組みへ戻す。この往復ができる人は、宿泊業に限らず、あらゆるサービス事業で価値を出せます。
また、数字は人を詰めるためではなく、支援が必要な場所を見つけるために使います。同じ問題が続くなら、本人の注意力だけでなく、時間配分、教育、道具、情報共有の構造を見直します。
こんな人と、次の感動をつくりたい
小さな違和感を「自分の担当ではない」で流せない人。
目の前の問題を解決したあと、「なぜ起きたのか」「次はどう防ぐか」まで考えたい人。
表に立つ仕事だけでなく、誰かの旅を支える仕事に誇りを持てる人。
そして、現場の経験を、仲間が使える仕組みへ変えたい人。
私たちは、最初から完璧なホテル経験者だけを探しているわけではありません。ゲストの立場で考え、事実を共有し、改善を続けられる人と働きたい。
168件のすべてが「残念でした」という声だったわけではありません。それでも、その中にあった残念な体験から目をそらさず、次の宿泊者へより良い時間を届けるための教材にする。それが私たちの姿勢です。
清掃をコストや作業としてではなく、ブランド、売上、仲間の成長をつくる事業として考える。その挑戦に、現場から参加してくれる人を待っています。
この仕事の一日は、現場と数字を行き来する
朝、前日の報告とゲストの声を確認する。緊急度の高い設備問題があれば、次のチェックインまでに誰が何を行うかを決める。清掃が終わった施設の写真を見るだけでなく、必要に応じて現地へ行き、におい、動作、導線を自分の目で確かめる。
午後は、清掃パートナーや施設担当と、繰り返し起きている問題を振り返る。個人のミスとして終わらせず、時間設定、道具、情報、手順に無理がないかを確認する。改善案を決めたら、一部の施設で試し、翌週の件数や現場負担を見る。
ゲストと直接会わない日でも、判断の先には次の宿泊者がいます。数字だけを見て現場を知らない状態にも、現場の感覚だけで全体傾向を見失う状態にもならない。両方を往復するのが品質をつくる仕事です。
パートナーを、指示する相手ではなく仲間と考える
多くの施設は、社内メンバーだけでは運営できません。清掃、リネン、修繕、設備など、外部パートナーの力を借ります。
発注側だからと一方的に要求するのではなく、なぜこの品質が必要かを共有し、現場で実行可能な方法を一緒に考える。無理な時間や曖昧な指示を放置したまま、結果だけを責めない。よい仕事へは感謝と具体的な評価を伝える。
パートナーの声には、社内から見えない改善の種があります。その知恵を尊重しながら、守る基準は曖昧にしない。関係性と品質の両方をつくれる人は、施設数が増えたときに欠かせない責任者になります。