こんにちは、unname代表取締役の宮脇啓輔です。
退職や異動のシーズンになると、社内で「寄せ書き」や「メールでのご挨拶」が回ってくることがあります。 そこには、判で押したような定型文がズラリと並びます。
「新天地でのご活躍をお祈りしております」
「今までお世話になりました。ありがとうございました」
「○○さんのおかげで、成長することができました」
これを見て、あなたはどう思いますか?
まぁ寄せ書きや退職ご挨拶の連絡なんてそんなものだろう、と思う人もいるかと思います。しかし私は、「自分の言葉に対する責任感が欠如しているのではないか」と思っています。もちろん関係が薄くて本当に書くことがない間柄の人もいるとは思いますが、言葉を捻り出す機会から逃げているのです。
目次
メッセージを「タスク」として処理するな
キャプテンから定型文を拝受した少年野球
打席数は、人生後半では挽回不可能
書かなくてもOK、書くならひねり出せ
メッセージを「タスク」として処理するな
定型文を書く人にとって、メッセージを書く行為は単なる「タスク」です。
「回ってきたから書く」「空欄を埋める」「早く次の人に回す」というタスクなのです。
もしかすると彼らは、このタスクを最速で処理したことに、ある種の達成感すら覚えているかもしれません。しかし、これは目の前のタスクを素早く処理をしたという「短期合理」ではありますが、実は長期的な損失を生んでいる、つまり「長期不合理」なのです。
目の前の時間は短縮されるが、人生単位で言葉のセンスが磨かれることはない
言葉というのは、口から出てくるものではなく自分の内臓からひねり出すものです。
相手との関係性を振り返り、「何を伝えれば相手の心が動くか」悩み、これまで見聞きした言葉から選び抜く。この「ひねり出す」というプロセスこそが、あなたの語彙力を鍛え、人を動かす力を養う日常的なトレーニングなのです。語彙力とは言葉をたくさん知っていることではなく、いい言葉を吐き出せることだということを覚えておいてください。
キャプテンから定型文を拝受した少年野球
ここで少し昔話をします。
私が小学6年生の頃、少年野球チームの引退の時にみんなで寄せ書きを書き合うという、いわゆる送別会的なものがありました。その時に、一人だけめちゃくちゃ寄せ書きを高速で書く人がいたのです。それは大人ウケが良く、優等生タイプのキャプテンでした。彼のメッセージを覗いた時、そこに書かれていた言葉を私は今でも鮮明に覚えています。
「いつもファーストを守ってくれてありがとう」
とんでもなく定型文!
私は小学生ながら愕然としました。なぜなら、隣のレフトの子には「いつもレフトを守ってくれてありがとう」、ショートの子には「いつもショートを守ってくれてありがとう」と書かれていたのです。彼は、キャプテンという立場でありながら、まさかの「定型文」でチームメイトへの最後のメッセージを処理していたのです。
ただ、私自身の美学的に、「定型文を書いて処理スピードを高めよう」とは思わなかったのです。時間がかかっても言葉を捻り出し、意味のある寄せ書きを書きたいと思いました。これはどちらが良いか悪いかという話ではなく、美学や信念の違いによるものです。
おそらくキャプテンの彼には、悪気はなかったのでしょう。しかし、受け手である私の心には、「自分はその他大勢の一人として処理された」という虚しさが残りました。 定型文は、書く側の思考を停止させるだけでなく、受け手の感情まですり減らしてしまうことがあるのだと、小学生ながら感じたのです。
打席数は、人生後半では挽回不可能
毎回小さな機会で、脳に汗をかいて言葉をひねり出してきた人と、定型文でお茶を濁し続けてきた人とで、10代や20代前半くらいまでは語彙力に大差はないでしょう。 しかし30代、40代と年齢を重ねた時、両者の間には「人を動かす言葉の重み」において、大きな差が生まれているのです。
言葉を選ぶ機会で向き合ってきた人と、楽に逃げた人とでは、人生単位で考えると数万回の打席数の差が生じているのです。これに40~50代で気づいてももはや挽回は不可能です。
毎回考え、言葉を捻り出してきた人が、大人になって人を惹きつける言葉を発するのです。
思考の累積量は、複利で効いてきます。 たかが寄せ書き、たかがメールの返信かもしれません。しかし、そこで「借り物の言葉」を使わず、自分の言葉を紡ごうと足掻くこと。その積み重ねだけが、あなたの「頭の回転の速さ」「説得力」「人の心を動かす」ことの土台となります。
書かなくてもOK、書くならひねり出せ
もちろん、どうしても言葉が出てこない相手もいるでしょう。 その場合は、いっそ「書かない」という選択もまた、合理的な判断です。中途半端な定型文を送るくらいなら、何も送らない方がマシです。
しかし、「この人には伝えたい」と思う相手ならば、絶対に定型文に逃げないでください。 上手な言葉でなくても構いません。借り物の「ご活躍をお祈りしております」ではなく、あなただけの言葉を絞り出す。 その泥臭いプロセスをサボらないことこそが、あなたの「言葉の資産」を増やす回り道のような最短の道なのです。
繰り返しになりますが、語彙力は言葉を知っていることではなく、いい言葉を吐き出せることであると念頭に置いておいてください。