Ragateには、顧客に届ける前にまず自社で使う、という順序があります。2015年のサーバーレスも、2023年の生成AIも、同じ順序でした。2025年からのAIエージェントとMCPについても、同じことが起きています。
ここでは、社内で実際に何を入れて、何に苦戦し、いま何が動いているかを記録として並べます。
Cursorを、全社に強制導入した
最初の一手はCursorでした。代表の益子竜与志は2026年3月6日のブログで、これを「強制的な全社展開」と書いています。希望者に配るのではなく、全員に入れる、という決め方です。
報告されている成果は4つ。大幅な原価削減、社員モチベーションの向上、離職率の低下、顧客満足度の向上。そして、経験の浅いメンバーでも高品質なアウトプットを出せるようになった、としています。
背景にあるのは、ベンチャー企業の競争力についての考え方です。AIが定型業務を代替することで、経営体力を確保できる。浮いた体力を、人にしかできない部分に回す。この構図が、以降のすべての判断の土台になっています。
CRM/SFA/MAツールを解約して、AIに専用機を買った
次がOpenClawです。オーストリアの開発者Peter Steinbergerが2025年11月に公開したオープンソースのAIエージェントプラットフォームで、2026年1月末時点でGitHubスターは24万を超えています。SlackやAsana、Google Workspace、microCMSといった業務サービスをMCP(Model Context Protocol)で繋ぎ、AIに仕事を任せられる仕組みです。
Ragateは2026年3月、これを社内に導入しました。益子は同月25日のブログに「OpenClawを正社員採用してみた」というタイトルをつけています。ツールの導入ではなく、チームメンバーとして迎え入れる覚悟で入れた、という説明です。
導入の進め方が、この会社らしいところでした。まずCRM/SFA/MAツール群を解約しています。年間約150万円。会社の規模と使い方では持て余していた部分があり、そのコストを丸ごとAIの設備投資に充てました。具体的には、OpenClaw専用機としてMac miniを新調しています。
本人はこれを「AIに専用のデスクと椅子を用意する」感覚だと書いています。片手間で使うのではなく、専用の環境を渡して、ここで働いてくれと伝える。
苦戦の記録も、そのまま公開している
セットアップは2026年3月23日から始まりました。Mac miniにOpenClawをインストールし、各種MCPを繋ぎ、Slackと連携させる。
特に苦戦したのがローカルLLMとの統合です。最初はMLXを試したものの、サーバー機能が不十分で、ストリーミング周りのトラブルが続きました。Ollamaに切り替え、日本語に強いDeepSeek-R1-Distill-Qwen-14Bを採用しましたが、14Bだとメモリのスワップが頻発して動作がもたつく。RAMの節約が命という状態で、モデルサイズを調整しながら、なんとか安定稼働にこぎつけています。
この過程で得た結論が、記事の中心にあります。AIにノールックで実装させると、変な方向に曲がる。9割以上は自動でやってくれるが、残りの1割は自分でアーキテクチャを理解したうえで意思決定しないといけない。つまり、AIを使いこなすには結局のところ自分の技術理解が必要になる、と。
こうしたセットアップの全記録と苦戦ログは、エンジニアブログの「本気でOpenClawを社内実用化してみた ― セットアップの全記録と正直な苦戦ログ」で公開されています。うまくいった話だけを出す、という運用にはなっていません。
誰も強制していないのに、メンバーが使い始めた
導入から数日後のことが、ブログに書かれています。
特に強制もしていないのに、メンバーが自発的にOpenClawを使い始めていた。Slackでメンションを飛ばして質問したり、タスクの整理を頼んだり。「ロブスターがいい感じに育ってきたぞ」とSlackに書いたときの気持ちは、ちょっとした親心に近かった、と益子は書いています。OpenClawのマスコットはロブスターです。
2026年9月時点で、社内では58体のエージェントが動いています。「個人時間」「プロジェクト」「外部連携」の3カテゴリに分けて運用されています。
社内で確かめたものを、製品にする
社内での実用化は、そのまま事業になりました。
Ragateは自社での運用をもとにOpenClawを製品化し、専用サイト openclaw.ragate.co.jp を公開しています。タグラインは「いつもの業務が、『AIとの共同作業』に変わる。」。これがOpenclaw AXです。
関連する検証記事も継続的に出ています。「Openclawを使い倒す上級者のための設定ガイド ― openclaw.jsonからCursor活用まで」「OpenClaw × Claude Code on Amazon Bedrock でマルチエージェント開発チームを組んでみた」「OpenClawのスキル機能で社内業務を自動化してみた」。
社内で使う、記録を公開する、製品にする。この順序が固定されています。
書籍とパートナーシップ
同じ時期に、外向きの動きも進んでいます。
2026年3月19日、『AI駆動で進める「小さく確実な」クラウドネイティブ移行』を技術評論社から出版しました。A5判512ページです。同年8月26日には『MCPの教科書[上巻]』『MCPの教科書[下巻]』を同じく技術評論社から同時出版しています。社内でMCPを繋ぎ込んだ経験が、そのまま書籍になった形です。
2026年6月5日には、AnthropicのClaude Partner Networkに加盟しました。
Ragateは、ブログの執筆や書籍の執筆・出版といった社内外への発信を、自ら手を挙げる行動として評価の対象に含めています。書籍が出てくる流れは、この評価の考え方と地続きです。
事業ドメインそのものが動いている
2026年、Ragateは自社を「AI・クラウドネイティブのプロフェッショナル集団」と定義し直しました。サイトのタグラインは「DX・モダナイズ・AXを対話とAIで一気通貫」です。
提供するサービスも組み替わっています。AX(AI Transformation)戦略の策定・伴走支援、AI駆動型クラウドマイグレーション支援(AWS FTR認定)、AIバイブコーディング/AIバイブデザインによるMVP開発・UI/UX開発支援(AWS FTR認定)、定額制テクノロジーアドバイザリー(AWS FTR認定、2026年6月24日)。
創業期のサーバーレス開発、2024年からの生成AI内製化支援を経て、いまはここに立っています。
変わっていないのは順序のほうです。新しい技術が出てきたら、まず自分たちの業務で使う。うまくいかなかった部分も含めて記録を公開する。型になったものを顧客に届ける。Cursorの全社導入も、Mac miniの上で動くロブスターも、その順序の上にあります。