こんにちは、株式会社EMOLVAの榊󠄀原です。
私が主宰を務める「人財版令和の虎」には、日々、自らの人生を切り拓こうとする熱意ある志願者が集まります。その中でも、特に私の記憶に深く刻まれているのが、46歳の内装工、老田博幸さんの挑戦です。
あの回は、まさに「人財版」の真髄が凝縮されていました。
限られた収録時間の中で、虎たちとの対話を通じて一人の大人の目が輝きを取り戻し、その立ち振る舞いまでもが変わっていく。そんな「人が変わる瞬間」を、私の視点から振り返ってみたいと思います。
(1) 46歳、内装のプロが求めた「1ランク上の未来」
老田博幸さん。46歳。
建設会社で22年にわたり内装施工管理の第一線で戦ってきた、いわば「現場の叩き上げ」です。
彼の経歴は非常にユニークでした。
千葉の建築学校を卒業後、積算事務所やカーショップでのアルバイトを経て、店舗内装の世界へ。特にドラッグストアや調剤薬局の立ち上げにおいて、150店舗以上に携わってきた実績の持ち主です。
今回の彼の希望条件は、「正社員、年収600万円」。
そして掲げたキャッチコピーは、『新時代についていくために、1ランク上に這い上がりたい』というものでした。
一見すると、ベテランによる安定した転職活動のように思えるかもしれません。
しかし、彼の願書にはどこか「危うさ」と、隠しきれない「癖」が漂っていました。
「何事においても自分で決めるんじゃなくて、周りの人の意見が正しいと思っている」「自分をあまり持っていない」
そんな自虐的とも取れる言葉を並べる彼に対し、私を含めた虎たちは、当初かなり慎重な姿勢で彼を迎え入れることになりました。
(2) 「癖あり」な初対面。現状打破への挑戦という名の葛藤
スタジオに現れた老田さんの姿に、私は正直驚きました。
スーツではなく、カジュアルなジャケットにデニム。
かつての「令和の虎」を知るファンなら、こう思ったはずです。
「もし岩井社長がいらしたら、一発で『その服はなんだ!』と怒鳴られているところだぞ」と。
私も思わず口にしました。
「最初からこの服はなんだって、多分いきなりぶち切れてると思うんですけど。もうちょい、きちんとしてこようみたいなのはなかったんですか?」
これに対し老田さんは、仕事が立て込んでいたこと、そして「スーツが体型的に入らなかった」という正直すぎる理由を語りました。
この「正直さ」が、彼の最大の魅力であり、同時に彼の足を引っ張っている「癖」の正体でもありました。
46歳という年齢、そして長年染み付いた現場仕事のプライド。
一方で、どこか自分を諦めているような投げやりな態度。
そんな彼がなぜ、わざわざこの厳しい「令和の虎」の門を叩いたのか。
その理由は、彼自身の野心のためではなく、「妻のストレスを軽減したい」という切実な想いにありました。
今の収入では、5年後に固定資産税が払えなくなるかもしれない。
自分一人の稼ぎを上げ、これまで支えてくれた妻を楽にさせてあげたい。
その純粋な動機が、彼をこの場へと突き動かしていたのです。
(3) 虎たちの「問い」が引き出す本質
収録が進むにつれ、虎たちの質問は鋭さを増していきます。
まず、株式会社CBTソリューションズ代表の野口功司社長が切り込みました。
「優秀な内装屋さんってことでいいんですよね?」
この問いに、老田さんは「優秀じゃないと思います」と即答してしまいます。
謙遜なのか、自信のなさなのか。
しかし、これまでの実績を深掘りしていくと、図面がない現場でも現調から収まりを考え、プロジェクトリーダーとして完璧に引き渡しまで持っていく、極めて高い能力を持っていることが浮き彫りになってきました。
次に議論の的となったのは、彼の「独立」に対する考え方でした。
これだけの能力がありながら、なぜ自分でリスクを取って独立しないのか。
株式会社CHAINONエンターテイメント代表の坂口貴徳社長は、彼の本質を見抜くようにこう告げました。
「能力はあるんですよ……でも、覚悟がないです。」
この「覚悟」という言葉は、その時の老田さんにとって最も痛いところを突く一言だったはずです。彼は「自分はナンバー2として実力派でやっていく方がいいタイプだ」と認めつつ、どこか逃げ道を作っているようにも見えました。
私自身、彼のコミュニケーション能力については高く評価していました。
一方で、彼が自分の「取説」を理解しているからこそ、無意識に自分を小さく見せようとしているのではないか。そんな懸念を感じていたのです。
「結構ネガティブな意味で癖ありだな、というのが私の感じたところでした」
当時の私は、彼がここからどう「化ける」のか、まだ確信を持てずにいました。
(4) 「変わる瞬間」:覚悟が未来を切り開く
物語が大きく動いたのは、後半戦でした。
老田さんが、自身の欠点として「雑さ」や「いい加減さ」を吐露した際、彼はあるエピソードを語りました。
「自分のためなら60点くらいの準備で済ませてしまうけれど、誰かに預ける仕事、誰かのためになる仕事なら、自分でも驚くほどしっかり準備をしてしまう」
この言葉を聞いた時、私は彼の中に眠る「真の強み」を確信しました。
彼は、自分のためではなく、信頼する「誰か」のために命を燃やせる人間なのだと。
私からの問いかけに対し、老田さんは徐々に、卑下するような態度を捨て、一人のプロフェッショナルとしての顔を見せるようになりました。
「丸くなったんじゃなくて、それは成長ですよ」
私がそう声をかけた時、彼の表情から迷いが消えたように見えました。
そして迎えたファイナルジャッジ。
坂口社長からは「新しいビジネスへの挑戦」としてのオファーが。
そして、株式会社山本くん代表の山本正社長からは「現場の即戦力、そして将来的な営業への転換」という、彼のキャリアの延長線上にある力強いオファーが出されました。
ここで老田さんは、これまでの「誰かの意見に従う」自分と決別しました。
自らの足で、自らの意志で、山本社長の元へ行くことを決断したのです。
「山本さんでお願いします」
その声には、番組冒頭の自信なさげな響きは一切ありませんでした。
リクルート成立。
その瞬間の彼の握手は、力強い「覚悟」に満ちていました。
「自分の性能をそのまま活かせる可能性が高いのは……」
理由を語る彼の言葉は理路整然としており、虎たちの意図を完璧に汲み取っていました。私が感じた通り、彼のコミュニケーション能力は本物でした。ただ、それを発揮するための「覚悟」というスイッチが、この対話の中で入ったのです。
(5) 「人財版令和の虎」の真価とは
老田博幸さんの回を通じて私が改めて感じたのは、「人財版令和の虎」は単なる採用の場ではない、ということです。
それは、志願者にとっての「トライアウト」であり、同時に「人生の再定義」の場でもあります。
老田さんのように、長年のキャリアの中で自分の価値を見失いかけている人は少なくありません。しかし、百戦錬磨の虎たちと本気でぶつかり合うことで、自分でも気づかなかった「自分の取説」を書き換え、新たな覚悟を宿すことができる。
老田さんは最後にこう言いました。
「会社に人を誘うというのは、結婚しようと言っているのと同じようなもんだと。こちらも覚悟を持って対処していきたい」
この言葉こそが、彼がこの短時間の収録で手に入れた最大の武器です。
EMOLVAとしても、そして私個人としても、このような「人が変わる瞬間」に立ち会えることは、この上ない喜びです。
老田さんのような「癖のある、しかし唯一無二の光る個性」を持つ人たちが、適切な場所で、適切な覚悟を持って輝ける場所を作っていきたい。
「新時代についていく」のではない。 自らの手で「新時代を創る」側へ。
老田さんの挑戦は、今この瞬間も、山本社長の元で続いているはずです。
次は、あなたの「覚悟」を見せてください。
【編集後記】 老田さんの回をまだ見ていない方は、ぜひYouTubeでその「変貌っぷり」を確かめてみてください。一人の男が、批判や問いかけを栄養にして、再び立ち上がる姿には、理屈抜きで心に響くものがあります。
(前編)https://www.youtube.com/watch?v=SRJWkjbbmCQ
(後編)https://www.youtube.com/watch?v=8QtbF6BdwQI