「地域からハッピーシナリオを共に」をスローガンに、全国各地で地域に根ざした事業づくりに取り組むNEWLOCAL。
連載「Making NEWLOCAL」は、NEWLOCALが地域と共に仕掛ける事業やプロジェクトに焦点をあて、その軌跡や未来への展望を描き出していくシリーズです。
今回話を聞いたのは、秋田県男鹿市でまちづくりを推進する、株式会社男鹿まち企画の二人。事業責任者の森勇貴さんと、事業推進者の二村汐音さん。
彼らはこのわずか1年の間に、ホテルの開業から公共インフラの再定義、さらには元鉄工所を再生した食の拠点づくりまで、驚異的なスピードで男鹿の景色を塗り替えてきました。かつての「通過するまち」というイメージを脱ぎ捨て、「滞在する目的地」へと鮮やかに進化を遂げようとする「男鹿の今」と、二人が見据える「男鹿の未来」に迫ります。
森 勇貴
早稲田大学卒業後、マンションディベロッパーに入社し、営業・商品企画を担当。株式会社ツクルバでは、新規事業の立ち上げ、事業管理、同業・異業問わず業務提携などを通して上場も経験。VUILD株式会社では建設業の職人不足という社会課題解決アプローチに向けた新規事業立ち上げを行い、グッドデザイン賞受賞。2021年に東京から栃木県那須塩原に家族で移住。自ら手の届く範囲から地域の盛り上げを創造するために、移住検討者向けの宿泊施設を運営。空き家改修にも着手している。2025年NEWLOCALに参画、男鹿の事業責任者を担当。
二村 汐音
愛知県出身。関西学院大学卒。在学中にハンバーガーショップを学生起業し、卒業後はトロントでの留学を経験。都市と海外での暮らしを通じて、地域にこそこれからの日本の可能性があると確信。新卒でNEWLOCALに入社し、現在は秋田の男鹿にて豊かな自然と文化を生かした事業づくりに邁進中。将来の目標は、地方・都市・海外を行き来する三拠点生活。
目次
- 通過するまちを「歩きたくなるまち」へ
- 人口減少を「しょうがない」で終わらせない。行政と民間の垣根を越えた挑戦
- かつての鉄工所を、まちのハブへ。秋田弁「かだる」に込めた交流の風景
- パイの取り合いをしない「市場の拡張」
通過するまちを「歩きたくなるまち」へ

港湾労働者の寄宿舎をリノベーションして生まれた「かぜまちみなと」
男鹿駅前に、男鹿まち企画が手がける宿泊施設「かぜまちみなと」が開業して、2026年6月でちょうど1年が経ちます。ホテルの開業を手がけた森さんと二村さんは、男鹿のまちに少しずつ賑わいが生まれているのを感じます。
「正直、まだまだこれからだと思っています。ホテルや飲食店が一つできただけでまちが変わるほど、簡単なことではないので。ただ、僕たちがホテルを始めたことで男鹿に来ることを決めたという人に何人も会えましたし、地元の学生など、アルバイトの方々が僕たちと一緒に働いてくれることに喜びを感じてくれて。数字的なインパクトはまだこれからですが、“変化の兆し”は感じています」(二村さん)

各所にさまざまな表情のなまはげが隠れている
男鹿が抱える大きな課題の一つに、「通過型観光」という構造があります。男鹿を訪れる人の約6〜7割が東北地方や秋田県内から。その多くが日帰りでの滞在のため、夜の食事や宿泊、それに伴う消費がまちに落ちにくい状況にあります。
この構造を打破し、男鹿駅周辺を「目的地」として機能させるべく、男鹿まち企画は、男鹿市により受託した「なまはげ文化魅力発信業務」の全ての施策を完了させました。このプロジェクトは、旧男鹿駅前に立つ2体のなまはげ像をまちのシンボルとしての存在感を高めるためフルカラーで再塗装したり、観光客が自然に商店まちへと導かれるよう「なまはげさんぽみち」コースを設定するなど、さまざまな「仕掛け」で構成されています。

学生の視点を取り入れたシャッターアート
さらに、商店街の空き店舗のシャッターや営業中の壁面には、なまはげをモチーフとした「シャッターアート」を制作。これは秋田県内の学生との協働によって進められ、若者の視点を取り入れたクリエイティブな景観を生み出しています。このプロジェクトを通し、森さんはある使命を感じたと言います。
「実は、秋田で在住の学生でも、なまはげを『怖い鬼』だと思っていた子が多かったんです。本来は家族の無病息災や五穀豊穣を願う『年神様』なのですが、その正しい解釈を知らなかった。男鹿を訪れる人の多くもそれを知らないと思うので、“正しく伝える”ことに価値があるし、そこを意識してやってきた事業でした」(森さん)
回遊の相棒として制作された「なまはげさんぽみちマップ」には、こうした文化的な背景の解説が添えられており、まちを歩きながら男鹿の文化に触れられる工夫が施されています。
人口減少を「しょうがない」で終わらせない。行政と民間の垣根を越えた挑戦
男鹿まち企画の挑戦は、駅周辺の賑わいづくりだけではありません。男鹿市の未来をつくる公共プロジェクト「男鹿市複合交流施設基本構想」にも参画しています。
現在の男鹿市が直面しているのは、深刻な人口減少と少子高齢化です。1955年に約6万人だった人口は2026年には約2万3千人を下回るほどまで減少。特に未就学児の減少率は著しく、令和2年から6年までの間に約3割も減少しています。既存の図書館は築48年が経過して老朽化が進み、2階に位置しながらエレベーターがないというバリアフリーの課題も抱えています。
このプロジェクトでは、「未来を担う世代を育む、地域の多様な暮らしが重なり合う拠点」をコンセプトに、静かに読書を楽しみたい高齢者と、元気に遊びまわりたい子供たちが、同じ空間で緩やかに共存する場をつくることを目指しています。

左から二村 汐音、 森 勇貴
「かつて栄えたまちが衰退し、放っておくとなくなってしまう。こういった現実が、全国の地域で起きています。それをしょうがないと諦めるのではなく、男鹿にある資源を活かし、『面白がって変えていこうぜ』と言えばまちは変わるんだということを示したいんです。今、男鹿市は『子育てしやすいまち』を目指し、行政も民間も一丸となって実現しようとしています。そのプロセスを通じて、『自分たちが欲しいものは、自分たちでちゃんと作っていけるんだ』という成功体験の場所にしたい。自分の欲しい未来は自分で作る、というアントレプレナーシップ(起業家精神)を、次世代を担う子どもたちに手渡せたら、それは最高にいい世界だなと思います」(森さん)
「この春に大学を卒業して上京した子から、『男鹿まち企画での仕事が面白すぎました』と連絡が来たんです。『東京で数年修行したら、また帰っておいで』と言っています。アルバイトの皆さんも、20歳から70歳くらいまで幅広くいらっしゃいますが、最近は『何かやってみたい』と言ってくれるようになって。チャレンジャーを増やしたいと言っている以上、それをできる限り形にしたいなと思っています」(二村さん)
かつての鉄工所を、まちのハブへ。秋田弁「かだる」に込めた交流の風景

「おいしいファクトリーCADAR(カダール)」
2026年4月末、男鹿に新たな食の拠点が誕生しました。かつてまちの産業を支えた「進藤鉄工所」の跡地をリノベーションした複合施設『おいしいファクトリーCADAR(カダール)』です。
「カダール」という名称は、秋田弁で「仲間になる」を意味する言葉から取られました。この施設には、地域の人々と観光客が自然に混ざり合い、いつの間にか仲間になってしまうような風景をつくりたいという願いが込められています。かつて鉄を叩く音が響いた場所は、今、人々の語らいが響くまちのハブへと生まれ変わろうとしているのです。
その一旦を担うのが、男鹿市船川エリア初のピザ専門店「PZ(ピーゼット)」です。なぜ、いま男鹿にピザなのか?それは、男鹿に「仲間と集まって、シェアして、持ち帰れる食」の選択肢を増やしたかったから。世代を超えて会話や思い出を生み出すピザを、男鹿の新しい文化として根付かせたいと考えています。

ピザを囲むと、自然と会話と笑顔が生まれる
PZを監修するのは、東京・神楽坂や虎ノ門で予約の取れない名店として知られる「CRAZYPIZZA」のオーナーシェフ・平雅一氏。同店で修行を積んだ菊名和樹氏がシェフに就任し、看板メニューのマルゲリータに加え、男鹿産の紅ズワイガニを贅沢に使用したシーフードピザなど、地元の豊かさを凝縮した一枚を提供しています。CADARでは今後、飲食に留まらない「地域資源循環」の提案も行っていきます。
「今後は、飲食の他にも物販も扱う予定です。“おいしい”を軸に、それを支える器だったりカトラリーだったり。ロスフードやロスウッドを使った、“地域の資源を循環させる”プロダクトも増やしたいと思っています。単に物を売るのではなく、まちのみんなにとって、自分たちの存在がどうあるべきかを考えて、この場所をつくっていきたいですね。自分たちが総取りするのではなく、隣近所のお店にも足を運んでもらえるような町並みを作っていきたいです」(森さん)
パイの取り合いをしない「市場の拡張」

目的地となるまちを目指して
「男鹿まち企画」という会社は、NEWLOCALと、地元のリーダーである「稲とアガベ」がタッグを組んで設立されました。この体制こそが、スピード感のあるまちづくりを支えています。
「秋田県は日本の中でも、特に少子高齢化が非常に進んでいて、季節変動性も高い。普通に考えるとマーケットとしてめちゃくちゃ難しい場所です。そこでホテルや飲食をやる。もしこれを成り立たせることができたら『面白いことしてるな、自分』って思うんじゃないかな。ただ、それが成功したとしても、自分たちだけが良ければいいわけでもない。市場規模が100あったとして、そのパイを取り合うゲームをしちゃいけない。この100を、どうやって300、500に広げていくか。それが僕らのテーマであり、一番難しいところです。究極、駅前にチェーンのカフェや大型スーパーがあったらみんな来るんですよ。じゃあそれを呼び込めばいいのかって言うとそれは違うと思っていて。資本が男鹿の外に流れるのではなく、男鹿の中で資本を循環させつつ、さらに新しく事業を始めたい人も入ってこれるフィールドを作りたいんです」(森さん)

会いたい「誰か」がいる。それが男鹿の魅力のひとつ
東京から男鹿へ移住して約1年。すべてが思い通りに進まないまちづくりという挑戦の中で、「仕事」としてまちに関わるのではなく、自分自身の人生がまちの営みそのものと結びついていくようになりました。
「僕はどうせ生きていくなら、できる限り心を燃やし続けていたいと思っていて。自分の心が震える瞬間って、難しいものが目の前に立ちはだかった時だと思うんですね。今の男鹿は簡単なことが一つもなくて、全てが思い通りにいかない。でも、必死に悩んで、ひたすら取り組んでっていう瞬間に意味があるし、楽しい。そんな感覚で働いてます。“NEWLOCALらしさ”だと思うんですが、仕事と人生がいい意味で分かれていない今の生き方が、すごくフィットしています。
僕は生まれてから、引っ越しが多い人生だったんです。まだ男鹿に住んで1年ほどですが、これまで住んだ地域の中でも圧倒的に男鹿のことを知ってると言える。自分の人生で、そういう場所に出会えたことはすごく嬉しいですね。男鹿にいる今、全部を男鹿に捧げたいと思っています。
これから男鹿を訪れる人にも、観光からもう一歩踏み込んで、“まちにダイブ”してもらうような体験をしてもらえるといいなと思います。そのためのサービスをこれからも作っていきたいです」(二村さん)
なまはげが導くさんぽみちを歩き、焼きたてのピザを囲んで誰かと語らう。変化の真っ只中にある男鹿のまちに深く「ダイブ」して、新しい仲間と一緒に「カダール(仲間になる)」してみては。

男鹿のまちに「ダイブ」して