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子どもと芸術の出会いを豊かに。石澤久美子さんが新しい経験を面白がりながら働く理由【インタビュー】

音大を修了後、ピアノ講師として働いてきたという石澤久美子さん。その後、まったく業界未経験ながら堺市文化振興財団に転職したと聞きました。石澤さんから現在のお仕事や日々向き合っていることを伺うことで、この財団で働くイメージを共有できればと考えています。(本記事は2024年1月時点のものです。)
◎インタビュー:狩野哲也

「アートマネジメント」という言葉すら知らなかった。

ーーー数ある求人の中からこの組織に決めた理由はなんですか?

実は転職を決めるまでアートマネジメントという言葉すら知りませんでした。

先輩に転職の相談をした際に、アートマネジメントに関する総合サイト「ネットTAM」の存在を教えてもらいました。そこで堺市文化振興財団では「文化芸術を通じた社会課題の解決」や「文化芸術を通じた社会包摂」が理念として掲げられていることを知り、自分なりに調べていくと、その考え方に惹かれるものがありました。

これまでピアノ講師として生徒たちと接する中で、 教室にアクセスできる家庭環境の子どもにしか音楽の楽しさや面白さを伝えられないもどかしさをずっと抱いていて、今まで抱いていたモヤモヤと、ちょっと合致するところがあるなと思いまして。

ーーーそこに魅力を感じたのですね。事業課はどんな職場ですか?

財団全体としてはフェニーチェ堺をはじめ、市内地域会館の指定管理業務を行っておりますが、事業課はそれらの部署とは異なり、堺市の第2期堺文化芸術推進計画(第2期堺文化芸術推進計画(令和3年度~令和7年度) 堺市 (sakai.lg.jp))に基づいて事業を行う、堺市における文化施策の言わば実行部隊です。

私たちがしている仕事は、大きくアウトリーチ事業、若手アーティスト育成事業、公演事業に分けることができます。

アウトリーチ事業では、こども園や小中学校、子ども食堂といった場所が現場となります。私たちはコーディネーターとして、様々な芸術ジャンルのアーティストと一緒に、どんな内容にするかを話し合いながらプログラムを組み立てていきます。加えて、先生方やアーティストとの連絡・調整、そして本番当日のスタッフ的な役割も引き受けます。

また、若手アーティスト育成の分野では、堺市新人音楽コンクールの開催、堺市新進アーティストバンクの運営や、アーティストに向けた研修を行っています。アーティストとともに、小学校でのアウトリーチプログラムをつくる「実践研修」の他、MCや著作権、確定申告を学ぶ講座など、若手アーティストの活動を多方面から支援できるような取り組みを行っています。

公演事業は、今年度で言えば「ミュージック・イン・ザ・ダーク®」というコンサートを開催します。昨年度はギターの公演や、「三味線三昧!」と題した伝統芸能の公演を開催しました。


「学校向けアウトリーチ事業」のように、ひとつの事業の中に複数の本番があることが多いので、まるまるひとつの事業を担当するというよりかは、分担の中で本番毎に担当が決まっていく状況です。お互いが何をやっているかも常にオープンな環境ですし、ちょっとした事でも話し合いながら仕事をすすめることができています。

現在のメンバーは、堺市役所からの派遣で財団にきている課長、常盤係長、その下は土田さんと私、昨年11月から加わった職員、そしてアルバイト職員の全6名です。少人数の部署ということもあり、先に述べたように、何でも話し合える雰囲気で仕事ができています。

上司との関わり方もトップダウンではなく、常にともに考えようとしてくれていますし、私たち部下の意見も尊重してくれる環境なので、自分が事業に関わっているというモチベーションにつながっています。

日頃の雑談で意見が言える環境

ーーー最初はどんな仕事からスタートしましたか?

堺市新人演奏会(現 堺市新人音楽コンクール)が最初の大きな仕事でした。
50名近くの参加者がいるので、その方たちが良いコンディションで演奏していただけるように、そして審査を滞りなく進めることができるように、先輩の土田さんに教わりながら準備を進めました。

ーーーステージ上でピアノを演奏する側の人でもあるから、アーティストの気にしていることに目が届きそうですね。

そうですね。自分の経験や経歴に近いところから仕事をはじめられたことは良かったかなと思います。実は、新人演奏会からコンクールと名称を変えたのも、私の意見が取り入れられたものなんです。簡単に説明すると、新人演奏会は発表やお披露目の場であり、コンクールは審査を受ける場です。当初は新人演奏会という名称どおりの形態でスタートしながらも、長い歴史の中で次第に実態がコンクールに変わっていったのだそうで、それが現在、外部から見ると分かりにくいと感じました。

そこで「演奏する側の視点で見れば、新人演奏会とコンクールは別物なので、改名しませんか?」と2年目に提案しました。

ーーーすごい、50回ぐらい続いている事業の名称を変えたんですね。

そうですね。でも会議の中で提案するようなおおげさなものではなかったです。普段の雑談の中からいろいろ生まれていくことも多いので、とても風通しのいい職場だと思います。

自分の中で「子どもと芸術」が大きいテーマ

ーーーやりがいを感じるのはどんなお仕事ですか?

全ての事業それぞれに面白さややりがいはあるのですが、個人的には「子どもと芸術」が大きなテーマで、アウトリーチ事業には特に思い入れがあります。


子どもと芸術が出会う現場に立ち会えることに、大きな喜びを感じています。

芸術ってなんだか難しい、と思われがちですが、例えば子どもがコンテンポラリーダンスを見て、 分からないなりに「すごい!」と目を輝かせるわけです。

アートの世界に没入しているな、と感じることがあって、その「出会い」を生み出せた時にやりがいを感じますね。

さまざまな立場の人と関われるのが財団の強み

ーーー仕事の中で難しいと感じる部分はありますか?

難しいと感じる部分は、同時に財団の強みや仕事の面白みにつながっていくところだと思うのですが、とても多様な立場の方とコミュニケーションする機会があるところです。

先生、子ども食堂を運営されている方やそこに集う子どもたち、行政職員、さらには、おつき合いのあるアーティストさんのジャンルも多岐にわたりますし、私たちはコーディネーターとして、さまざまな「言語」を身につける必要があると感じています。

というのも、芸術分野の専門用語を学校の先生にそのままお伝えするわけにもいきませんし、他方で学校でのプログラムをつくることは、ホールでコンサートを開くこととは違います。

アートコーディネーターは、異なる言語や文化を持つ2者の間にたって、翻訳をするような仕事なんです。

加えて、学校や子ども食堂の現場では、いわゆる発達障害に関する困りごとを抱えていたり、経済的に厳しい環境の子がいたり、福祉的な領域への関心も必要です。

さまざまな「言語」を習得する難しさはいつも感じていて、知識と経験を蓄え続けることに貪欲でいなくてはならないと思っています。

先生とアートプログラムの橋渡しができた

ーーー自分で成長を感じている点はどんなところですか?

「さかいミーツアート」という事業(小中学校に向けたアウトリーチ事業)では、先生からのご希望を元にヒアリングを行い、実施するプログラムを決めます。


先生方の思いに寄り添ってお話を進めたいな、と考えているので、事前に用意してきた説明をそのまま読み上げるだけでは上手くいきません。それに、先生方の口から語られていることと潜在的な思いに「ずれ」があることもあります。ですので、プログラムの形は対話の中で見つけていくことになります。

在職2年目になって、ようやく先生とアートプログラムの橋渡しができた、と思う瞬間が増えてきて、それは個人的には印象的というか、成長を感じた瞬間でした。

ーーーいいですね。プログラムはどんなことをされるのですか?

例えば、先生とお話する中で、事前にお聞きした希望とは異なるプログラムを提案したことがありました。

お話していく中で、先生方がクラス運営のどういう部分に悩んでおられるかが分かって、より適任だと思うアーティストを提案することにしたのです。その時は、表現教育家の岩橋由莉さんに来ていただくことになりました。

ーーー先生方はどんなことに悩んでおられるんですか?

先生からお話を聞くと、生きづらさを抱えている子どもや、愛着に問題を抱えている子どもが多い状況でした。それって外部の人間には、言いにくい話題だと思うんですよね。

岩橋さんは日頃、演劇的手法を用いながら「あそび」を通じてコミュニケーションを重ねていくプログラムを作られていて、そういう「難しい」テーマをアートの切り口から解決に近づけていくような方で、まさにぴったりでした。
実は本番はまだこれからなのですが、子どもたちが表現活動を通してどんな表情を見せてくれるのか、楽しみにしています。

新しい知識や経験を面白がりながら仕事できる人といっしょに働きたい

ーーー今回の職員募集ですが、どんな人と一緒に働きたいとか、どんな人が向いてそうとかありますか?

私は音楽分野のことは多少の知識と経験がありましたが、他の分野のことや事務作業は素人同然の状態でした。そんな私でも続けてこられたのは、周囲の人に助けてもらいながらも、新たな世界を知ることが楽しかったからだと思います。

新しい知識や経験を面白がってくれる人と一緒に仕事ができたらうれしいです。

取材時の撮影:中田絢子 編集・執筆:狩野哲也

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